第三章 大奥義書グラン・グリモワール

第三章 35  穏やかな始まり




 目が覚めた。気持ちいい、実にぐっすり眠っていたようだ。ちらっと横を見るとアヤがまだ俺にしがみ付いて寝息を立てていた。頭を撫でてやる。寝顔も可愛いなあ。


 波乱の謁見が終わって、昨日はその後何があったかと言うと、大きなオープンカーのような何とも説明し難い馬車に乗って、元気になった国王、新宰相オロス、新騎士団長クレア、アヤと兄弟姉妹、長男は早くも毛根が死んで不参加、それと俺達救国の英雄とされた四人を合わせて国内をパレードだった。

 ちょっとね、これは想像してなかったよ。俺が休養中だった間にオロスの手腕で政治も以前の状態に持ち直したらしいし、って早くない? 号外が飛び交い、活気を取り戻した王国国民達に暖かい歓声を浴びながら、街中を騎士団に囲まれながらマーチというわけだ。

 俺としてはあんまり目立ち過ぎるのはちょっとなーって思ったけど、人々が幸せそうなのを見れて、死にかけたけど沢山の人を救うことができて良かったと思ったもんだ。他の三人はノリノリだったけどね、特に女神様が。


 そして夜は城のこれまたデカい庭でパーティーだよ。まさかここまでとはね。さすがにここまでの豪華な御馳走は初めてだった。うん、まあ美味しかったよ、豪華過ぎて味が美味いとしかわからなかったけど。アリアはひたすらずっと食ってたしね。どんだけ食うんだろうかねこいつは? 胃の中に異次元倉庫ストレージでもあるんだろうか? 俺は王様やら王子、姫様達と談笑したり、国の色んな人達に声を掛けられて忙しかったのに。


 ザコスケの長男は夜のうちにハゲ頭で武者修行に出たらしいけど、どうでもいいや。エリユズはクレア達騎士団、ギグスにヘラルドもいたな、と意気投合してて、一緒に馬鹿みたいに飲みまくってた。次の日にはギルドに行くのに、いいんだろうかね? 二日酔いでも回復してやんねーぞ。


 ここにいる間は城内の広々とした部屋を充てがわれて、好きに過ごしていいことになった。食堂に行けばいつでも食事も頼めるらしいし、宿代もアリアの食費も浮くから大助かりだ。簡単に食べられるものも作ってもらえたら異次元倉庫ストレージに入れて運べるしね。

 とりあえず魔人騒動は一件落着、疲れ切ったので、アヤと同じふかふかのベッドでバタンキュー。ぐっすり寝てたのだ。おっと、下世話な話はお断りだよ。


 てことで、今日は漸くギルドに向かうことができる。できれば別の試験にしてもらいたいもんだ。ユズリハの予想が外れることを祈る。それとアヤの冒険者登録もする予定。昼くらいまでに行けばいいだろうし、暫くはうとうとと微睡んでいよう。疲れもあるけど、隣にアヤがいる幸福感もあって心が安らぐし、うん、まだやっぱ眠い。おやすみ……。



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 ・


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 ドンドンドン!!!


「「カーズ!!! 起きろ/てー!!」」

「うう、うーん……」


 この息ぴったりなうるさいノックは……。幸せな二度寝をぶち壊しやがって。


「ふああー、おはよカーズ。相変わらずのノックだね……」


 アヤも目を覚ましたか。そりゃこのノックだしな、うるせえ……。


「おはよう、全くだな……」


 こいつら何でこんなに元気なんだ? あんだけ飲んでたのに。


「エリユズかー?! 準備するから待っててくれー!」


 扉に向かって叫ぶ。


「こいつと纏めるな! なら先に飯食いに行っとくぜー」

「そうよ、こんなんと纏めないで! じゃあ後でねー、ギルド行くんだしね!」


 仲良しじゃねーかよ。もう自分ちみたいだなこいつらは。そういえばアリアは一緒じゃないのか。まあ何をしてるかは飯という言葉で何となく予想がつくが……。足音が遠ざかると俺達は起きて準備をした。



