第四章 77  蠅騎士団と蠅の王の必衰


 俺達の前に立ちはだかる蠅騎士団フライクルセイダーズ月闘士ルナソルジャーズの総勢40人。

 蠅騎士団フライクルセイダーズは騎士らしく巨大なカイトシールドに剣や槍を装備している。そして纏っている鎧はくすんだ灰色。銀蠅かよ…。背には4対の昆虫の羽、飛び回られたら厄介な上に盾が邪魔だな。

 月闘士ルナソルジャーズはティミスと似た月光の金色と、昏い闇色が混ざり合った様な鎧。武器は弓と剣が主体か。この人数に弓を撃たれたるとなると、かなりやりにくいな…。

 いや、考え方を変えないといけないな。竜王の兄妹は二人、ダカルーのばーちゃん一人に撃退はできても拘束までするのは難しいだろう。しかも勇者ジャンヌのことがある。彼女の力は必須な上に、このままでは彼女が先にやられる可能性もある。俺と同等以上で勇者の力を発現させられるのは……


「アリア、お前もダカルーの跡を追ってくれ。俺の創造魔法は記憶を読めば、お前の方が強い威力で撃てる。勇者の意識を目覚めさせるのにもお前の力が必要だ。あの子がやられたらさすがにマズイ。それに戦力的にはお前が行けば速攻で片が付く」


「カーズ、しかし…バルゼ相手に一人で大丈夫なのですか?! ここで私まで抜けると戦況は余計に酷くなります。先ずは奴らを斃すことが優先です!」


 また感情的になってるな、取り敢えず落ち着けよな。


「何とかしてみせるよ。それにアリアなら転移であっという間だろ? 片が付いたらすぐに戻って来てくれ。それくらいできるだろ、姉さん?」


「……わかりましたよ、ここは貴方の判断に任せます。此方もすぐに終わらせてきますから!」


 フッ!!!


 アリアが転移で飛んだ。これで向こうは大丈夫だろう。寧ろこっちより早く終わる。さあひと暴れするとしようか。


「ニルヴァーナ、二刀フォーム」


 輝きと共に二刀に変化するニルヴァーナ。速攻でこの数だけ多い奴らを蹴散らす!


「オラァ!!!」


 ガギギィン!!


 蠅騎士団を潰そうとした俺の眼前にバルゼが猛スピードで倶不戴天ぐぶたいてんを叩きつけて来た。なるほど、アリアがいなくなった今、此方の戦力で要注意は俺だけだと思ったんだろう。敵ながら天晴れな分析だな。だが、俺を身動きできなくさせたら勝てると思っているなら……、まだまだ頭が足りてないな。


「アストラリア流細剣スキル! インフィニティ・スラスト無限刺突!!!」


 ズドドドドドドドッ!!!


「「「ギャアアアアアアッ!!!」」」


 アヤの精霊武器のレイピアから放たれる超速の突きの連打が、周囲を囲みながら歩み寄ってくる蠅騎士団達を盾ごと粉砕し、一瞬の内に数名の蠅共を貫いた。


「アルティミーシア流弓術スキル・シャイニング・ムーン・アロー!!!


 ガガガガガッ!!!


「「「「「ウギガアアアアアアア!!!」」」」」


 アガシャが上に向けて放った輝く魔力の矢が、城内の高い天井に当たる前に分裂して降り注ぎ、蠅共を串刺しにする! 弓を使うのは初めて見たが、これも凄まじいな。


「アストラリア流連接剣ウィップソードスキル! インセクト・ストラングラー虫の絞殺!!」


 ギャリィイイイインッ!!!


 ディードの連接剣が蜘蛛の巣の様に変化し、そこへ入り込んだ蠅共を拘束し斬り刻む!


「「「「「グガアアアアアアア!!!」」」」


 さすが、全員神衣カムイを纏っているだけはある。既に半数以上は斃した。神格の爆発力、神気は数値じゃ測れないんだよ。


「うおおおおおっ!!!」


 ガギギィン!!!


