第四章 79 恒例の大宴会・更なる飛躍へ
メキア奪還、魔王領の激闘から数日が経っていた。堕天神二体を斃し、魔王の討伐(殺してはない)にメキア・魔王城での死闘とある意味世界の危機を未然に救ったことにはなった。そういうことで約束通りクラーチ王国で祝宴が催されることになっている。今は俺達の休養も兼ねてリチェスターの屋敷でお気楽生活。怒涛の展開過ぎたから、頭が追い付いてないんだよなあ。
どうも他国の王族やらお偉いさん方も俺達の噂を聞いて、各国の王城へと設置された魔導具の転移門からやって来るらしい。また変なことに巻き込まれないといいけどなあ。ぶっちゃけ特異点の特性として、最早諦めてるけどね。しかしそんな便利なものがあるなら最初から使わせて貰いたいものだが、両国の同意がないと機能しない、使用できない仕様らしい。まあそりゃそうだ。各国に侵入した賊みたいな奴らが自由に使えたら世界は大混乱だしな。まあこういうのはアリアが上手い事関与してるんだろうが、この転移門システム、一瞬で大陸を超えて転移できるらしい。地球のコンコルドよりも速い。オーバーテクノロジーとは何ぞや? と考えるのも面倒くさくなってくる。それに便利なことに変わりはないし、気にしないでおこう。
今回も大変だったし、祝宴の準備迄の間は各々自由行動して英気を養っているところ。俺はアヤと一緒にリチェスター北部の港で魚釣りをお気楽にやっている。海は綺麗で澄んでいるし、地球で釣れるアジやらサバやらタイが釣れるし、得体の知らない巨大魚も釣れる。前世では良くガキの頃から親父と母さんとピクニックがてらに行ったし、懐かしさとともにリラックスもできて良い感じだ。超成長の御陰か、いつの間にか覚えた釣りスキルも勝手に上がっていく。釣りは技量だけで魚との駆け引きを楽しみたいんだけどな。何でもスキル化されるのはちょっと微妙だと思う。
次代の竜王の兄妹も助けられたことで特異点の数も2つ減少。勇者の意志に覚醒出来ないジャンヌは特異点ではないということで、トータルで3つの特異点がなくなった。世界への影響も少なくなるだろう。
ダカルーのば-ちゃんは竜王の里の復興があるため、PTを抜けた。
「世話になったのう、後はこの二人をビシバシ鍛えてやってくれ。これで儂はお役御免じゃ。里に来るときは歓迎するぞい」
と、アジーンとチェトレをここに残して帰郷した。鍛錬のときに体術勝負で負けてるし、次に再会するときはリベンジマッチといきたいものだ。
エリユズも師匠のルクスとサーシャが天界に一時戻って、ティミスの処罰のことや、この世界の報告を行っているので、ひとまずは我が家に戻って来ている。神格の扱いを今回はアリア初代師匠に習っているところだ。んで、残りのアガシャ、イヴァ、ジャンヌ、アジーンにチェトレは俺がギルドに連れて行って冒険者登録をさせたのだが……。ジャンヌはへっぽこに逆戻りで実技で落ちた。本来なら魔王が消える際に、同時に神域へと戻るらしい。人族の間で勇者の力を悪用させないためらしいが、このへっぽこさんは誰に利用されることもないだろうということで、結局リアやユウナギ、ククリに母さん達と屋敷の家事をドジをかましながら楽しくやっている。
神域に戻れない、無理矢理戻す訳にもいかない以上、放って置くわけにもいかないし、へっぽこ過ぎて冒険にも連れて行けない。名前で正体がバレて大騒ぎになる可能性もあるということで、改名。ジャンヌを貴族姓にして、アリアの偽造貴族カードで『ピュティア・ジャンヌ』という名前を俺がつけた。特に意味はない。響きが可愛いというだけ。勇者にあやかろうと貴族姓を『ジャンヌ』にする人も多いらしいので、これで目立たないだろう。過酷な運命を背負った伝説の人物。今後は、勇者や聖女の役目から解放されてのんびり過ごして欲しいものだ。ついでにイヴァと竜王兄妹にも貴族カードを渡した。竜王の里のシステムを知らない人もいるだろうしね。イヴァは『イヴァリース・ニャン』というとてもふざけた貴族姓にしていた。まあもう何でもいいや。
因みに他の四人はあっさり合格。PTも組んであるし、アヤ、ディードと同じBランクまで昇格。Aランク昇格試験の資格も手にした。クラーチの冒険者は俺が壊滅させたせいで、次は
それに他国のSランクがどの程度の実力なのか興味はある。祝宴後に
あれ以降、ファーレとナギストリアの姿はこの世界に見当たらないとアリアが言っていた。なのでこちらから撃って出ることもできない。こういう時はのんびりするに限る。たまには冒険者らしく普通の冒険もしてみたいしね。慌ただし過ぎる日々とは暫く、いやできれば永遠におさらばしたいものだ。
