第五章 81  祭典開幕



 アヤ達Bランク組と、俺とエリユズの対Sランク同士の興行試合の日になった。結局ギルドでわざと大暴れしたのと、アヤ達のレベルがSランク以上という問題もあり、Aランク相手との昇格試験は無意味だということになって、一気にSランク相手の昇格試験を兼ねた、前代未聞の、こちらもある意味興行試合となった。

 昨日マリーさんがわざわざ城まで伝えに来てくれたのだ。何でもステファンがかなりイキって、他国のギルマス達を黙らせたらしい。あのときもかなり煽ってたしなあ。まあレベル差から考えてAランクとやるとデコピン一発で終わるし、神格持ちとでは勝負にすらならない。ずっと人外を相手にしてきたせいで、こういう普通の人族の基準に当てはめると規格外になるのは目に見えているんだけどね。これはこれで困ったもんだが、仕方ない。でもSランクになっとけばギルドの仕事は報酬が良いものを選びたい放題だし、人として暮らしている以上、お金はたくさん稼げるに越したことはないしね。

 お祭りは昼過ぎからだが、城下は朝からかなり盛り上がっている。俺達は準備ができ次第お城の使いの人達が迎えに来てくれるらしいので、相変わらず俺の部屋が溜まり場になっている。適当に食事も済ませたし、まったりとみんなでお菓子をつまみながらお喋りタイムだ。そして何故か今朝からアリアを見かけない。何か変なことやってそうで不穏だ。嫌な予感しかしない。


「なあ、アリアはどこ行ったんだ? あいつは放って置くと碌なことしかしないからな……」

「うーん、今日は大事な用事があるって朝から出かけたみたいだよ。何かサプライズがあるとか言ってたけど。何なんだろうね?」


 アヤは朝出会ったのか。サプライズね…嫌な予感しかない。


「あいつはギルド登録してる訳じゃないからなあ。どこで何してようが構わんのだが、サプライズとか言ってる時点でもう何か変なことを企んでるとしか思えないよな……」

「まあアリアさんだからねえー」

「何かおもろいことやってるんじゃないのか?」


 エリユズは慣れたもんだな。いいんだろうかこれで?


「アリア様はいつもマイペースですよね」

「良い意味で奔放ですよね、アリア様は」


 ディードにアガシャ、そりゃまあいい加減慣れるよな……、一緒に生活してるんだし。それにティミスと比べたらマシに決まっているけどな。


「アリア様って神様なのに面白いよねー。この前不思議な言葉を教えて貰ったのよ。えーと、チョベリグでバッチグーで、えーと…何だったっけ?」

「チェトレ、それは俺が元いた世界の太古の言葉だ。マネするとこの人は一体何歳だろう?っていう古代人を見る目で見られるから、化石と思われたくなかったらマネはするな」


 あいつは何を吹き込んでやがるんだ。チェトレも素直だからなあ、だからと言ってあんな昭和ノリに染められたら堪ったもんじゃない。念話も飛ばしてはいるのだが、返答がない。ますます怪しい。


「でもアリアはあんまり神様らしくないのさー。多分魔神だったときの本能みたいので神様には構えてしまうけど、アリアにはそういうのが全くないのさー」

「それは褒めてるのか微妙な感じだな、イヴァ。ま、あいつが神様ぽくないのは初対面からだったけどな」


 そう言えば最初から昭和ノリをぶっ込んで来てたもんなあ。今更ながら相当あの時代のノリが気に入ったんだろうな。変なやつだ。でもあいつが見つけてくれた御陰でこの世界に戻って来れたし、感謝はしないとなんだよなー、変な体質にしてくれたのは別として。


「この世界に戻って来るときってどんな感じだったんですか? 兄貴」

「アジーン、兄貴はやめろー。そうだなあ、すげーキラキラした眩しい謎空間に気が付いたらいてな。多分アレがアリアの神域だったんだろうな。そこで「探してた」とか言われて、キュアルガで病気も治してくれた。それからなんか色々要望を聞いて叶えてくれたんだが、目覚めたらこの見た目だ。その時は何でこうなったかとか訳わからなかったけど、あいつなりの善意でやってくれたことなんだろうし、もう気にしない様にしてる。俺を探してた理由も時間かかったけど理解できたしな」