 二刀を振るい、倶不戴天ぐぶたいてんを薙ぎ払う。やはり速度重視にしただけあってパワーは以前より落ちているな。


「ちっ、往生際が悪い餓鬼だ!」


「往生際が悪いのが人間なんだよ。テメーらみたく無意味に生を貪り、退屈凌ぎにしょうもない遊戯に手を染めたクズと一緒にすんな。もうお前の蠅軍団は半壊だ、このまま押し切ってやるぜ、蠅野郎!」


「調子に乗るなよ…人族風情が……!!!」


 こいつらはそればっかだな。お前のやってることと悪事に手を出した人間と何が違うんだ? まあいい、煽ってやるか。


「人族風情と言いながら、その人族が創作した魔導書の模倣をして愉しんでるのはどこのどいつだ? テメーみたいな蠅神に祈る奴なんざいねーよ! それにこんな力を与えてくれた神々の御陰で、俺みたいな奴は調子に乗り放題だ。でもな、テメーらみたく腐っても堕ちてもねーんだよ!!!」


 ガキイーーーィン!!!


「黙れ…、調子に乗るなよ…塵芥ちりあくたに等しい分際で!」


 こいつら見下すだけでボキャブラリー少ないな…。神様っていうだけで無駄に自分を高みに置きたいのか…やっぱバカだな。そしてやはり煽りに対して過剰に反応する。神のプライドってものなのかもな。下らねえぜ。


「アストラリア流二刀スキル!!!」


 ガギギギギギイイイイン!!!


オクタグラム・エッジ八芒星を描く刃!!!」


 スクエア・エッジ四角形を描く刃の倍の斬撃で八芒星、八つの角を持つ星型多角形を描く斬撃だ。前回の闘いでこいつの魔神器は、俺のニルヴァーナ程の強度がないことはわかっている。防御されようが構わず連撃を叩き込む!


「ちっ、鬱陶しい剣技だ!」


「何だ、さっきから同じことの繰り返しだな。このまま撃ち合えば、前回と同じでお前の魔神器が先に壊れるぞ」


「いいだろう、俺の最速を見せてやるぜ…」


 最速ね、こっちもブーツにアクセラレーション速度上昇を重ね掛けしている。どっちが速いか、勝負してやろうじゃねーかよ。


「ライトニング・アクセル!」


 フッ!


 消えた?! いや、超速で動いているのだろう。肉眼で追っても追いつけない。ならば……


<神眼が発動します>


 目を閉じ、感覚をより鋭敏にする。俺の周囲を凄まじい速さで動き回っているのがわかる。陽動のつもりなのだろう。だが、攻撃に移るその一瞬が勝機だ。


「オラァッ!!!」


 ギィン!!!


 剣を交差させてブロック。やはりな、攻撃に移るときに殺気が駄々洩れだ。繰り出した突きが見え見えなんだよ。


「貴様、このスピードについて来れるのか?!」


「さあ、どうだろうなっ?!」


 ブンッ!!!


 振るった二刀は躱される、当てられないのは厳しいな。常に後手に回るのと同じだ。


「カカカッ、だが攻撃が当たらなければ意味はないぞ」


 確かにその通りだな、じゃあさっきのこいつのスキルを真似てみるとしよう。


「雷と風の融合したバフ能力上昇効果ってとこか…。ならば、右手からアクセラレーション、左手からライトニング・サンダーボルト疾走する雷光の霹靂。風雷融合、合成魔法・プラズマ・アクセラレーション雷光加速!」


 バチィ! バチバチバチィッ!!!


 プラズマとは、固体・液体・気体に次ぐ物質の第4の状態だ。気体を構成する分子が電離し陽イオンと電子に分かれて激しく運動している状態であり、電離した気体に相当する。そして雷のスピードは光の速度、光は1秒間に約30万km進む。さすがにそこまでの速さでは自分で御し切れないため、あの蠅より多少は速くなる程度に魔力を抑える。雷と風を同時に身に纏った様な状態だ。


「カカカッ、何をしたのか知らんが、それで俺のスピードを捕え切れると思っているのか?」


「思ってるからやったんだよ。御託はいいからさっきのもう一回やってみろ」


「馬鹿が、切り刻んでくれる!!!」


 フッ!! フッ!!