 ということで装備装着完了。アヤの装備もうん、良く似合ってるな。


「どうしたの? じーっと見て」


 俺の視線に気づいたアヤが尋ねてくる。


「いや、似合ってるなあって。アリアも上手く創ったもんだなーって思ってね」


 自分のコスプレは意味不明なのになあ。


「うん、気に入ってるよ。アリアさんやっぱすごいよね。希望以上の性能のバックラーもあるし。それにカーズが創ってくれたアレもあるしね」

「ああ、アレかー。遠距離から一方的にボコれるし、近接戦されるよりは俺も安心だしな」

「大丈夫だよ、レイピアはレイラ姉様やクレアに指導受けてるしね」

「そっか、まあそう言うなら大丈夫だな。じゃあ朝飯に行くか」


 てことで城内の食堂に到着。テンポよくいかないとね。さてさてあいつらはっと……。しかし、寝込んでた時間が長かったから今日初めて来たけど、王城仕えの人々が皆使用するだけあって広いなー。客席も綺麗な作りだしね。

 そして皿が高く積まれた一角を発見。うん、間違いなくあそこだ、モンスターがいる証拠が一目瞭然。エリユズも一緒に席についてるし、近づいて声を掛ける。


「悪い、待たせたか? ……って、相変わらずどんだけ食ってるんだよ、姉さん」


 城内の、いや国内の食糧無くなるんじゃないか?


「あ、カーズにアヤちゃんおはようございますー。昨夜はお楽しみでしたねー

(・∀・)ニヤニヤ」


 こいつは……、朝っぱらからなんて下世話な。開口一番それか、女神だろ? 控えようよ。絶対その科白言いたかっただけだろ。


「あーハイハイ、うるさいよ。朝から下品だな。で、これどう注文すんの?」


 アリアの隣に二人でエリユズに向かい合うように座る。


「お城のメイドさんがウエイトレスやってくれてるから、呼んで頼むといいわ。はい、メニュー」


 ユズリハからメニューを受け取って広げて見る。高級なお店のようなラインナップ、さすが城内の食堂だ。ユズリハはトーストにサラダと果実ジュースか、うんエルフって感じの健康的な野菜中心なメニューだな。それにメイドさんが結構な数給仕をやってる。こいつらを探してたから気付かなかった。


「何でもあるぜー、好きなものいくらでも頼めるしな。もうここに住みたいくらいだ」


 そう言うエリックは朝から巨大なステーキをがっついている。パンに大盛りのライス、サラダ少々。うん、成人病まっしぐらだよ。こいつもデカいだけあってよく食べるんだよなー、モンスターが近くにいるから目立たないだけで。だがこれは胸焼けしそうだ、うーん和食が食べたい。


「和食ってあるのか? 朝は健康的なものが食べたいんだよな、パンは飽きたし」


 欧州にいたときはこんな食事だったけど、やっぱ日本人的な味覚なんだよなこの辺は。


「ワショクって何なの?」


 ユズリハの素朴な疑問。この世界じゃそういうカテゴリーはないよな、うむ。


「ライスとかの寝起きのお腹に優しいメニューかなあ」


 へー、って反応。よくわからないからどうでも良さそうだなあ。


「カーズ、ライスのセットならあるよ、みそ汁と焼き魚とかも付いてるし、和食に近いんじゃないかな」


 なるほどそういう種類なのか、ってみそ汁あるのかよ。それは嬉しい。アヤが色々教えてくれた。記憶が戻ったから懐かしくもあるだろうな。


「ライスセットのことなのね。カーズ結構健康的じゃないの」


 あ、理解してくれたのか。


「まあ朝だしなー、優しいものが食いたいしな」

「男なら肉食えよ肉! やっぱパワーの源は肉だろ!」


 考えが若い……。今のこの体なら問題なさそうだが、前世の習慣を考えるとキツイ。


「いやー朝からそんな肉は濃いし、ちょっとなー。軽めでいいんだよ」

「じゃあ私もライスセットにしようかな、注文するね」


 近くのメイドさんを呼び止めて頼んでくれた。元姫様がこんなところにいることに驚いていたけどね。まあそれはそうだな、王族なら豪華なテーブルの別室で更に豪華な朝食セットってもんだろうし。


