第四章 69  魔王領戦線、死線を乗り越えろ!


「おりゃあ!!」


 ザンッ!!


「ハアッ!」


 ズドオオン!!


 剣技と魔法が眼前の魔物に炸裂する。


「ハァ、ハァ…、切りがねえな」


「そうね…。ハァ、ハァ…、しかも急に魔物のランクに狂暴性までも上がった気がするしね」


 サーシャとルクスがカーズ達の処へ急用で呼び出されている間、弟子入りしたエリックとユズリハは軍国カーディスから海を隔てて南に位置する、大陸とまではいかないがそれなりの広さの孤島、人類から超危険地帯と言われている魔王領の北部でサバイバル修行を課されていた。

 ここに放り出されてから、もう既に日が暮れて辺りは真っ暗、ユズリハが発動させているエリアライト範囲照明の魔法で、ある程度までの周囲は明るくなっているが、その光が原因で魔物共や魔王領を跳梁跋扈ちょうりょうばっこしている下位から中位の魔人、悪魔までもがやって来る。

 荒涼とした赤く荒れ果てた大地は砂漠同然、身を隠す岩場もほとんどない。物理・魔法結界に気配・魔力遮断、認識疎外を常時かけていても、ここの高ランクの魔物共には感知されてしまう。歴代の魔王の怨念や悪魔共、魔界へのゲートが放つ濃い瘴気が結界の様な効果を及ぼし、実際の半分以下の実力しか発揮できない。まさしく呪われた大地。その中で二人はほぼ丸一日闘い続けていた。PTの経験値共有で、自らの経験にカーズ達の闘いの経験でレベル自体は上昇している。だが休みなしで闘い続けた影響で息も上がり、魔力も相当消耗している。このままジリ貧の状態が続けばやられるのは時間の問題だった。


「全く、アリアさんといい、神様の課す修行は容赦がねえな……」


「まだ軽口叩けるんならいけるでしょ? フゥー、ハァ…、サーシャさん達も夜には戻るって言ってたんだし…、もう少しの辛抱よ」


 ズガガッ!


 飛び掛かって来た巨大なトカゲの様なディザートドラゴン砂漠竜をグングニルで刺突、斬り裂くが、分厚い鱗に遮られる。


「くっ、硬い!」


「ユズリハ、任せろ!」


 ガギイイン!! ドゴオオオ!!!


 バルムンクの剣撃を叩きつける! 両断は出来なかったが、打ち下ろしの際の衝撃追加アディショナル・インパクトの爆撃が体内に炸裂し、ディザートドラゴンは動かなくなった。


「このままじゃ本当にジリ貧ね…」


「さすがにな……、休む間もねえ。通常のポーション程度じゃ、今の俺達には大した効果もないしな。伝説のエリクサー超万能薬でもあれば別だけどよ…。ハァ、ハァ…」


「そうね…、ステータスが上がり過ぎるのも逆にそういう問題がある。このアリアさんお手製の自動回復オートヒール付きの装備がなかったら…。とっくにHPもMPも枯渇してるわね…」


「…その通りだな。疲労はあっても被ダメージはほぼ0だ。全くオリハルコンってのはとんでもない強度だぜ。何度か攻撃を被弾してるってのに、自動展開ヴェールの効果もあって傷一つ付いてないからな」


「本当にね、カーズはこんな性能の装備をしてたんだからズルいわよ」


「装備自体に付与エンチャントされた補正値の御陰で、かなり助かってるしな。…おっと、また集団のお出ましだ。どうやら魔人も混ざってやがるな…。ユズリハ、構えろ」


 大量の魔物と一緒に、魔王領に潜伏していたであろう悪魔が眼前に現れる。


「先程からこの神聖な魔王領を荒らす人族がいるという報告を受けて来てみれば…、人間にハーフエルフ、貴様らか。特異点共と一緒にいた奴らだな。我が名はブエル、堕天された三神に仕える悪魔将軍にして司令官を務める主、アガリアレプト様の配下。何をしにこんな場所まで来たのかは知らんが、既に且つて前例のない二人の新たな魔王様が誕生なされた。その祝いに貴様らを血祭りにしてその血肉を捧げてやろう!」