「なるほど、同じ速度で動けるなら視覚も追いつくのか」


「なにぃ?! このスピードに付いて来れるのか?!」


 驚いてるな。ここに来る前の戦闘で堕天神、堕天使に精霊と俺達もかなりの激戦を潜り抜けて来た。確実に成長している。こいつの方がまだレベルは高いが、天上の加護を失い、悪に身をやつしたような外道、しかも隷属の首輪を作ったクズだ。容赦は一切しない。


「ハアッ!!!」


 ギィン!!!


「チッ! ちょこまかと…」


「それは蠅のお前だろうが」


 ガギィン! ギギィン!! ガギギィン!!


 互いの武器が交錯する。だがこいつも恐らくファーレと同じ、格下としか闘ってきたことがないのだろう。同じ速度で武器を交える俺に明らかに動揺している。


「くっ、体力が万全なら貴様如きに梃子摺るはずはないというのに!」


「神様が言い訳か? 俺達もメキアを解放するときにかなり消耗したんだ。条件は一緒なんだよ」


「舐め腐りやがって、ならば受けろ、我が槍技を!! 天戟百花繚乱てんげきひゃっかりょうらん!!!」


「相殺してやるぜ、ミラージュ・ブレード!!!」


 ガギギギギギイイイイン!!!


 互いの武器スキルがぶつかり合う! 


「ぐっ!?」


 ドシュシュッ! ズガガガッ!!!


 全てを相殺できなかった。柄と方天画戟の攻撃を何発か被弾した。城内の床へと吹き飛ばされる!


 ガシャアアアアン!!!


「カカカッ、やはりそれが限界か? 今のは連続でスキルを撃ったようだが、俺の天戟百花繚乱てんげきひゃっかりょうらんは文字通りの100連撃。簡単に相殺できると思うなよ」


「ぐ…、痛ってえな……」


 神衣に亀裂が走り、刺突を喰らった部分、胸部や肩、太腿からは流血しているし、体のあちこちに打撲を受けた様な感覚がある。やはり神相手に一対一タイマンは荷が重かったのか? いいや…まだだ、まだ俺の闘志は萎えていない。寧ろ逆境こそが成長のチャンスだ。どこまでやれるのか試して、いや、絶対にこんな奴らに負けてたまるか! 立ち上がり、回復魔法をかける。傷は浅い、さあもう一度勝負!


「勝ち誇ってんじゃねーぞ、蠅野郎。死なない限り、俺は何度でも立ち上がってやるぜ!」


 ジャキッ! 二刀を持ったまま信剣の構えを取る。アリアから習った古流剣術の防御を優先とした型だ。前方に高く水平に構えた剣先が相手の眉間を捕らえている。さあじっくりとその技を観察させて貰うぜ。


「何だその構えは? まあ何でもいい、お前はここで消える運命だ。アストラリアを向こうにやったのは判断ミスだな。いくら神格があろうと所詮は人族。神である俺に勝てるはずがねえ、奇蹟でも起こらない限りはな!」


「そうやって笑ってろ。だったら見せてやるよ…、その奇蹟を!」


明鏡止水めいきょうしすい未来視プリディクト・アイズ・弱点看破・標的化ターゲッティングが発動します>


「カカカッ、ならばもう一度喰らえ! 天戟百花繚乱てんげきひゃっかりょうらん!!!」


 この最近は成長の為に『敢えてスキルを使わない』という縛りで闘って来た。それを全て解放したらどうなるのか。さあ目を凝らせ、敵の攻撃の先の先を読め!


 ガギィ!


 一撃目、槍の穂先での突き。


 ギィンッ!!


 二撃目、つかを使った棍術の打撃の突き。


 ガィイイイイイン!!!


 三撃目、槍での叩きつけるような斬撃。


 ドゴォオオ!!


 四撃目、今度は柄での横からの薙ぎ払い。そうか、俺が見えなかったのは突きの間に織り交ぜていた突き以外の攻撃だったのか。ならば一番隙の大きくなるこの四撃目で崩す!


 ガキィン!! ギギィン! ガギイイイイン!!!


「ここだ!!!」


 ドゴォッ!!! ガシィッ!!!


 俺の右側から薙ぎ払ってきた柄の一撃を、右肘と右膝で挟む様にしてガードする! さあ自慢の武器は捕らえたぜ!