「あ、私もその謎空間に行ったんだよね。記憶は封印されたから忘れてたけど」

「そうだな、アヤもこの世界に戻るときはアリアに会ってるんだもんな」

「しっかしなあー、5000年の悲恋とか最初に知ったときはキツかったわー。やけど今がいいならそれが一番やなー。神様もなかなか粋なことをしよるわー」


 うーん、ルティのこの関西弁に聞こえる言語は一体何なんだろうなあ? 何回聞いても不思議で仕方ない。こいつは神格に宿っているときに俺の記憶を勝手に見たんだろう。ルティはその内アヤの召喚対象として譲渡した方がいいだろう。ランクは下がるが、武器として使用するのには問題はないしな。

 因みにここにいるバトル組、神格持ちは全員、アリアの魂の制約ギアスは自動的に解除されている。もう神格者だし、ぺらぺらと俺達自身の重要なことを他人に話すこともないだろうしね。ルティは精霊だし、人族とは違うしな。

 ウチのメイド組と何故かアガシャはこの城のお手伝いなどを進んでやってくれている。お祭りで忙しいし、給金も出るらしいし、じっとしている方が落ち着かないんだと。ジャンヌ改めピュティアが気になるけどね、ドジやって損害を出してなければいいんだが。母さんは親父と城下をデート中だ。何だかんだで仲良いもんだな。何故あの正反対の様な二人が夫婦なのか、未だに謎だけど。それに今更聞くことでもないしな。


「さて、もう一度確認な。Sランクとはいえ、相手は普通の人族。神の流派を当てるのは絶対ヤバい。龍帝拳りゅうていけんも然りだ。使うときは相当手加減すること、神気は防御はいいとして攻撃には使用禁止だからな。イヴァも聖剣技せいけんぎをぶつけるなよ。基本相手に合わせて、技術や戦術を盗む方向でいこう。フィニッシュは武器破壊か峰打ち、気絶させる様に立ち回ろう。レベル的には下でも学ぶ点はあると思う。クラーチでのAランク昇格試験みたいにボコボコにしない様にな。相手は普通に冒険者としてSランクまで上がった連中、レベル差があっても舐めてかからないこと。取り敢えず俺からはそのくらいだ」

「仕方ねえ、殺す訳にはいかないからな。手加減しながらやるぜ」

「そうねー、本気でやったらマズいもんねー」


 エリユズ、理解が早くて助かるよ。


「うん、相手の出方を見ながらうまく合わせてやってみる」


 アヤはさすが、よくわかってる。


「龍帝拳はナシかー、俺はうまくできるかちょっと不安っす、兄貴」

「兄さんは不器用だもんねー。でもカーズの創ってくれたアレでワンパンよワンパン。ねえカーズ、ちゃんと上手くやったら勿論御褒美くれるんでしょ?」


 この兄妹は……、兄貴はやめろ。そしてチェトレの御褒美とか嫌な予感しかしない。


「アジーン、対人だとこういうこともある。んでチェトレの御褒美って何だ? 美味い食いもんか?」

「うむむ……」

「それはあれよ、勿論カーズと私の間に子ど――むぐっ!?」

「チェトレは後で私とゆっくりお話をしようかー?」


 考え込むアジーンの横でいらんことを口走ったチェトレの口をアヤが塞いだ。まあそろそろ怒られる頃だろうとは思ってたけど。


「チェトレ、わたくしからも色々とお話がありますからね」


 ディードも笑顔で怖いオーラを出してるが、何でお前が怒るんだ?


