第二章 25 王城混乱・Mission Start!
アーヤの全王国民に対する念話による、驚愕の告白は城内にも当然届いていた。第21代クラーチ国王、フィリップ・クラーチは病に侵された体を従者達に支えられ咳き込みながら玉座の間へと向かった。
既にそこには彼の子供達、第一王子レオンハルトを始め、第二王子アラン、近衛騎士団長を務める第一王女レイラ、そのレイラの足にしがみつく様に第三王子のニコラスが重鎮たちや近衛兵と共に集まっている。
そしてその近衛騎士団に捕らえられた宰相ヨーゴレとその関係者である政務官達、オロスに姿を変えた魔人も連行されていた。悪を城内から逃がさないようにするというカーズの戦略は完璧に機能していたのだ。
支えられながら、ふぅ、とため息交じりに玉座に腰掛けるフィリップ国王。
「さて、よく集まってくれた。どうやら大変な事態になっておるようだな」
と、後ろ手に拘束され首の上から近衛騎士団の槍で押さえつけられている宰相ヨーゴレを見る。他の王族、重鎮達も同様に彼を睨むように見ている。共に連行された六人の政治関係者達は、皆もうお終いだという顔をしている。勿論ヨーゴレの横にはオロスの姿に成りすました魔人もいる。だがこの魔人だけは、この状況を愉しむかのように下卑た笑みを浮かべて。
「ヨーゴレ宰相よ、先刻の我が娘アーヤの声で語られたことは真実なのか?」
これまで信を置いてきた臣下。ここのところの強引な政策も彼なりの考えがあるものだと思い、静観してきた慈悲深い王が言葉をかける。
「父上、お言葉ですが、既に城下では民達による大きな騒動も起きているようです。それに我が妹アーヤがわざわざあのような大それた嘘を吐く理由などないでしょう。早々に処断すべきです!」
少々頭が固いが、質実剛健、非常に真面目で濃い短めのブラウンヘアをした長兄のレオンハルト。次期国王は彼で間違いないだろうと言われる、正義感の強い男だ。
「俺は政治には特に関心はないが、魔人が絡んで来るとなると話は別だ。だがよ、その肝心の魔人ってのはどこにいるってんだ?」
ぶっきらぼうな言葉の第二王子アラン、黒髪を無造作に伸ばした風貌で、芸術関連に高い才能を発揮している。
「アラン兄様、それを問い質すために我が近衛兵達で彼らを即刻連行したのです。これから明らかにすればよろしいでしょう」
長女にして第1王女のレイラ、近衛騎士団を率いる程の剣技に秀でた武闘派だ。長くウェーブを描いた紫色の髪が特徴的な美しい女性である。今も近衛騎士団長の白銀の鎧を纏っている。そして不安そうに彼女にしがみ付く一見女の子の様に見える長い金髪の末っ子のニコラスも静かにこの状況を見つめている。
「ふむ、そうだな……。先ずはアーヤがここに戻って来てからだ。それにどうやら協力してくれている者達もいるようだ……」
皆がそれもそうだというようなリアクションをする中、ヨーゴレは血走った目で対面にいる王族たちを睨む。くそ、騎士団長共め、しくじったというのか? 王国の騎士団長らが簡単に敗れるなど予想外にも程がある。
「おのれ……。オロス、一体どういうことだ……? なぜこんなことが起こっているのだ?!」
隣で拘束されているオロスを睨む。
「ククク……、騎士団長や副団長が負けるとは、向こうの方が1枚上手でしたなあ」
普通の人間ならもはや逃げ場などないのだが、この者にとっては愉快な遊戯を演じているようなものだ。
「くそっ……、なぜこんなことに!?」
魔人の瘴気で既にまともな思考など出来ないのだが、まだ抗おうとする妄執で必死に対策を考える。アーヤ王女がここに辿り着けば全ては終わりだ、だがどうしようもない。どうすればいいのだ?
しかし霧がかった思考では碌な解決策など浮かぶはずもない。早く何とかしなければ、証拠が揃えば極刑は免れないだろう。焦りに汗を滲ませる彼を横目に、魔人はさも愉快であるという表情を最早隠そうともしない。この人間共の振り撒く焦りや不安、猜疑心や虚栄心、そういった悪感情、実に堪らん。
最早この宰相のことなどどうでもいい。最期までどのように足掻いてみせるのか、そして王女共はどんな手でこの場を収めるのか。どちらにせよ、動揺する人間共の姿が見られる。実に愉悦だと。
緊張感が溢れる混乱した玉座の間で、国王達は誰もがアーヤの到着を待った。
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「着いたぞ! 王城だ!」
国民達の声援を受けながら俺達の乗った馬車が城門を通過する。ここからなら走った方が速い!