「くっ、貴様…、この高速の連撃が視えているのか!?」


「ああ、突きに見せかけてそれ以外の斬撃や薙ぎ払いも織り交ぜていたんだな。最初に突きを放って来ていたから、それ以外に意識が回らなかったが。ここ最近使わなかった未来視やら明鏡止水を発動した御陰ではっきりと視えたよ。さあテメーの武器は捕らえた、今度はこっちの番だ! アストラリア流二刀スキル! ライガー・クローズ虎獅子の爪撃!!!」


 ドゴオオオオオッ! ザギィンッ!!!


 虎爪閃こそうせん、タイガー・クローよりも高速の叩き斬る様な9連撃がバルゼの隙だらけの胴体を捕らえた! 斬撃が魔神衣を砕き、肉体に重い打撃が撃ち込まれる! 血飛沫が舞い、相当のダメージが入った。槍を手放せば避けられただろうに、このふざけた名前の魔神器がそんなに大事なのか?


「がっ、は、……っ、う、ぐっ…」


「もうその傷じゃあ勝ち目はないだろ? 俺の次の攻撃は止められない。さっさと投降したらどうだ?」


「おのれ…人間風情が…。ここまで神に拮抗した実力を持つなど、貴様は危険過ぎる…。まさかこの醜い姿を晒すことになるとは……。ぐ、おおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 バルゼの体が黒く輝き、肉体に亀裂が入っていく。まさかまた脱皮か? 今度こそ蠅になるとでもいうのだろうか? 今の内に斬ってやりたいが、他のみんなの戦況も気になる。

 蠅騎士団はアヤ達三人によって既に駆逐されている。月闘士達も、当然ルクスとサーシャにとっては相手にもならなかったか。最早跡形もなくなっているしな。後はティミスの洗脳を解けば向こうは終わりだろう。


 ビシ……、ビキビキッ、バリィイイイイイイイーーーン!!!


 脱皮が終わったのか、バルゼがその姿を現した。やっぱりデカい蠅か。だが10mはある巨体だ、この城内はそれなりに広いが、あの巨体はではさすがに持て余すだろうに…。だとしても油断は禁物だけどな。


「三人共下がっていてくれ、あの蠅は俺が斃す!」


 アヤ達が距離を取ってくれた、さあ続きといこうか。


「やっぱり蠅か…。神様が蠅とか恥ずかしくねーのか? 害虫じゃねーか」


「まさかこの姿を晒すことになろうとはな…。カーズ、貴様は八つ裂きにして次元の彼方にばら撒いてやるぞ……!」


 蠅に変化したバルゼ。だが牙が生えているし、尻に蜂の様な針が付いていたりと純粋な蠅の姿ではないな。4対の羽には髑髏どくろの模様、これは変わらないが、やはり不気味な姿だ。


「自分から晒したくせに何ほざいてんだ? それに蠅がそんなデカくていいのかよ。素早さが蠅の取柄だろ? 外なら兎も角、こんな狭い場所でそれが生かせるのか?」


「さあな、この姿になったのは初めてだ。果たしてどれ程の力が出せるのか、貴様を実験台にしてやろう。まずは喰らえ、ディジーズ・レイン病の雨!」


 ドッ!! ズダダダダダ!! ザヴァアアア!!!


「ちっ、神気結界!」


 そうか、こいつは本来土着の雨と嵐を司る神だ。この雨を浴びるのは絶対にマズい! 鑑定、蠅は数多くの病原菌を運ぶ、この雨にはそれが含まれているということか。だが当たらなければ問題はない!


「ニルヴァーナ、刀フォーム」


 ピキィイイン!


 ガシッ、チキッ!


 先ずはどれ程の速度になったのか、お手並み拝見だ。


「アストラリア流抜刀術」


 剣閃の衝撃波が雨を斬り裂く!


 ズヴァアアアアン!!!


「飛天!」


 フッ!!!


 転移するかの様な速度で回避された。デカいくせに俊敏だな。ならば直接剣撃を叩き込むのみ! もう既に雨は止んだ。


「ハアアッー!」


 加速して一気に距離を詰める!


神狼牙しんろうが・四連!」


 ブンッ!!


 剣が空を斬る! やはりスピードが増しているな。  


「カカカカッ、どうやらこの速度には付いて来れないようだな。そして貴様の様な無駄に正義感が強い者は、弱者を放っておくことなどできまい!?」


「何のことだ?!」


「こういうことだ!!」


 ドウッ!!!