「朝はたくさん食べないとダメですよー。一日の元気が出ないですよー」


 モンスターが何か言ってる。たくさんって、限度があるだろ……。


「姉さんさー、味分かってるのか? 量食べればいいってもんじゃないだろ? 今更言うことじゃないけどさ」


 積み上げられた皿の数にドン引きだよ。


「美味しければいいんですー。それにどうもこの体は燃費が悪くてー」


 義骸だからなのかな? でも食べてる量と体の体積を比較してもおかしいだろ。食った瞬間に消化してんのか? うん、気にしたらダメだな、負けた気がする。


「確かにアリアさんの食いっぷりはさすがにスゲーよ。この時点から既に勝ち目がねえ」


 エリック、張り合ったらダメだぞ。常識の通用しない相手っているんだよ。などとワイワイ話している内にメイドさんがライスセットを持って来てくれた。

 まさかみそ汁もあるとは最高だな。何の魚かは知らないけど焼き魚に漬物もあるしね。元はこの世界の人間とはいえ、前世の記憶があるから日本食的なものは落ち着く。洋食ばかりで飽きてきたところだったし、欧州に住んでいた時はそれが当たり前だったけど。

 やっぱ日本人なら米を食えってもんだ! 満足満足。良かった良かった。朝はこれに限る。贅沢を言えば納豆も欲しいけど。でも探したらありそうだよなあ。この世界変だし。なんて言うかパラレル中世って感じなんだよ。まあ何でも全く地球と同じじゃないってことだろうね。


「さて、やっとギルドに行けるな。アヤの冒険者登録もしたいし。そういや今日アリアはどうするんだ?」

 

 こいつは別に登録してるわけでもないからな。


「私はパスー。騎士団と遊んで来ますー、クレアちゃんにレイラちゃんにもお願いされてるしねー」


 気に入られたもんだな、でも頼むから遊び感覚で半殺しにするなよ……。大魔強襲スタンピード前に騎士団を壊滅させなければいいけどなあ。まあ後で様子を見に行くか、まだ実際に稽古の様子は見てないしな。


「そっか、程ほどにな。あっ! ずっと疑問に思ってたけど、ユズリハに聞きたかったんだ。本当にAランクの試験ってのが大魔強襲スタンピードの対処なのか? 想定してるって言ってたけどさ、数百年規模の天災が試験とか、鬼畜過ぎないか? なら普段の試験はどうなってるんだよ? そうじゃなければランクアップが百年単位になるんじゃないか?」


 純粋な疑問をぶつけてみる。


「普段はAランク相手に勝てば昇格よ、ただ今回は特別なのかもって思ってただけなんだけどねー」

「そうなのか、ならAランクと試合した方が楽だろ。すぐ終わるだろうしさ。それに二人共レベルどうなってる? 怖いから鑑定で見てないけどさ」


 うん、今更だが人外にしてそうで怖いもんな。


「「800後半ー」」


 おおぅ……、やっぱエグイことになってる。二人と知り合って何故か気に入られて一緒にクエストやら稽古、旅をしてきたが、約半月くらいでそんなになる?? この二人の人生を滅茶苦茶にしてしまったかも知れない…。


「ええー、マジかよ……。やっぱ大量の魔人や邪神の経験値共有されてたのか。あの邪神3000超えてたもんな、そりゃそんなになるわけだ。俺も2000近くになったし……」

「マジかよ……、俺らも正直驚いてるけどな。もう普通の人類のレベルやステータスじゃねえよ。カーズにアリアさんと会ってから、今までの基準が崩壊して麻痺してきたしな」


 まあそうだろうね、俺も神気とか使えるようになってるし。でもあれは基本使ったらダメだ。結界に使う程度にしとく。アリアの結界が頑丈だったのも神気を籠めてたってのが理解できたしな。


「同じくって言うか、スキルも色んな武技アーツもとんでもなく増えてるのよね。これならAランク相手でも楽勝よ。それにここのギルドの連中には色々とお世話になってるからね、万倍にして返してあげるわよ、フフフ……」


