第二章 30 Interval
5日程過ぎた。邪神戦の影響で玉座の間から上は崩壊。それに城のあちこちがそのときの余波で崩れ、今は復旧を急いでいるとのこと。俺は力を使い過ぎたせいで3日間ずっと眠っていたらしい。目覚めたのは昨日だが、一日中寝たきりだった。そりゃあんなに派手に戦ったんだ、いきなり神格とか神気やらをボロボロの状態からぶっ放したりしたんだし反動が来るよな。
今は城の結構いい部屋を充てがわれていてそこのでっかいベッドで休養中ということだ。元気になったら王様に会って欲しいと言われているが、まあそれは後日だな。傍にはずっとアーヤが付いていてくれて回復魔法やら介護やらをしてくれたらしい。うーん、健気だ。可愛い。助けられて良かったと心底思う。
今日はまだ多少体が怠い程度。昨日までは城の人が用意してくれた病人が着るような服を着せられていたのだが、
ベッドの右側に置いた椅子に座ったままベッドの淵に伏せて寝息を立てているアーヤの頭や髪を撫でる。前世では赤毛がかった髪の毛も今この世界ではシルクの様な美しい銀色だ。そりゃあすぐに分からないよな。顔はあのときと変わらないのに。
でも俺の方が髪の毛どころか見た目も声も、しかも場合によっては性別まで変化するんだ。何と言うか、よくまあ俺だと分かったもんだよ。とりあえずまだ体が怠いので横になる。昨日よりはまだマシでも、本調子ではないのはわかる。暫くはゆっくりさせてもらうことにしよう。
アリアからの念話によると、天界のゴタゴタはとりあえず片付いたとか。さすが神様達、行動が早いことで。内通者は捕まったそうだが、魔人達に邪神召喚の技術が渡ってしまったことに関しては、まだ対策中らしい。いや、本当に早く何とかしてくれ。もうあんなのと絶対やり合いたくない。今回は相手が油断してたから結果的に勝てただけだ。最初から容赦ない奴だったら神格に目覚める前に死んでたはずだしな。
そして当事者の唯一神様は、今回のような事態に備えて義骸のパワーアップをしてもらっているとのこと。調整が済んだらすぐ戻るってさ。地上で魔人の監視とか色々任務を受けたと言ってたし。
エリックにユズリハも魔人化した相手と死闘を繰り広げたとかで、まだ療養中らしい。城内の医療用の部屋にいるとのことだが、まだ会ってはいない。生きててくれて良かったよ。関りを持ったら魔人にされてしまうってことが分かったけど、実に厄介だ。あのメフィストフェレスが各国で戦争が起きるって言ってたのも、考えると頭が痛い。
だが今のところ直下の問題は
まだはっきりと此方のギルドで聞いた訳ではないけども、これがAランクの試験を兼ねてるかも知れないって、ランクアップの試験キツ過ぎじゃね? 実際にギルドに行った訳じゃないからわからないけどね。
そしてアーヤをこれからどうするかもだ。王様に寄こせって言うしかないけどな。あれこれ考えても仕方がない。今は一緒に居られる幸せを噛みしめよう。それに眠い……。
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「カーズ起きてくださーい。カーズー」
「んむぅ?」
このもっちゃりとした気の抜けた声は……。
「ただいま戻りましたよー」
やっぱアリアか、上半身を起こす。
「ふわああああー、おはようアリア、んでお帰り。義骸治ったのか? ていうか早いな」
目を擦りながら答える。
「んー、天界とは時間の概念が異なるからじゃないですかー?」
うーん、そうなのか、まあよくわからんことはどうでもいいか。
「……あれ、寝てた?」
アーヤも目が覚めたようだ。
「おはよう、アーヤ。看病ありがとな」
よしよしと頭を撫でてやると、少し恥ずかしそうな顔をする、うん可愛い。とりあえずここではこの世界の名前で呼ぶことにしている。色々とややこしくなるしね。
「ハアーイ、アーヤちゃん、ハロハロー! イチャイチャしてるー? もうチュッチュしたのー? ねえねえー?」
相変わらずノリが古い、そしていきなりなんて下世話な奴だ。