「ここでいい、止めてくれ!」
御者のおっちゃんに伝える。
「アリア、アーヤ行くぞ!」
「はいはーい」
「ええ、もうすぐよ!」
馬車を飛び降りる。
「アンタ達はここにいろ、馬車の中の方が安全だ! あとは任せろ!!」
「「お願いします!!」」
侍女達の声を聴きながら、アーヤを抱えたまま城内へと急ぐ。
「道案内は任せるからな、アーヤ」
「うん、任せて」
「さてさてクライマックスですねー」
アーヤの案内で城内へと入り、階段を飛ぶように駆け上がる! そして長い通路を抜けて、玉座の間へと繋がる扉を、バン! っと開けた。やはり予想通り! 千里眼で視えてはいたが、この件の全ての関係者は揃っている。逃げた下位の魔人もいない、全て捕らえられている。アーヤの念話、効果アリアリだぜ。
アーヤを降ろし、三人で長い玉座の間の奥まで進む。玉座から離れた左手側に拘束されたまま俺達を睨む男、なるほどあれが汚れキャラね、その隣には魔人、こいつかー。オロスそっくりに化けていやがるが、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。うーわ、きっしょいなあ!
(アリア、魔人の牽制は頼む、ここからが本番だしな)
(はーい、ちゃんと見張っときますよー)
右手には王族、なるほど王子や王女の兄妹もみんな揃ってるな、それと国に仕える重鎮達といったところだな。こっちには怪しい奴は視えないな。そして玉座に腰掛ける国王様ね。鑑定、やはり毒の呪いを受けている、体力も結構減ってるな。まだ初老ってとこか、立派なお髭をしてはいないな。銀髪はアーヤと同じだ、他の兄弟姉妹はみんな色が違うのに。異世界は謎だ。
さあ先ずはここからだ。弱っているところに精神的ショックを受けて死なれては困る。俺達は玉座から丁度見下ろせる程の距離、左右にどちらも見渡せる位置で、王へ謁見するこうドラマやら映画でよく見るポーズで跪いた。うむむ、役者の気分になるな。先ずはアーヤに話してもらおう。ここからは順序が大切だ。
「ただいま戻りました父上、それに兄様達、姉様、ニコラスもね」
「おお、よく戻って来た。何やら大変なことが起こっているようだが……。詳しいことを話してくれるか」
「はい、ではこちらにいらっしゃる中立都市の冒険者であるカーズ様と姉のアリア様。この度私が賊の襲撃を受けた際に救出して頂きました。まずは彼らの話を聞いて下さい」
よし、ナイスな紹介。信頼度一段階アップだ。さて演技演技、俺は顔を上げて話始めた。
「初めまして、クラーチ王。俺は中立都市のBランク冒険者カーズ、こちらは姉のアリアです。先ずはこちらの手紙を見て頂けますか」
「うむ、カーズか、私はクラーチ王国第21代国王、フィリップ・クラーチだ。この度は我が娘アーヤを救ってくれたことに礼を言わせてもらう、ありがとう。して、手紙とは?」
「中立都市の冒険者ギルドマスター、ステファンから預かってきたものです。大切なものなので、直接お渡しさせて頂きたく」
「何? おお、ステファンからか。わかった、受け取ろう」
俺の交渉術スキルはSランクだ。普通は王の手前までなど近づける訳がないが、このスキルはクレアの説得が上手くいったようにこちらが有利になるように交渉事が進む。やはり反対する者は出ないな。俺は立ち上がって胸元から王への手紙を出し、玉座の階段へと向かう。そして俺が王の前へと階段を昇る際に、ヨーゴレが大声で叫んだ。
「王よ! そやつらが勝手にでっち上げたことにございます! 私は何もしておりませぬ!!」
無視だ、今になって俺達に意味不明な濡れ衣を着せようなど片腹痛い。念話で馬鹿笑いしてるやつが一名いるけどね。やめろって、もらい笑いしたらどうすんだよ!