「ははは、もう恒例になってきたわねー」

「カーズも大変だな……」


 エリユズ、笑って済ますな。本当に大変なんだからな。


「父上は人を惹き付ける魅力がある。それがよくわかってきましたね」

「うーん、まあみんなが揉めるきっかけにならなけりゃいいけどなあ」


 説教されているチェトレを気の毒だなあと思う。


「カーズ、聖剣技が使えないとやりにくいのさー」


 イヴァが猫みたく膝の上に乗って来る。何となく猫耳をモフモフと撫でてしまう。


「相手の技を相殺するくらいなら別にいいぞ。でもアレはかなり強力だからなあ。演武で斬りかかったら確実に死ぬぞ、俺でも危なかったんだから。アレを破れる相手がいるとは流石に思えん」


「むぅー、仕方ないのさー。なら――」

リミット・ブレイク限界突破ビースト・モード猛獣形態もだぞー」

「言おうとした瞬間に言われたのさ…、まあ何とかするのさ」


 溜息を吐いて、しぶしぶ納得してくれた。剣聖の剣技だけあって強力過ぎる上に、能力の底上げスキルなんて使わせられない。相手が魚みたく三枚おろしになる未来しか見えない。


「相手には失礼だが、これはハンデ戦だ。この前の竜王兄妹解放のときと同じで、相手自身が人質だということが今後もあるかも知れない。そのときの立ち回りを再確認する上でもいい機会だ。一撃で終わらせるのは勿体無い。相手から何かしら学んだ上で勝負を決めること。だが負けるのは論外だからな。それでいくぞー」

「「「「「「「「オッケー!」」」」」」」


 うん、息ぴったり。まあみんな上手くやるだろうさ。


「ウチはまた見学かー、ちょっと残念やわー」


 ルティの気持はわかる。さっさとアヤに譲渡してしまうかね。


「なら契約をアヤと切り替えるか? ランクは下がるが基本武器として闘うんだし、アヤと霊力を常に同調させとく方がいいだろ?」

「んー、せやなあー。ランクはアヤがウチを召喚し続けてたら勝手に上がるやろうし、一時的に力は落ちるけど一緒に闘える方がええなあ。わかった、ならアヤと契約するわー」

「うん、これからよろしくね、ルティ」


 てことでアヤとルティの契約を済ませた。まだ召喚はBランクだが、常時召喚していても熟練度は上がる。超成長の恩恵もあるし、すぐSランクくらいはいくだろうさ。


 そうやって過ごしていると、部屋の扉がノックされた。呼び出しだ、漸く出番ってことだな。


「カーズ様とその御一行様方、いらっしゃいますでしょうか?」


「はいはい、すぐに準備します」


 ・

 

 ・

 

 ・


 こうして俺達は城の関係者に連れられ、短い距離だが馬車で移動。人が溢れてるから仕方ないのだろう。ギルドの裏手に回り、闘技場の入場口から徒歩で会場、舞台上へと歩く。俺達が姿を現すと、もの凄い大歓声が鳴り響いた。さすがクラーチよりも大きな国だ。観客の数も比較にならない。先日見せ稽古をしたときは広いなとしか感じなかったが、こうやって超満員の観客を見ると規模の違いが良くわかる。

 先に舞台上で声援を浴びていた、ここや他国のSランク冒険者達も此方を見て来る。どうやら一斉に鑑定してきたみたいだが、俺達の方がランクが上だ。全て弾かれ、隠蔽いんぺい偽装フェイクでまともなステータスなど視えていないのが困惑した表情に出ている。まあ闘いは既に始まっているってことかな? 

 一応手を振って此方も歓声に応える。うーん、超満員の観客、いいね。8万人くらいは入っている。俺の父さんはいつもこんなスタジアムで試合をしてたんだよな、今更だが尊敬する。

 全世界が注目するとは言っても、みんなが入れる訳じゃない。そういう人たちの為に、魔法ビジョンというテレビの様な映像装置で他国に配信するらしい。まただよ、またオーバーテクノロジーみたいなの出て来た。まあ聞いてはいたけどね、確かに観客席のあちこちでテレビカメラみたいなのを魔導士ぽい人達が稼働させている。魔力が途中で切れても待機している人と交代して撮影するんだろうな。




「来やがったな、邪神殺しのカーズ! Aランク試験をすっ飛ばしてSランクと昇格戦とは……、裏でどんな汚ねえ手を使いやがった!?」


 よくわからないハゲ頭がいきなり啖呵を切って来た。誰だこいつ?