「あ、はは、はい……。じゃなくて、アリアさん、いえ、アストラリア様! この度は色々とお世話になりました!」
立ち上がって頭を下げるアーヤ。そこまでしなくてもいいぞ。
「アリアでいいですよー、その呼び方だと色々揉め事が起きそうですしー、様も付けなくていいですしー。神格も繋がっているし、もうお姉ちゃんって呼んでくださいー」
余計にハードル上げやがった。すぐ調子に乗るなあ、こいつ。
「あ、は、はい、わかりました。では暫くはアリアさんと呼ばせて頂きますね」
言葉遣い丁寧になったよなあ。やっぱ知らずに王族として過ごしてきたからなんだろうな。昨日は身動き取れなかったから、その分彼女とは沢山のことを話した。失った時間を取り戻すかのように。何度も『ごめん』や『ありがとう』を言ったもんだ。俺の神格の一部を儀式で譲り渡したことで、俺のこれまでの記憶も引き継いで知ることができたらしいから、特にそんな小難しいことは話してないけど。
だがアリアには色々と聞きたいことがあるぞ。
「で、義骸はパワーアップしたのか? そして、今度は何のコスプレだよ……?」
こいつ、天界に帰って戻る度に変えて来る気がする。今回は何だろう、ぱっと見は教会のシスター服のような紺色ぽい色合いの服装だ。だがスカートは右前方に大きく腰下までの装備からスリットが入っている。巻きスカートみたいな感じだ。その腰回りの装備は腰の少し上からミニスカートくらいの長さの銀色のプレートの鎧の様になっている。頭には同色のサークレット、肩回りはポンチョのような感じのマント?なのかなこれは。長袖の上着の両腕には肘から手の甲までのガントレット、足も膝下までの鎧の様なプーツ、下にはニーソ? 黒いニーソみたいなのを履いていて、スリットが入った目に入る右側の足だけ絶対領域みたいな状態になっている。神様が際どいところまで脚を見せるな。
武器は腰にソードと刀か。プレート部分のデザインは俺の
「今回のテーマは何なの? シスター? ごめん、剣術小町の方が分かり易かったわ」
「フフーン、これは戦うシスター、ジャンヌちゃんモデルですねー」
ん? ジャンヌ?
「え? ひょっとしてジャンヌ・ダルクですか? あのフランスの?」
アーヤが先に口を開いた。
「お! そうです、アーヤちゃん。そのジャンヌちゃんですよー」
「え、マジ? 何かの作品のパクリかと思ったけど、本当にそんな格好してたのか? 歴史上の伝説の人物だしなー、本当ならちょっとワクワクするなー」
アーヤもうんうんと頷いている。
「そうですよー、まあ少しアレンジはしてるし、素材も違いますけどねー」
「なるほど、オリハルコンか」
「いやー、ジャンヌちゃんは本当に良い子なんですよー。可愛くて、イジり甲斐があってー」
「ちょっと待て、友達なのか? そんな人と? マジかよ、それは俺らも会ってみたいぞ」
伝説の聖女様をちゃん呼びするのなんてこいつくらいだろ。しかもイジるとか言ったぞ、こいつ……。地球中の信者を敵に回すだろうな。
「うん、すごい! 色々とツッコミどころ満載だけど」
アーヤ食いついちゃったよ。まあそれは俺も思う。ツッコミどころは満載だ。
「そうですねー、多分その内会えるかもですねー。もし魔王が復活したらですけどー」
こいつ、またお約束的な発言を……。
「おい、今サラッと物騒なこと言っただろ。そういうのフラグだからマジやめろよな」
「ジャンヌちゃんはこの世界では勇者の役目をしてもらってます。下界に生まれてくるときは記憶を神域で預かるようにしていますねー。どこで生まれても必ずジャンヌという名前で祝福を受けて生まれる設定にしてあります」
こいつ、聞いてねえな。設定って、ていうかそれ転生だろ? 彩だってそうだし、俺だけとか言っておきながら……。嘘を見抜けるくせに自分は軽く嘘つくしな、こいつ。いい加減にしろ。
「よーし、わかった。ジャンヌちゃんはさておき、転生者は俺だけとか言ってなかったか? 彩もそうだし、ジャンヌちゃんも転生じゃないか、どうなってんだよ?」