「なっ…?! 魔王が復活? しかも二人? どういうことよ?!」


「だから魔物が急に狂暴化したってことか…。へっ、調度いい。雑魚続きで鈍ってたところだ! しかもカーズが言っていた奥義書とやらの序列三位の配下とはな!」


「魔王なんてすぐに斃してやるわ。アンタはその前祝いに爆散させてあげるわよ!」


 巨大な獅子の顔に車輪の様に5本の山羊の足が生えている異形。胴体はまるで虎の模様が入った四足獣。前足は鋭いツメが生えた長い4本の指。後ろ脚も山羊の蹄が付いており、その足で二足歩行している。尻尾は大蛇という不気味な姿だ。


「威勢だけはいいようだな。ならば直々に葬ってやろう!」


「へっ、大口を叩くのは結構だが後悔するんじゃねえぞ! 俺がサシで時間を稼ぐ。ユズリハ、周囲の魔物共を消してくれ」


「はぁ…、わかったわよ。その間にやられないでよね!」


「ガーハッハッハッ!! 我が主は序列三位だが六柱の中では最強を誇る! その配下である我もそこいらの魔人と同じ程度ではないぞ。さあ楽しませてみろ! 愚かな人族共よ!」


 ガシャンッ! ジャキッ!!


 魔剣バルムンクを鞘に納め、輝く聖剣フラガラッハを抜く。魔人に超速再生がある場合の対策。悪魔相手には治癒不可能の傷アンキュアラブル・ウーンズの特性が付与エンチャントされた聖属性の聖剣の方が相性がいい。


「いくぜ、クソ悪魔! 人族を舐めんじゃねえー!!!」


 フッ!! ガギイイイイィン!!!


 縮地で一気に距離を詰め、巨大な体躯へと斬撃を叩き込む! だが顔の周囲に生えている山羊の足が回転し、その蹄で一撃を防がれた。


「こいつ、フラガラッハの斬撃を防ぎやがった!?」


「ほほう、中々の速度と筋力だ。だがここには魔王様の結界が張り巡らされている。貴様らの様なゴミは実力の半分も出せはしないのだ! 喰らえ! ハウリング・レオミノル子獅子の咆哮!!!」


 ゴアアアアッ!!


「ぐおあっ!!!」


 獅子の口から瘴気のブレスが発射される! 至近距離で被弾したエリックが後ろへと吹き飛ぶ!


 ドシャアアアッ!!


「ちっ、やってくれるじゃねーか!」


 装備の御陰でダメージは少ないが、結界の影響でダウンしたステータスでは分が悪い。


 ドゴオオオオオオン!!!


 ブエルの後ろにいた魔物の大軍が魔導銃マジックガンから放たれた、ユズリハのエクスプロージョンで粉々に吹き飛ぶ!


「バカ! 何やられてんのよ! 無策で突っ込むからそうなるって学習しなさいよ!」


「うるせーな、これからだぜ。見てろ」


 バッ、と立ち上がるエリック。


「ほう、やるではないか。あの数の魔物を蹴散らすとは」


 ニヤニヤと余裕の笑みを崩さないブエル。


 ジャキッ!


 ブエルに向けて構えた魔導銃のブースターのリボルバーがユズリハの魔力で高速回転する!


「フン、力が落ちていても格上でも、闘い方には頭を使った駆け引きが必要なのよ! カーズの闘いはいつだってそう! これでも嗤ってられるかしらね…? 穿て! 凍てつく凍気の魔力よ!」


 ガウンッ!! パキィイイイイーーン!!


 撃ち出した魔法はブエルの頭の山羊の蹄でガードされる。


「ガハハハッ! 口だけか、ハーフエルフ? この程度の魔法が通用するとでも思うのか?」


「思ってるから撃ったのよ。やっぱりアンタら悪魔はバカね。撃った魔法が全て相手に直接ダメージを与えるものだけだと思ってるとは。防いだそのキモい足形の襟巻をよく見るといいわ」


「? なんだと…?」


 ピシッ…、ピキビキギギギギ…!!


 ブエルの蹄から先が次々と凍りつき、全身へと広がっていく。


「ぐおおおっ?! な、何だこれはっ!? くっ、体がどんどん凍結し、て…い、く…」


絶対零度アブソリュート・ゼロ、摂氏-273.15℃の凍気の魔法。カーズの闘いから学ばせて貰ったものよ。その温度はあらゆる物質の動きを止める。ステータスの差なんて関係ないのよ」


 ピキキキキ! ビキィイイイン!!


「ぐおっ…、おのれ、こんな小細工、で…、我が…」


 全身が完全に凍りつき、その場に立ち尽くした氷の柱となるブエル。


「エリックー、後はよろしくー。もう限界ー」


「ああ、温度差で粉々にしてやるぜ。オリジナル剣技ソード・アーツ! フレイム・スラストー!」


 ゴオオゥ! ドズンッ!!