「えーと、どちら様? 俺にそんな若くてハゲた知り合いはいないんだが……」

「ガノン・ドロフィスだ! クラーチで一回会っただろうが!?」


 あ、あー、あのケンカ売って来たSランクのチャラい青ロン毛かー。小物過ぎて完全に忘れてた。仲間達は覚えていたらしく、大爆笑が巻き起こる。


「ぶっ、あー思い出したよ。見た目が全然変わってて気づかなかった。ごめんごめん、ハハハハ!」


 腹を抑えながら必死に笑いを堪えようとするが無理だった。暫く笑いが止まらなかった。


「くっ……、貴様が俺に邪神の呪いをかけたんだろうが!?」

「そんなハゲる呪いなんて聞いたことないけどなあ……」


 勿論俺が毛根破壊の創造魔法を撃ち込んだせいなんだが、知らんぷりだ。まあ仲間は俺のこの魔法を一番恐れているくらいだし。我ながら何とも酷い魔法を創造したものだ。とまあそれはさておき、このいきり立っているハゲはどうすればいいんだろう。周囲や会場からも笑い声が聞えて来る。可哀想になあ。

 

「貴様は俺が直々に殺してやるからな! 逃げるなよ!」


 あー、面倒くさい。毎回なんでこういうのが絡んで来るんだよ。エリユズ達もピリピリしてきたし、一発ビビらせて終わらせよう。近づいて少し魔眼の魔力を解放し、ド田舎のヤンキーみたいに超至近距離からメンチを切ってやる。


「上等だよハゲ。たかが1300の小物がイキるな。吠えればそれだけ自分が弱いと言ってるようなものだ。どうせお前の鑑定じゃあ視えなかっただろう? 特別に教えてやるよ、俺のレベルは4550、それに邪神邪神とあんな雑魚相手に騒ぎ立ててるが、既に堕天神も葬ったせいで俺の称号は神殺しゴッド・スレイヤーだ。直前になって臆病風に吹かれるなよ」

「くっ…、何だ、体が…?! くそっ、いいだろう…貴様のハッタリは全て暴いてやる……!」


 魔眼で軽く縛ってやった。暫くは歩くのも困難だろう。まだ吠えているが、もう相手にしても仕方ないので、仲間のところに戻る。まあ俺があんなところで暴れるとは思ってないだろうから、みんな笑いながら迎えてくれる。ハゲは身動きが取れないので、他の冒険者達に担がれて運ばれて行った。


『えー、マイクテステス! 会場の皆様聞こえますでしょうかー? これより世界中が注目する不定期イベント、Sランク同士のエキシビジョンマッチをお送りいたします! 実況は今回Sランク昇格も兼ねた九人が参加している西大陸ウエストラントの中立都市リチェスターの受付嬢、マリーことマリアンナがお届けいたします!』


 ん? マリーさんの声だ。どうやら俺達が入場して来た会場の上の方に実況席があるようだな。


『そして解説は最速でSランクに昇格した、我がギルドの英雄カーズ・ロットカラー選手の双子の姉であり師匠でもある、アリア・ロットカラーさんに来て頂きました! アリアさんよろしくお願いしますねー!』

『ハーイ! ハロハロー! みなさんお元気ですかー? 素敵なお姉さんアリアでーす! 今日は残念ですけどウチの子達の一方的な試合になりますよー。アハハー、マジウケーw 他国のSランクの方々は死なない様に気を付けてねー、チョベリバなことになりますよー!』


 ガクッ!