「あっ、引いてるよナギくん!」
「おっと、こいつは大物だ!」
グイグイと魚の引きが竿から伝わって来る。うーん、この感触がたまらんなあ、釣りは。アヤは二人きりでイチャついてるときは本名で呼んでくる。クソ親父に母さんも本名呼びだし、今更気にしない。リールを巻いて、暫く格闘した末にデカいブリが釣れた。ここリチェスターは結構温暖な気候なのに、なぜ日本の北陸で釣れる魚がかかるんだろう…? まあいいか、今夜は刺身に寿司だ。
「結構釣れたし、そろそろ帰ろうか?」
「そうだね、私も釣れたし楽しかったよ」
この短期間に人数が増えたので、屋敷の部屋はもう満員だ。ということで、アリアが三階建てにあっさり改造してくれた。こういう辺りはやっぱ神だわ。空間魔法とかの応用で二階の部屋と同じ造りを
話しながら歩くリチェスターの街。二人で時計台を見上げる。
「あの街そっくりだよな、この時計台」
「うん、すごい偶然だよね」
「俺達の因果の歪みがこの街にも変化を及ぼした、とかね」
「そうだね、不思議なことばっかりだし、この世界」
まあ気にするだけ無駄だ。当時の思い出の街と同じものがあるっていう程度に思っておこう。暫く時計台を見ながらお喋りし、そのままその日は家路に着いた。
晩は釣った魚にみんなで舌鼓を打った。刺身も寿司も最高だ。調味料も地球と同じ様なものがあるし、味には事欠かない。
祝宴は明日という国王からの念話を受け取り、その日は眠りに着いた。
翌日、屋敷のみんなで王国に転移。恒例の祝宴となった。毎回何かある毎にここで宴会になりそうだ。まあ一応親族だし、気にしないでおこう。親父は前以て此方に送っておいたので、数日振りの再会だ。今回は特にドレスコードもなく、いつもの冒険者の装備で参加。ウチのメイド陣も私服だ。
いつもの様に、この度の世界的な危機を救った功労者ということで壇上で表彰を受ける。他国の国王、王族達や有力な貴族からも褒賞を受けた。実際の勇者様は正体がバレると困るので、既に役目を終えて天へ戻ったということにしておいた。
「それならばカーズ、其方が勇者を名乗ってくれぬか?」
とか、またしても残念王が意味の分からないことを言い出したので、全力でお断りした。自分の義理の息子に箔をつけて自慢したいんだろうけど、クラーチの戦力として他国から変な目で見られたくはない。俺達の持っている神格の力は強大過ぎる。人類間の揉め事に発展する可能性もあるため、当然辞退だ。多少まともになったかと思ったが、うん、変わりないなこの国王は。
その後も他国の王様やらがウチに仕えて欲しいとか言い出したが、全てお断りした。どこかの国に神格持ちが加担したら、まさに丘の黒船。世界のバランスが壊れかねない。俺達はあくまで中立。それに過ごし易いリチェスターから出るつもりはない。各国で魔人・悪魔などの被害が出そうな状況の時だけ、その国で活動する、協力を惜しまないという条件で納得してもらった。その後も他国の貴族達が雇いたいとか声を掛けてきたが、全てシャットアウト。人類とはまあ何とも欲深いなと、改めて実感した。
漸くそういうものから解放されて、仲間みんなで一つの大きなテーブル席に着き、飲み食いできる。あーいうのは毎回思うけど慣れないもんだな
「えーと、じゃあイヴァにアジーン、チェトレ、それにジャンヌ、じゃなかったピュティアも加わった。これからも色々あるだろうけど、みんなで乗り越えて行こう。そして今回の危機を無事回避できたということで、乾杯!!!」
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
「はぁ、やっとのんびり過ごせるな」
無自覚に愚痴が出た。まあこういう所は俺も人間だ。
「まーな、褒美はありがたいがどっかの勢力に着くとかは勘弁して欲しいぜ」
「そうねー、それに王族に仕えたら楽しく冒険できないしね。型っ苦しいのは嫌よ」
エリユズが一緒に愚痴を吐く。まあこの二人はずっと一緒に行動してきた分、俺の意見や考え方に同調してくれる。因みにアリアは既に大量の料理を無言で平らげ始めている。ブレないな、こいつは。
「しかし…、魔王化されてたのに俺達までこんな歓待を受けてもいいんですか? カーズの兄貴」
アジーンが訊いて来た、こいつは何故か俺を『兄貴』と呼んで来る。魔王化の呪いを解いたからなのか知らんけど……。
「気にすんな、お前達二人に罪はないんだ。それにこれからばーちゃんの言いつけ通りしっかりしごいてやる。あと、兄貴はやめろ」