 凄まじい速度でアヤ達三人が離れて避難している城内の壁際に向けて飛び立つバルゼ。


「さあ受けろ! 地獄の黒炎の息吹を! ヘル・フレイム地獄の業火!!!」


 ガゴオオオオオオオオオ!!!


「くそっ、そういうことかよ!」


 シュンッ!!


 転移でアヤ達の前に移動し、彼女達三人を守る様に神気結界を張り、腕で庇う様に抱き締める!


 ドゴオオオオッ!!!


「ぐあああああああああっ!!!」 


 彼女達は何とか守ったが、背中に強烈な黒炎のブレスを喰らってしまった。くそっ、手段を選ばないとは、やってくれるじゃねえか。


「やはりな…。争いばかりしているくせに、貴様ら人族は互いに庇い合い弱者を守ろうとする。実に矛盾した存在だ。カーズ、貴様も所詮は人族の域を出ない存在だということだな。カカカカッ! 惰弱惰弱!!! その3匹を守りながら俺と闘えるとでも思っているのか? 舐められたものよな!」


「カーズ、大丈夫?!」


「父上!!」


「カーズ様、しっかり!」


 ブレスをモロに喰らってしまったせいで背中の神衣が破壊され、バトルドレスが焼け焦げて肉体に深刻なダメージが入った。しかも神気の強烈な一撃。先程の槍でのかすり傷とは違い、回復魔法も効果が薄い。三人が回復魔法をかけてくれているが、効果があまり感じられない。


「多重神気結界!」


 三人を守る様に厳重に結界を張る。


「カーズ、無茶しないで!」


「カーズ様、わたくし達も一緒に闘います!」


「父上、私達もいます!」


 気持ちはわかるが、絶対に狙われる。このままやられっぱなしは性に合わないんだよな。それに、漸く面白くなってきたんだ。クソ親父、認めてやるよ…俺の中の本能の闘争心がまだまだ暴れ足りないと言っているのがわかるぜ!


「いや…、大丈夫だ。三人をあんな危険な奴と闘わせるのはまだ早い。キッチリ倍返しして来てやるからな」


 振り向き、巨大蠅野郎の方を見る。


「カカカッ、いいのか? 一人で俺に勝てるとでも思っているのではあるまいな? アストラリアがいればこんなに不利にならずに済んだものを。その誤った判断で貴様らは全滅することになるのだぞ」


「黙れよ蠅野郎……。お前は俺の大切な人に仲間を傷つけようとしたな…。絶対に許さん!!!」


 ゴオオオオオオオオ!!!


「極限まで燃えろ! 俺の神格! 湧き上がれ、俺の神気よ!!! いつまでも、これ以上アリアに頼ってばかりじゃいられないんだよ!!!」


 神格が輝くのを感じる。これが俺の神格なのだと強く認識できる。心の奥底にある巨大な神格が燃焼しているのを! 漸く理解できた、俺の神格はまだ全て燃え上がっていなかった。ならば全て燃焼させてやる!


「俺の心の神格よ、目覚めろ! 眼前の悪を斃すために!!!」


 ズゴアアアアアアアアッ!!!


 今迄よりも遥かに巨大な神気が放たれる。装備が修復され、神衣の形状も進化している。そうか、神格を完全に認識できたからこそこれだけの神気が溢れて来たのか。


<神格が完全開放されました。それに伴い全能力が大幅にアップします。新たなスキルを獲得・更新します>


 パズズ戦の時に聞こえた様な声が脳内に響く。あれが神格の目覚めだとしたら、これはもう一段階上の解放状態ということなのだろうな。あの時の様に力が漲り、痛みも最早感じない。そしてこの蠅野郎に負ける気もしない。アドレナリンが溢れ、笑いが込み上げて来そうになるぜ。


「何だ?! その途轍もない神気は……!? たかが人族が放てる様な力ではない…! おのれゼニウス……、貴様がしたことはあらゆる神々への冒涜だ!!!」


 スッ!!! ガシイッ!!!


 飛んでいる奴の背中に転移し、触角を掴む!


「何を独り言をほざいてんだ? 敵から目を逸らすとは余裕だな。先ずはこいつを貰っていくぜ! アストラリア流格闘スキル!」


 触角を掴んだまま回転し、地面に向けて後頭部に回し蹴りを放つ!