「ジャンヌちゃんも彩ちゃんも死後、魂だけこちらに来てもらってますしー、こちらで生まれたときには前世の記憶はなくなっていたでしょう? でもカーズは前世の記憶を引き継いで新しい肉体を与えてこの世界に生まれ変わらせたので、全然違いますよー。それにジャンヌちゃんは普段は神域で平和に暮らしてもらってますしー。あ、そうそう、義骸は結構パワーアップです。神気を全力で放つことはできないですけどねー」
こいつー……、ぺらぺらいけしゃあしゃあと……。
「すげー微妙な違いしかないだろ! 紛らわしく天界初のサービスとか言いやがって、じゃあなんで俺は選ばれたんだ? 彩と出会うようになったのもシナリオがあっただろ、絶対!」
「あははー、さすが鋭いー。まあ、もう話しても大丈夫ですかね。アーヤちゃんもちゃんと運命の人、カーズに会えた訳ですしー、神格から記憶を引き継いでいる以上、ニルヴァーナの成り立ちも知ってしまったでしょうしねー」
「え? そんなことまで? そうなのか、アーヤ?」
「うん、この世界に来てからのカーズとなってからの記憶も全部引き継いでるよ。大虐殺……、それも記憶から知ったんだよ」
おいおい、あの『血の盟約』ってそんなことまで受け渡すのか? 黒歴史も全部バレるじゃないか。もう二度と使わんからな。
「ということで、ジャンヌちゃんはともかくなぜ二人が選ばれたのか、仕方ないからお話ししましょうかねー」
仕方ないとか言いやがったぞ、こいつ……。
「ああ、どうせなら知っておきたい。あと特異点とかいうのもな。パズズが言ってたろ? それにアリアも以前、勇者や魔王をそんな風に言ってただろ?」
「そうですねー、じゃあそこから。特異点とは何か?」
「それって数学上の言葉じゃないのか? 俺は理系じゃないから詳しくは知らんけど」
「うーん、ここでは『特異な点』、要は他とは明らかに違っていることと捉えて下さい。では三人に共通している、その特異な点とは何ですか? わかります?」
「ええー……」
アーヤが困った声を上げる。そりゃそうだろ、そんな伝説の人物と共通点なんてあるわけない。
「いや、全然わからん。全く、これっぽっちも。俺らは普通の人間だぞ、伝説の人と比べられてもなあー」
「コホン、ふっふっふ―、それは『魂の清らかさ』です」
……何言ってんだこいつ? ダメだ、遂に本格的にボケたみたいだ。
「は? いやいや、アーヤは兎も角、俺はないだろ? 悪いことなんて荒んでるときいっぱいやったぞ。スポーツでも相手の嫌がることとか、裏をかくなんて大得意で快感だったくらいだしな。遂にボケたのか?」
「いや、私だってヤキモチ焼いたりとか、短気だったりとか、悪いところなんて挙げたらキリがないのに……」
まあそりゃそう思うだろ。自分で『私は善人です』とか、『怪しいものではありません』なんて言う奴ほど、ヤバい奴だと思うし。
「ボケたとかー酷いー。それは地球という世界で、長い年月をかけて他者からの悪意というものを少なからず受けて来たからそう思うだけです。それと魂というのは全然違います。それは他の介入を許さないその人の本当の心というようなものです。分かり易く言うと……、そうですねー。うーん、ではエジプト神話のマアトの羽、カーズは神話好きだから知ってるんじゃないですかー?」
あー、あの天秤の話か。
「古代エジプト神話の女神だっけ? でも地球の神は人間の想像って聞いたしなあ。でもそういう話なら知ってるぞ。確か死後に天秤に乗せたマアトの羽と死者の心臓が釣り合わなければ悪人だと決められるとか? そういうのだったと思うけど」
「あー小さい頃からそういうの好きだったよね」
よく覚えてるなあ。そうなんだよなー、なんかそういうファンタジーなことが好きだったんだよね、神話とか古代文明の歴史とか。
「そう、それです! でもそれの対象は死者ですよねー? では私は何を司る女神ですかー?」
フンフン! と胸を張るアリア。あ、これはアレだ、フリだな。
「食欲とコスプレの神様だろ?」
「ぶふっ!」
あ、アーヤがウケた。
「ちっがいますー! 真面目に答えーてー!」
俺の胸ぐらを両手で掴んで、ぶんぶん前後に揺らしてくる!