 こわっ! これは以前何かあったんだろうなー。


「王都のギルドはリチェスターと違うのか?」

「まあ一言で言うと、規模もデカいが調子に乗った奴らも多い。以前こっちに依頼で来たときはまだCランクだったってのもあるが、何かしらと絡んできて因縁付けて来やがる。今回は倍返しだけどな、ヘっヘっヘ……」


 二人共色々あったんだな。しかも結構根に持ってるし。でも俺も絡まれるのは嫌だなー。


「なるほど、Aランクがどの程度か知らんけど、このレベルで負けることはないんじゃないか? 試験が試合になっても殺すなよ。回復できる範囲にしてくれよな」

「Aランクの基準が大体100レベルってとこね。Sランクになると1000って言われてるけど、国に一人いるかどうかってくらいだし、幻のランクってとこね。Bランクは30~50程度、そこから上からの基準が一気に高くなるってわけ」


 ほうほう、ぶっちゃけ初めて聞いたけど、そういう基準があるのか。


「へぇー、冒険者ってそういうものなんだね。楽しそう」


 アヤはこれからだしな。好奇心が先走ってるんだろうな。


「レベルだけ見たら俺らはSランクにも手が届くかも知れねえ。もしかしたら大魔強襲スタンピードはSランク試験になるかもだぜ」


 もう受かった気になってるなあ。でもAランクの基準がほぼ今の9分の1のレベルだしな。デコピン一発だろ、下手したら。


「じゃあメインはアヤの登録試験か。魔法は大丈夫だとして、実戦形式はやっぱBランクが相手か? 俺のときみたいに」

「まあそうなるだろな。って姫さ、いやアヤは戦えるのか?」


 そう思うだろうなあ、俺も心配ではあるけど。


「そうよね、アヤちゃんこないだまでお姫様だったんだし、大丈夫なの?」


 人前で姫呼びは面倒なことになるので、みんな『アヤ』と呼ぶことに決めている。そして王国内では、外に出るときは認識疎外で正体がバレないようにする。中立都市に戻れば別に問題はないけどね。


「うん、みんな心配してくれてありがとう。でも多分大丈夫だよ、レベルは変わってないけど神格でステータスが上昇してるし、レイピアも訓練受けて来たんだから。これでもやるときはやるんだよー」


 そうだな、何をやっても俺よりよっぽど飲み込みは早かったもんな。


「そういうこと。それにやるって言ったら本当にやるから。俺らは外から応援しようぜ」

「アヤちゃーん、手加減するんですよー。Bランク相手くらいだと下手したら殺しちゃいますからねー」


 未だに食ってる奴がそんなことを言った。見てるだけで胸焼けがする。


「そうかもねー、カーズの試験のときのエリックなんて酷かったもんねー。無様過ぎて、アハハ!」


 まあ、あのときのエリックくらいなら問題ないか。


「うるせーな、俺もまさかこんな化け物だとは思ってなかったんだよ。正直舞台で対峙したときに死ぬと思ったくらいだぞ」


 俺を見ながら言うエリック。酷い言い草だな。


「人を化け物とか言うなよ、傷つくぞ。それに本当の化け物は俺の隣にいるだろうが、色んな意味で」


 みんなが食べ続けているアリアを見て頷く。


「確かに、よく生きてたよな俺ら……」

「思い出すだけで恐ろしい稽古だったわよね……」

「俺は毎回死んでたしな……」


 でも御陰で闘いのイロハを学べたしな。素直に感謝しとくか。


「今は騎士団がそうなってるんだろ? 二人は一緒に稽古つけに行ったんじゃないのか?」

「ああ、そうだな……」

「まあそうね……」


 何その反応。うん、詳しくは聞かないでおこう。暫くそうして談笑しながら朝食を終え、アリアはクレアとレイラ姫が迎えに来たので連れて行かれた。まだ食べたそうにしてたけど。


「さて、俺らもそろそろギルドに行こうか」



 王城からのんびりと食後の運動がてらの散歩をしながら、俺達はギルドへと向かう。顔バレしてるから沢山の街の人達に声をかけられたけどね。さてさて、試験はどうなるかなー。




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一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

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