「そうよ、兄さん。カーズが困ってるでしょ。それに私はカーズの子供を産むんだから。超強い子が産まれるわ。あ、でもアヤとディードの後でも構わないからね」
うーわ、チェトレもあれ以降やたらとこういうことを言い始めたんだよな。アヤとディードの視線が刺さる。勘弁して欲しい。
「いや、お前もそういうことを言うのやめろ。あらぬ誤解を招く」
「ニャハハ、ならボクも立候補するのさー」
「えー、せやったらウチもー」
イヴァとルティが便乗して来た。もう頼むからやめてくれ。ハーレムひゃっほいみたいな、ベタな薄っぺらいラノベ転生者みたくなりたくないんだよ。
「アハハー、いつの間にかハーレム系主人公みたくなりましたねー、カーズ」
食い物を頬張りながら、ポンコツ女神が余計なことを言い始めた。こいつは絶対楽しんで言ってるな。
「そういうの興味ないんだよ。いい加減そこから話を変えろ」
「ハハハ、エリックはモテないのにねー」
バシバシとエリックの背中を叩くユズリハ。
「うるせーぞ、食いにくいからやめろ」
「そう言えば、二人は付き合ってないんですか? いつも一緒だし、そういう関係かと思ってました」
アガシャがエリユズにドストレートな疑問をぶつけた。
「「ないないないない!!!」」
うーむ、息ぴったりだな。二人して否定の仕方も同じだ。
「まあ、人のそういうのに踏み込むのはあんまり良くない。そっとしといてやれ」
賑やかに宴が続いていく。やっぱたまにはこういうのも悪くないな。仲間達と談笑していると、背後から気配が近づいて来た。
「お主がカーズでよいかの?」
「ええ、俺がカーズですが。何か?」
振り向き答える。そこにはこれぞ王様という感じの王冠にふさふさなお髭、杖をついた派手なローブを羽織った人物がいた。その後ろにも数人の冒険者らしい奴らもいる。
「この度SランクマッチとそちらのBランク冒険者達の昇格試験を受け持つことになった、アレキサンドリア連合王国の国王チャールズだ。一応顔見せとこちらの挨拶も兼ねてだよ」
「はあ、それはどうも……。明日には向かうのにわざわざ挨拶なんて、お気になさらずとも結構ですよ」
「いやいや、勇者と共に魔王を斃し、メキアの危機も救ってみせた英雄の顔を間近で拝んでおこうと思ってな」
謙虚な王様だな。連合王国ってことはイギリスみたいなもんか……。気苦労も多いだろうな。取り敢えず失礼だし、立ち上がって出された右手を握って軽く握手する。
「それはどうも。で、後ろの連中は何ですか? やけに殺気立ってるのがいるようですけど?」
「こちらは我が国のSランク冒険者達に、元ローマリア帝国のSランク冒険者達だ。興行試合を行うのでな、折角だから顔見せに来たのだよ。その日には更に他国からもSランク冒険者達が訪れる予定だ」
「はあ、そうですか…」
ぶっちゃけどうでもいい。それよりエリックにユズリハがピリピリし始めた。
「おい、テメエが噂の邪神殺しか? こんなひょろっちい奴が神に勝つなどありえねえ。ぽっと出野郎は本番でぶっ殺してやるからよ。今から念仏でも唱えときな」
また無駄に好戦的な奴が来たな…。鑑定、隠蔽してるようだがランクが低い、人間でレベル1300の豪魔剣士、エリックと同じジョブか。名前はガノン・ドロフィスね。
「いきなり御挨拶だな。レベル1300のガノン・ドロフィスとやら。隠蔽のスキルが弱過ぎてここの俺の仲間にも筒抜けだぞ。で、俺が何かお前にやったのか? 初対面だろ? それにその呼び方はこの国じゃ御法度だ、禁固刑になりたいのか?」
まあもう堕天神も屠ったせいで俺の称号は『
「なっ、俺の隠蔽を破ってステータスまで視やがるとは……。やるじゃねえか、だが絶対にテメーの化けの皮を剝がしてやるぜ。史上最短でSランクになるなど、絶対にイカサマをやったに違いねーからな!」
うーん、随分な物言いだな。だが
「おい、雑魚助。さっきから好き勝手言ってくれるじゃねーか。カーズは俺らの大将だ。お前じゃ触れることもできねーよ。他人を妬む前に自己研鑽してくるんだな。1300じゃウチのBランクの仲間にすら瞬殺で終わるぜ。まあお前の鑑定ランクじゃあこっちの情報は見えっこねーけどな」
「三下はさっさと失せなさいよ。折角の食事が不味くなるでしょ。Sランクってのは威張ったり他者を見下すのが仕事なの? だったら返上させて貰うわ、アンタみたいなのと同じに見られたくないし」
さすがエリユズ、煽リティが高過ぎる。もう俺は何も言わなくていいかな。
「くっ…、コイツら舐めやがって……」
舐めて来たのはお前だろ…。毎回こういうのに出くわすなあ。ヘイトばら撒いて何がやりたいんだ?
