第二章 32 バレた
病み上がりというか、まだ魔力も回復してなくて怠い状態の俺の部屋にしつこいくらいノックが響く。こいつらは…、遠慮って知らんのか。いや、最初からなかった。溜息が出る。
「すごいノック……」
「あの二人だ、いつもあんなんだよ。宿でも容赦なく押しかけてくるしな。しかもクレアもなぜか一緒みたいだな」
「変わりませんねー、平常運転で」
まあお見舞いってとこだろうな。
「とりあえず案内してくるね」
席を立ち、扉へと向かうアーヤ。
「はい、どうぞお入り下さい」
扉を引いて開けると同時にズカズカと入って来る2人。自分ちかよ。
「お、姫さんいたのか、オッス」
「アーヤ姫! おひさー! カーズは? 生きてる?」
こいつらいつの間にこんな気安くなってんだ? てかやっぱり普通に元気じゃないか。
「申し訳ありません、姫様。私まで……」
「クレア、あなたもいらっしゃい。気にしないで入って」
王族モードだ、言葉遣い丁寧だし。
「では失礼致します」
申し訳なさそうに入室してくるクレア、対照的だなー。いつも通りの騎士の正装、二人は普段着の様なラフな格好だ。ぞろぞろと入って来る、今日は千客万来だなあ。
「アリアさんもいたのか? 姿が見えないって聞いてたんだが……。しかしまた変わった装備だな」
やっぱりな、あの剣術小町も変だと思われてたのかあー。
「良かった、無事だったのね! アリアさん、心配してたんだから!」
あんだけ修行でボコられた化け物が行方不明だったんだもんな、そりゃあ心配にもなるか。こいつら一応自称弟子だしな。
「あははー、ちょっとやられてねー、神域でお休みしてたんですよー」
うん、まあ嘘は言ってない。やられたのは義骸だけど。
「二人共無事で良かった。元気そうだし。魔人相手に無茶したって聞いてたしな。それにクレアも、二人の治療すぐしてくれたって聞いたよ、ありがとう」
「いえ、とんでもありません。お二方の御陰で被害も出ていませんし。あの闘いで色々と学ばせて頂きました。お礼を言わねばならないのはこちらの方です」
おお、やっぱこの人は人間出来てるなあ。頭を下げておいた。
「で? どんな無茶したんだ?」
二人を見る。
「まあ、ちょっとアリアさんの大剣技の真似事でな。でもまだ俺には荷が重かった、反動でぶっ倒れただけだ。ちょっと全身から血噴いたくらいだけどな、ハハハ!」
まさかアストラリア流を真似て放ったのか? ならシューティング・スターズか? 無茶苦茶するなーこいつは。血噴いたって、普通は笑って言えねーぞ。
「私は魔力が枯渇して寝込んでただけだから、すぐ元気になったわ。
「そっか、ありがとうな。いや本当に無事で良かったよ」
「魔人化する前は雑魚だったのによー、ありゃ厄介だぜー。あれが超速再生ってやつらしいけどな。斬ってもすぐ回復しやがるんだよ」
「えー、そんな特殊能力持ってたのか? あのかませ犬共は」
そいつは初耳だ。個体差があるのかも知れないな。
「全くよ、奥の手を練習してて良かったわ」
そんなの練習してたのか?
「奥の手?」
「カーズがやってた魔法の融合。合体魔法よ、ホーリーブラックボルト」
まるパクリだけど、あれを練習してたのかよ?
「あんなのやったのか? そりゃ魔力なくなるだろ」
聖魔融合は他のより反発が強いし魔力ごっそり持ってかれるんだよな。理由はわからないけどね。
「それでも足りなかったから、そこにフレイムバースト喰らわせてやったけどね!」
「えー、3属性融合かよ……。すげえな」
後先考えてないなあ、この二人は……。さすが
「ということでカーズ、私の勝ちね! フフーン!」
すんげードヤ顔。別に俺はお前と勝負してないんだけどなあ。
「うん、まあいいよ別にユズリハの勝ちで……」
胸を張るユズリハ。うんうん、良かったね。
「お二人の闘いはお見事でした。武器の扱いは勿論、魔力の使い方、逆属性や魔法を融合させるなど……。私もあのように強くならなければ」
うーん、こいつらあの女神のしごきで生きてたくらいだしなあ。
「ならアリアに稽古つけてもらえば? この二人みたいに。毎回半殺し覚悟で」
ちらっとアリアを見る。
「あら、クレアちゃんも稽古をお望みー?」
ニヤニヤと笑うアリア。こいつこういうところは絶対ドSだよなあ。神様のくせに短気だしさー。
「アハハ……、ではお手柔らかに……」
ビビらせてどうすんだよ。
「で、お前は何でこう毎回死にかけるんだ? 修行中もだけどよ」
そうだな、アリア相手には毎回ぶっちゃけ1回死んでるしな。加護で致死ダメージ無効になってるだけだし。
「いや、俺にもわからん。魔人がヤバい奴を喚び出したんだよ。姉さんもやられるし、俺も死にかけた」
「えー! アリアさんが負けたって!? どんな化け物なのよ!」
アリアに念話を送る。
(これ話してもいいのか? 天界の問題だろ?)