 ドゴオオオ!!! ブチブチィッ!!!


天馬絢舞脚てんまけんぶきゃく!!!」


 グワシャアアアッ!!!


「げぼあっ!!?」


 床に思い切り叩きつけたが、起き上がって来た。まあ虫はしぶといしな。


「ぐっ…、な、んだ、体が、いや、感覚が、保て、ない…」


 触角は虫にとってのバランス感覚や周囲の状況を感じる為のセンサーだ。それが破壊されたということは最早勝負アリってことだ。だが容赦はしない。こいつは俺の大切なものを傷つけようとした。キッチリと返してやるからな。


「おのれええええ! 目覚めよ! マゴット・バース蛆虫生誕!!!」


 「「「「「グガアアアア!!!」」」」」


 脱皮した際に残されたバアルゼビュートの肉体を食い破って、大量の蛆虫ウジムシが奇声と共に現れた。そして次々に脱皮して、人間程の大きさの蠅となり飛び回り始める。なるほど、最初の奇妙な雨はこれを引き起こす為だったということか。体に浴びていたら今頃内部から食い破られていただろうな。『蝿蛆症ようそしょう』を人為的に引き起こすための下準備だったということだろう。


 蝿蛆症ようそしょうとは蠅の幼虫(ウジ)が生きた哺乳類の体内に侵入したことによって発生する感染症(寄生虫性疾患)だ。つまり何らかの蠅の幼虫である蛆が寄生虫となった状態のこと。『ハエウジ症、ハエ幼虫症(flystrike、blowflystrike)』などと呼ばれることがあり、患者またはその罹患組織は『ウジがわいた(fly-blown)』と称される。このような状態を表す名称は古代ギリシャ語の『myia(意味はハエ)』に由来する。確かそういうものだったはずだ。


 やはりイヴァの言っていた通り、攻撃は喰らわないに限るな。さてこいつを片付ければ終わり、蠅は気持ち悪いだろうが三人に任せよう。


「三人共、飛んでいる蠅は任せる!」


 最早勝負アリと思ったのだろう、彼女達は各々目の前の蠅を処理し始めた。


 ザシュシュッ!!


「うがあああ!!!」


 背中の羽を根元から斬り落とす。もうこれでぶんぶんと小五月蠅こうるさく飛び回れもしない。


「別に何の興味もないが、言い残すことはあるか? 悔い改めて天界で裁きを受けるなら、助けてやらんでもないけどな」


 蠅の顔の目の前に刀を突きつける。


「フッ、今更、悔い、改めようが…、無駄だ…。天界での裁きなど、虫唾が走る…」


「だったら最期の質問だ。お前らは、ファーレは原初の7色の魔神とやらと繋がっているのか? なぜ明らかに数的不利なこんな計画を企んだんだ?」


「さあ…、知らんな。俺は、あくまでファーレの右腕…。あいつのやっていること全て、まで、は詳しく知らん…。カカカ、そうだな…明らかに不利だ…。それで討たれようと、退屈な天界、それに管轄世界を、眺めて過ごすよりは、遥かに充実していた。永過ぎる生は、神々でも堕落するには充分な時間なのだ…。さあカーズよ、俺はもう生に飽きた、俺の、神格を持っていくが…いい。最期に、これほどの熱い闘いが、出来ただけで、満足だ……」


「そうか…、それでもお前らのやったことは非道極まりない。お前らの暇潰しに人生を荒らされた人々もいる。お前を斬ったところでその人達の傷は治りはしない。そしてそんな人達や、愛すべき者達を護る為に俺は剣を抜く。それが俺の闘う理由だ。次に産まれ変わってくるときまで、よく反省するんだな。ニルヴァーナ、ソードフォーム。さらばだ、哀れで誇り高き蠅の王よ」


 ソードを両手で頭上高く掲げる。


「アストラリア流ソードスキル・奥義」


 カッ!!! ドゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!


アストラリア・エクスキューション正義の女神の処刑執行!!!」


「さらばだ、神々の闘士カーズよ……」


 玉座の間の壁を突き破る威力の光の一閃に飲まれ、バアルゼビュートは粉々に無散して消えた。











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