「舐めてんのはお前だろ? 相手してやろうか? 俺は素手でいいぜ」
あーあ、エリックが乗ってしまった。
「上等だテメェ! 俺の剣技を見せてやるぜ!」
ピシッ! ビキキキッ、バキィイイーン!!!
「はいそこまで。試合でキッチリとカタはつけてやるよ。だが俺達の楽しい時間を台無しにしてくれた代償として、その剣は砕かせて貰ったからな」
ガノンが抜いた大剣が氷の塊となって粉々に砕け散る。うむ、やっぱり氷雪系は便利だ。
「何だ…今のは…?! 無詠唱でここまでの凍気の魔法を放てるとは……」
「絶対零度の凍気だ、まだ絡んで来るなら次はお前自身が粉々になる。それに自国の国王に恥をかかせたいのか? 常識的な行動をするんだな、なんちゃってSランクのガノンくん」
「くっ、いいぜ……。本番を楽しみにしておくんだな」
舌打ちしながら踵を返すとさっさと一人で退散していくガノン。何だろうな、あーいう連中ってどういう神経をしてるのかさっぱりわからん。
国王からの謝罪に、他のSランクの冒険者達も比較的友好的に自己紹介してくれた。あのガノンって奴だけ頭がおかしかった様だ。残りの数人はまともだったし。だがまあレベル的には此方が圧倒的に高い。昇格試験という制度がなければ、残りのメンツも実力的にはSランクを軽く超えているしな。
ちょっとした揉め事はあったが、後は残念王とクソ親父が酔って絡んで来たり、クレア達にレイラ、アランとも久々に会って話したりして楽しく過ごした。
明日にはアレキサンドリアに行って、数日後にはSランクマッチだ。その後はどうしようかな? まあ気ままに過ごすってのもアリだな。今迄が慌ただし過ぎたんだ。残りの大迷宮が気にはなるが、数日で何か異変が起こるとかはないだろう。
これからのことを何となくぼんやりと考えながら、その日はお城のふかふかベッドで目を閉じた。
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冥界、最深部。その更に奥にある邪神封印の地。誰一人近づくこともないその奈落。ルシキファーレはナギストリアを連れてそこを訪れていた。
「さて、そろそろ起きたまえ。ナギストリアよ」
傷は癒えていたが、まだ意識がはっきりしていなかったナギストリアを地面に降ろす。
「うっ……、俺は一体…? そうか、俺はカーズに負けたのか……」
「もう傷は癒えたようだね。じゃあここの結界の一部を解く。君はこの中の邪神共を殺し尽くしてその神格を奪い、大きく成長させる必要がある。カーズは私に致命傷を与えるほど、力に目覚めている。闘いの経験もさしてない今の君では勝ち目はないよ。全てを殺し尽くすまでここからは出られない。さあここで新たに力を手にするか、邪神共の餌食になるか、二つに一つだ。弱者の君に拒否権はない。さあ特異点としての意地を見せてくれたまえ」
「ファーレ……。所詮俺はお前達堕天神、そして魔神にとっての傀儡に過ぎないのだろう? だが何に魂を売ろうと、俺は世界に、神々に復讐する。いいだろう…、その試練、乗り越えてやる」
邪神の封印結界内部、ナギストリアは自らの力を増大させるために、何百という邪神共を相手にたった独りで立ち向かっていった。
第四章 混沌の時代・7つの特異点 完
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諦めの悪い宿敵。
第四章完結です。ありがとうございました!
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