(別にいいんじゃないですかー? 知ってた方がいいかもですし。ただ邪神のルーツは大虐殺に繋がるのでタブーですけど)
マジか? 大丈夫なのかよ、軽いなーこいつは。でも大虐殺のことに触れなければいいか。
「邪神ってのが出てきてな。魔人は親玉を含めて合計8体全部すぐ片づけたんだけど、そいつに相当ボコられた。結果的にはギリ勝てたけど」
うん、このくらい話すのは大丈夫か。
「魔人8体……、すぐ片づけたとか簡単に言いやがって。俺らがどんだけ苦戦したか……。でもさすが二人だな」
うーむ、ちょっと失言だったか。でも超速再生なんてなかったしな。二人が相手した奴らよりは弱かったんだろう。腕を組んで頭を捻る。
(カーズ、何か忘れてませんかー?)
アリアか、何だ? わざわざ念話で。
(ん? 何のことだよ?)
(えー……、みんなの視線をよく見て下さいよー)
何だよ? 確かにそこまで人の顔を注視してなかったな。とりあえず顔を上げてみんなの視線の先を追う。あ、なるほど。そりゃ目につくわな……。でも今は元に戻れるほどの魔力がないし、仕方がないと言えば仕方ない。改めてずっしりとしたものを組んだ腕で持ち上げていることに気付く。どうしよ、これ……。
「カーズ……」
あー、俺が自分の状態に気付いたのがわかったのか。さすがユズリハ、抜け目ない。
「アンタちょっと縮んでない? それとさっきから当然のように堂々と見せつけてるけど、その胸はなんか詰めてんの?」
なるほどー、最初から気にはなってたけど敢えて聞かなかったと……。そういうことかな?
「あ、いや、これは、そのー……」
うん、誤魔化しようがない。困った、ユズリハが迫って来る。
ムギュー!
ベッドに乗り上げてきて、後ろから抱きしめるように両方とも鷲掴みにされる。
「ちょっ! ユズリハ、やめろ!」
「これは……、本物?! しかも私より大きい! どういうことなのかしら……?」
何でキレ気味なんだよ……。
「カーズ殿、やはり女性だったのですか?! では以前はサラシなどで隠して……?」
ムニムニムニムニムニムニ……
「ちょっ、いや、そういう、わけ、じゃ、マジやめて!!」
変な感覚がする。自分の体じゃないみたいだ、こんなのサラシで隠せねーよ! てかいつまで揉んでんだこいつは!
「おい! エリック! 助けっ!」
「スマン、ちょっと見てらんねえ」
こいつ、目逸らしやがった! 純情ぶりやがって!
「ハア、ハア……、マジ、やめて……っ!」
グイッとユズリハの腕を掴んで何とか剥がした。こいつ力強えーよ、魔導士だろ? 俺の力が相当落ちてるのもあるのか。あー、もげるかと思った。
「わかったから、姉さん! 説明よろしく!!」
自分の胸をガードする。まさか自分がこんなポーズを取る羽目になるとは……。泣きたい。女性が恥ずかしいと感じる気持ちが少しわかってしまった……。これからはあんまり人のおっぱいを拝むのはやめよう。もう犯人に丸投げだ、どうせ上手く嘘吐いて誤魔化してくれるだろ、こいつなら。
「うーん、どう説明しましょうかー?」
「アリアさん! どういうこと!?」
ユズリハ、何なんだよそのテンションは……。
「私も是非お聞きしたい!」
えー、クレア食いついちゃうのかよ……。ちょっとキャラがブレてるなあ。エリックはもうそっぽを向いている。こいつ結構初心だな……。
「―――っ!!」
アーヤは顔を両手で覆っている。うん、それが普通の反応だよ。可愛いなあ。
「えーと、前に何かしら功績を成した人は神域に招かれるって言いましたよねー?」
そうだな、そういう設定にしてたね。
「神域に招かれるということは、神から神格というものを与えられるということなんですよー。これを持っている者は身体能力が増し、歳を取らなくなったり、体を巡る魔力量が常人とは比較にならないレベルにまで向上するんですよー。そしてこれは本来禁じられているのですが、神格の一部を与えることもできるんです。カーズが以前死にかけたことがあって、そのとき無理矢理私の神格の一部を与えて命をつないだんですよねー。ですが私の神格は女性のもの。ですからそれを受け取ったカーズは魔力が極端に減ると男性の体を維持できなくなって、女性体に引っ張られちゃうということですねー。面白いでしょー? でも私の神格なのに女性体になると私より大きくなるのは実にけしからんですねー」
さすが嘘吐きを司る神様、相変わらず息をするようにペラペラと……。でも最後のやつは絶対本音だな。面白くねえよ、けしからんとは思うけど。
「そ、そういうこと、だから絡むのはやめて!」
「へー、そんなことってあるのね、不思議。でも確かにけしからんわね……」
「ええ、全くですね。ユズリハ殿……」
何でクレアまでキレ気味なんだよ?