 俺達は全員その場でずっこけるかと思った。こいつは……これの準備をしてやがったのか? しかもアレは魔道具じゃない、完全に創造したマイクそのもの。スピーカーもないのに会場中に音が響いて来る辺りは魔改造しやがったな。内部にラウダー・ヴォイス声量増加を仕込んである。


「これかーサプライズってのは……!? 相変わらず斜め上を行くことをやりやがって…」

「アハハー、さすがアリアさんだねー。これは確かに面白いかも」


 アヤはこういう文化を経験しているからまだいいけどなあ。これは恐らく今迄誰もやったことがないんだろうな。会場のざわつき方が半端ない。


『そしてゲスト兼コメンテーターで、同じくリチェスターのギルドマスター、ステファンにクラーチ国王フィリップ様にも来て頂いてます!』

『うむ、我がギルドの期待の精鋭達の晴れ舞台。しかとコメントさせて貰おうかの』

『私にとってもカーズ、アヤに国を救ってくれた英雄達の晴れ舞台だ。存分に応援しよう!』


 こいつら完全に悪ノリしてやがる。絶対にアリアの企みだな。しかもここアレキサンドリアの国王を蔑ろにしてやがる、怒られるぞ。


「おいカーズ。アレは大丈夫なのかよ?」

「完全に身内で固めて来てるわね……」

「アリア様、相変わらずの行動力ですね……、しかもかなり他国のSランクを煽ってますし…」

「さすがに少し不安になってきましたね……」

「ニャハハー、アリアはやっぱり面白いのさー」

「おおう、これは燃えて来るな!」

「そうね、サクッとSランクをぶっ飛ばしてやるから!」


 血の気が多いエリユズがまともに見えるくらい、イヴァと竜王兄妹はやる気になってしまった。アヤとディード、それにアガシャはいつも通り落ち着いてるけど。


(おいこら、バカ女神! お前は何やってんだ!?)


 念話を飛ばす。


((* ̄▽ ̄)フフフーッ♪ どうですかー? この完璧な盛り上げ! これでテンションもアゲアゲですよー! オホホホホー!!!)


 ダメだ、完全に調子に乗ってやがる。ああなったらもう止められない。諦めよう。もう知らねw


『では選手の方々はそれぞれ会場の待機場所でお待ち下さい。これよりルール等の説明をさせて頂きます―――』


 俺達の案内された待機席にはクラーチの王族、兄姉のアランとレイラ、護衛だろうけど騎士団長のクレア、そしてクラーチのギルドのカレンさんとパンチパーマのいかついギルマス、パウロが揃って座っていた。またこの組み合わせかよ!? あいつらこの国乗っ取る気じゃないだろうな……? 軽く挨拶を交わし、VIP席の様な場所に座る。


『――そして、アリアさんが創ってくれた、舞台の近くにある雪だるまの様な水晶、この『ダメージ肩代わり君』という魔道具がダメージを各自のHP分、肩代わりしてくれますので、相手に直接攻撃を叩き込んで貰っても大丈夫です。この『ダメージ肩代わり君』が砕かれればそこで勝負アリとなります! 今迄はこんな魔道具はなかったので、一撃が決まるか、戦闘不能までというルールでした。しかし、今回は手加減一切ナシで高ランクの立ち合いを見ることができますよ! いやー、さすがはあのカーズ選手の姉であり師匠ですねー!』


 おいおい、俺達が頑張って考えた戦闘プランがあっさり台無しにされたぞ。あの作戦会議は何だったんだよ? うーむ、まあでも手加減せずに剣を交えられるのは気が楽だな。観客も大興奮だし、もうなるようになれ。


「アリアのバカのせいで俺達の作戦はおじゃんだ。でも相手の技術を学ぶことは忘れないでくれ。あと過剰ダメージOVERKILLを叩きこむなよ。フィニッシュは一撃でキッチリ仕留めること、いいな、みんな!?」

「「「「「「「「りょうかーい!!!」」」」」」」」


『いやー、それ程でもー……あるけどー! みなさん楽しい試合を見せて下さいねー! 一応観客席などには滅多なことでは壊れない結界を張っておきましたからー、観客席には被害はいきませんよー』


 あいつは後でどこかに埋めてやろう。さて最初はウチのBランク組が先だったはず。誰からかな?