「ちょ、やめろ! 頭がクラクラする!」
ゴンッ! 頭にげんこつを一発。
「いったーい! 2回目ー!!!」
手を放して自分の頭を押さえるアリア。
「やかましい! 病み上がりの人間の頭を揺さぶるな! クラクラしただろうが!」
「ダ、ダメだよ、茶化し、たら、アハハハ! もう無理!」
おー、ウケてるなあー。笑い出したら止まらないんだよなー。思い出した。
「で、エンゲル係数高めの変わった服が趣味の女神が何だって?」
あーまだクラクラする。
「酷くなってる!? もう! いいですー、自分で言いますー。正義と公平ですー。私の神器に天秤のデザインがあったでしょう? それに嘘を見破れるってことも私の権能なんですよー」
「あー、そんなデザインが
根拠は分からないが、相手が嘘を吐いたら『
「あれはどうやっているかわかりますかー?」
あ、めんどくさいこと言い出した。
「いや、わかるわけねー。それにお前は平気で嘘つくだろ」
「まあまあ、それは置いといてー」
出たよ、自分のことは遥か天高くの棚の上に置きやがって。
「私は対象にした者の魂を正義の天秤にかけて、瞬時に言葉や魂の善悪をはかることができるんですよー」
「すごーい!」
アーヤ、素直だなー。可愛い。
「本当だー、まるで神様みたいじゃないかー(棒)」
「だーかーらー、神様なんですー!」
幼児のように地団駄を踏む女神。面白いなあー、本当にブレないわー。
「悪かったって。それで『魂の清らかさ』がわかるってことなんだろ? それで俺らの魂が要するに穢れてないってことか? うーん……、その目腐ってんじゃないのか? アーヤは兎も角、俺はどっちかというと悪って感じだと思うんだけどなあー」
だって女神様をからかいたくなるんだし。
「腐っててもバッチリ視えるんですー。それが私が2度目の大虐殺に参加する切っ掛けになったんですから」
「え? そうなのか? どういうことだ? しかも腐ってると認めたな」
それはちょっと聞き捨てならない。そして少し神妙な面持ちになったアリアが話し始める。
「1度目のときにもおそらく魂の清らかな者はいたはずなのに、無差別に人間全てを絶滅させたというのは神々にとっても色々と悔恨やら思うところがあったんでしょうね。本当の正義とは、正しい悪とは何か、そういう神々の思いから生まれたのが私という存在です。そして2度目のとき、まず世界中の全ての人間の魂を脳内で秤にかけたのです。一人でもその天秤が均衡を保った者がいれば救済しようと」
「じゃあ、それって……」
「それが俺達なのか……?」
これは衝撃的だ。言葉が出ない。
「まあ、そういうことです。三人、たった三人。一人は聖女として既に称えられていました」
「それがジャンヌ・ダルクだったってことか?」
「なら私達は?! アリアさん!」
それは当然気になる。
「あなた達二人は何処にでもいるような普通の恋人同士でした。だから私も、他の神々も驚いていたんです。特に何か特別なことを成し得た訳でもない二人の魂が清らかだったということに」
いや、もう話の途中から何となくは分かってしまったけど……。
「ちょっと待て、じゃあ俺らは元々……」
ふぅー、とアリアが息を吐く。
「この世界の人間だったということです……」
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