「あっ!」
アーヤが声を上げた。何だ、どうした?
「だから……。私はカーズから神格を受け取ったから……」
「アーヤどうしたんだ? 問題があったのか?」
まさか男性化したりしないよね? それはちょっと泣くよ俺。
「いや、私の胸も前より急に大きく……」
「ええー……」
それは気付かなかった。寝た切りだったし、顔しか見てなかった。何で俺に関与した神格は妙な変化をもたらすんだ?
「うん、私は別にいいんだけどね……」
あー……何だろう、ヤバい予感がするなあ。もう嫌だこの雰囲気。
「カーズ! 私にもその神格を寄こしなさい!」
「カーズ殿、私にも是非!」
何でこんなに食いつくんだよ……。そんなに大事か? 俺はおっぱいに貴賤なしと思っているのに。怖い……。クレアも必死過ぎ、キャラ崩壊してんじゃん。くっ殺系騎士だと思ってたのにー。あのキリッとした態度はどこにいった?
「嫌だよ、そんなポンポン与えていい物じゃないんだって! アリアも言ってたろ! 本当はダメだって。アーヤは俺の身代わりになって死にかけたから、蘇生するためにそうするしかなかったんだよ! もうこの話はおしまい! 俺も困ってんだよ、こんな体になって。それにその食いつき方が怖い」
「こんなに可愛いくて綺麗な顔しておきながら胸まであるとか……」
あーもう! やめてくんないかな、この話題。
「好きでこの顔してる訳じゃないんだけど……」
……あ、ヤバッ! 今のは我ながら失言だった! ユズリハが笑顔でキレてるのがわかる。嫌な汗が流れてくる。
「クレアさん、大浴場に行きましょう! アーヤ姫、アリアさんも一緒に! 隅々まで調べてやるんだから!」
手をワキワキさせるユズリハ。
「えー、俺男……」
「今は完全に女の子でしょうが! さっさと来なさい!」
こえーよ!
「いや、まだ力が戻ってなくて歩くのもしんどいんだけど……」
「では私がお運び致します、御免!」
無理矢理クレアにベッドから軽々と抱きかかえられて持ち上げられる。そうだ、この人男性体のときの俺より背が高かったんだよなー。
「あははー、面白そうだし、お城のテルマエも堪能してみたいですしー。一緒に行きましょうかー」
「じゃあ私も折角だし、冒険の話とか聞きたいかな」
みんな何でそんな乗り気なの? 俺の性別は男だよ、羞恥心ないの?
「何でお姫様抱っこ?」
「いえ、羽の様にとても軽いもので、これが運びやすそうです」
こういうときだけ発言がイケメンなのは如何なものだろうか……。
「エリックー、助けてくれー」
「スマン、カーズ。俺には無理だ。達者でな……」
後ろを向いて手を振るエリック。こいつ……、お前絶対童貞だろ!! しかも今生の別れみたいな台詞吐きやがったな!
「ささ、カーズ殿行きますよ!」
「カーズ、結局何かと巻き込まれるのはどこでも同じだね、ふふっ」
楽し気に笑うアーヤ。うん、可愛いのはわかったから!
「アーヤ、止めてくれよ、姫の権限で!」
「実は私も結構興味あるかもー」
「ええー……」
そうだった。好奇心旺盛だったね、覚えてるよ。
「さあ、行くわよ!」
ユズリハとクレアを先頭にお姫様抱っこで運ばれる。何この羞恥プレイ? 終わった、やっぱユズリハだけにはバレたらダメなやつだった。絶対おもちゃにされるに決まってる。力が落ちてるから抵抗もできないし。何で俺の周りには変な奴が集まるんだ? はあー、もう涙が出ちゃう、だって女の子だもん。って何だ今のは?! 数日この体だったせいか精神までそっちに引っ張られてるのか? これから俺は
「やめてくれ――――――!!」
その後俺が浴場でどんな目に遭わされたかは、想像にお任せする。はあ、もう散々だ。やっぱ女性は苦手だ。俺にとって、この日の経験はこの世界に戻ってからの最初の黒歴史になった。
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たまにはこういうネタ全振りも悪くないなと思ってしまいました(笑)
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