 火属性の魔力を剣先に集中させた灼熱の炎の一点打突! 高熱の一撃が凍り付いたブエルの顔面に突き刺さると、その高熱の温度差と突きの威力の衝撃で、ブエルの体は粉々に砕け散り消滅した。


「へっ、人族の力を舐めんなよクソ悪魔が! ハァ、ハァ…、くそっ、さすがに魔力に体力がキツイぜ…。しかもまだ続きがお出ましだ…」


 探知に近づいて来る魔人の気配の反応がある。


「仕方ないわね…。ハァ、ハァ…、最後まで足掻いてやろうじゃないの……」


「ふむ…、この結界内でブエルが粉々にされるとは…。中々活きのいい人族がいたものだ。私の名はグイソーン、あらゆる知識を持つ魔界の公爵よ。来たれ、私の40の軍団よ!」


 グイソーン、まるで猿の顔をした上半分は髑髏のマスクを被っている。そして紫と黒の体毛で覆われた体の首元から生えた爬虫類の様な巨大な翼。巨大な手足には長く鋭いツメをした指。腕の方が異常に長い。そいつに従う40体の低~中級の悪魔が次々と展開された召喚魔法陣から飛び出してくる。


「フッ、グイソーンよ、たかが人族如きにそこまでする必要はあるまい。俺はボティウス、同じくアガリアレプト様の配下が一人。過去から未来を見通す力を持つ、魔界の大総裁にして伯爵だ。まあ折角だ、冥土の土産に見せてやろう。来い、俺の36の配下達よ!」


 黒い蛇とも蜥蜴とも思える頭部に、鋭い牙と二本の長い角。そして不気味な装飾の巨大な曲刀タルワールを持っている。

 タルワールとはアラブのサイフ、ペルシャのシャムシール、トルコのキリジ、アフガニスタンのプルワーのようなその他の片刃刀を起源とし、これらは中近東に以前から存在していた刀から派生した曲刀、シミターの一種である。タルワールの使用はムガル帝国の下で広範囲に渡り、トルコやモンゴルまで拡大した。イギリスの軽騎兵サーベル1796年式の刃の形状はタルワールの例といくつか似ており、専門家の意見ではイギリスのサーベルの形状に影響を与えたとも言われている。刀身が大きく反っており、擬似刀も備えている。柄は、棒状のつばと握り・円盤状の柄頭まで一体型になっているキヨンと呼ばれる十字型の物を取り付けた「パンジャブ様式」と言われるものが一般的である。刀身にはダマスカス鋼(ウーツ鋼)が使われ木目のように美しく紋様が浮かんで非常にしなやかで強靭とされる代物である。

 全身に派手な金色の鎧を纏った体はまさにリザードマンの様な姿だ。そのボティウスも自らの軍団を召喚する。


「くそっ、こいつは分が悪いぜ……」


「さすがにね……。もう大魔法を撃てる程の魔力もないわ…」


 余りにも多勢に無勢、万全の状態でも厳しいかも知れない戦力差だ。


「ハハハ、それだけ消耗していながらブエルを斃したのは褒めてやろうではないか」


「フフフ…、だがこの数相手にどう立ち向かう? さあみすぼらしく足掻いて見せろ人族よ! 仲良くあの世へ送ってやるぞ!」


 既に勝ち誇った様な嘲嗤いをする、グイソーンにボティウス二匹の魔人。


「いいぜ…、テメーら全員道連れだ。死を覚悟したやつの力ってのを見せてやるぜ! …悪いなカーズ…」


「みんな…勝手に出て行ってゴメン…。でもこいつらは絶対に斃す! 命を力に変換して極大の魔法を撃ってやるわ!」


 ゴオオオオオッ!!!


 最早無きに等しい魔力の代わりに命を燃やす!


「ハハハッ! ほほう、死を覚悟した者とは恐ろしいものよな…」


「フッ、だが貴様らはここで無駄死にになるだけだがな!」

 

 アガリアレプト配下の二匹が高嗤いする。最早玉砕覚悟で闘うしかない二人は最後の力を振り絞って武器を構えた。


「さあゆけ、私の配下達よ!」


「一片の肉片すら残すな! 悪魔の力を思い知らせてやれ!」



 100体近い悪魔共が、奇声を上げて一斉に二人へと襲いかかった。











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絶体絶命のピンチ!

さあどうする?



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