『えー、では盛り上がってきたところで、第一試合はリチェスターBランク、イヴァリース・ニャンとローマリア帝国Sランク、サウロン・ヴァレックのSランク昇格をかけた前代未聞の対戦です! これはギルドで厳正な審査の基に決定されたことです。ウチのBランク選手達は全員1500以上のレベル、平均100レベルのAランクと試験試合をすることが既にナンセンスなのです!』


 まあ確かにその通りだけどなあ、マリーさんアナウンス上手いな。ノリノリな上にかなり練習したな。楽しそうで何よりだよ……。しかもアウェイに近いこの状況で、自国の低ランクの名前を先に呼ぶ時点でね、なんかもう色々とおかしい。

 喜び勇んで舞台に向けて歩き出したイヴァに、みんなが声を掛ける。


「剣聖の実力、見せつけて来いよー!」

「ニャハハ、わかったのさー!」


『ではそれぞれの舞台の左右に置いてある『ダメージ肩代わり君』に、一滴自分の血をつけて下さい。それによって、各ステータスやHP残量が記憶されて、稼働し始めます』


 両者が親指を噛んで、一滴血を垂らすと青白かった雪だるま型の水晶が赤く光り始めた。あれで起動したことになるのか。また面白いものを創ったもんだな。そしてそのまま舞台へと飛び乗る二人。


『じゃあイヴァがどんな子なのかアリアがお伝えしますー。剣を使わせたら双ぶ者無し、剣聖の称号を持つ、聖剣士ディヴァイン・セイバーで元魔神。南東部に位置する第一大迷宮で眠っていたところ、カーズが呪いを解いて人としての記憶を取り戻したという、禍々しいエピソードと打って変わって我が家のペット的な存在ですよー』


 あいつ、魔神とか普通に言いやがった。そしてまるで説明になってないぞ……。


『対するサウロン選手は、勿論Sランク。暗黒騎士ダークナイトという闇の力を使って闘うという、珍しいジョブですねー。アリアさん何かわかりますか?』

『ウチの猫ちゃんと正反対のジョブと言っていいでしょうねー。そしてふむふむ、あの剣は魔剣アロンダイトと言うんですねー。呪いと言う程の力はありませんが、魔剣に相応しく闇属性の剣ですねー。ウチのエリックのなんちゃって魔剣とは少々違いますねー。更に黒一色で固めた全身鎧、いいですねー! 厨二心が刺激されますねー!』


 なんつーひでえ解説だ。しかもバルムンクをディスりやがった。本当に呪いがあったら困るだろうが。エリックも頭を抱えている。しかしアロンダイトか、確かアーサー王伝説、円卓の騎士ガウェイン、いやランスロットの魔剣だったはず。この世界にはひょっとしたら地球の伝承の神話武器が本当にあるのかも知れないな。


『では第一試合、イヴァリース対サウロン開始!!!』


「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」


 アリアが色々とやらかしてくれたが、取り敢えず何とか大歓声の中で俺達のSランク昇格試験と興行試合を兼ねた祭典は開幕した。無事に終わるんだろうか、これ……。












------------------------------------------------------------------------------------------------

今迄が殺伐としていたので、

この章は今のところゆるく楽しく進めていきます・・・予定です今のところ。

今回のイラストは此方、

https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16817330660775739577

そしてこの世界ニルヴァーナの世界地図は此方、

https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16817330663401227939

これまでの冒険と照らし合わせて見てみて下さい。

 そして『アリアの勝手に巻き込みコーナー』は此方です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330653661805207

 アリアが勝手に展開するメタネタコーナー。本編を読んで頂いた読者様は

くすっと笑えるかと思います(笑)

 そして設定資料集も作成中です。登場人物や、スキル・魔法・流派の解説、

その他色々とここでしかわからないことも公開しております。

ネタバレになりますが、ここまでお読みになっていらっしゃる読者様には、

問題なしです!

『OVERKILL(オーバーキル) キャラクター・スキル・設定資料集(注:ネタバレ含みます)』

https://kakuyomu.jp/works/16817330663176677046

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る