「どうぞ、お受け取り下さい」
王様に直接手渡す。
「うむ、済まぬな」
王様が受け取るために手を伸ばす。さあ、このときを待ってたぜ!
「ところで王よ、最近病に苦しんでいるとお聞きしましたが。お体の方は如何でしょうか?」
「うむ、そうだな。恐らくもう私は長くないとは思っておる。今も辛くてな、ゴホゴホッ、はあ、済まぬな……」
「いえ、今すぐ完治させて頂く」
「何と、それは一体?」
ガシッ、王の手を掴む。周囲は騒然となるが無視だ。
「
カアアアアアアッ!!!!!
「「「父上!!!」」」
「「「「国王様!!!」」」
聖魔法の光に包まれた王の体から黒い霧の様に毒素や呪いが吹き出し、消えていく。そしてその光はすぐに収まった。
「もう大丈夫です。ご無礼致しました。調子は如何ですか?」
そう言って俺は手を離した。
「お、おおお! 何だこれは、最早息苦しくもない。それどころか体中が軽く力が溢れるようだ! カーズよ……、今のは一体……?!」
玉座の下は騒然だ、普通の魔法じゃ呪い自体解けないもんな。
「あなたはそこの宰相ヨーゴレ配下の魔人がかけた呪いに侵されていたのです。病気に見せかけた遅効性の毒で徐々に体が弱るように。ですが、俺の聖魔法で完全に消滅させました。落ちた体力はおそらく数日で元に戻ると思います。もう咳き込むことも苦しむこともないでしょう。では下がらせて頂きます」
俺は一礼して階段を降りた。周囲からはさっきとは異なる驚きの声が上がる。
「父上は呪いにかけられていたというのか、それをあの一瞬で解除してしまうとは、彼女は何者なんだ……?」
聞こえてるよ長男のお兄さん、彼女じゃないですよー。とりあえず2段階目クリア。
「カーズよ、何と礼を言えばよいのか……。ありがとう」
「いいえ、当然のことをしたまでです」
よしよし、これで俺達の信用度は更にアップだ。ステファンのこっそり渡してくれた手紙の御陰で、王様の側まで近づく作戦成功。心の中でガッツポーズ!
「では読ませて貰おう。久しいな、我が友ステファンからとは……」
あのじいさん、手を回すって言ってこっそり手紙を渡してくれてたけど、まさか国王と友人だったのかよ。ならこちらの信用度は更にアップだ。因みに手紙の内容はこうだ、中立都市での賊の襲撃と救出、その関係者。そして俺達を信頼して護衛としてこちらへ送ったというようなこと。わざわざ音読してくれてありがとう王様。
「これは……!? なるほどあやつが言うのなら信用に足るということだな」
「はい、ありがとうございます。ここに証人も連行しております」
追撃だ、
「こいつらの証言を聞いて頂きたい」
もう反抗する気力もない二人はペラペラと誰の依頼かとか、それに加担したこと王家抹殺の企み、魔人に呪いをかけられていたことなどを白状し、そのまま牢屋へと連行された。
「王よ! あなたは騙されているのです! そんな奴ら等私は知りません! きっと嘘を吐く様に洗脳しているに違いない! 耳を貸してはなりません!!」
おーお、この期に及んで犯人ですフラグを立てるとはねー。笑えるレベルの大根役者だな。そんな面倒くさいことするわけねーだろ。それに姫の元従者を知らない訳がないだろ、アホなのか? しかし洗脳ねえ、思いつきもしなかったわ。
「父上、あの男に耳を貸してはいけません。実際賊に襲われた私を救ってくれたのがこのカーズ様なのです」
ナイス追撃アーヤ、娘の言葉を信じない親はそうそういない。
「くっ……」
そうそう、黙っとけ。お前らはもう詰んでるんだ。さて最後の切り札を出すだけだな。
「ヨーゴレよ、申し開きはあるか?」
慈悲深いなー、打ち首獄門とか言ってもいいだろうに。
「父上もう良いでしょう。この男が騎士団までも動かし、我が妹の暗殺さえ計画していたことは紛れもない事実! この私の手で斬り捨ててもよろしいでしょうか?」
おお、お姉ちゃん血の気多いなー、ユズリハと被るレベルだわ。
「おのれえええ!!! こんなのはでっち上げだ!!! 私を嵌めようとしているに違いない!!!」
ほほう、まーだ吠えるか。往生際の悪さだけは半端ないな。
(カーズー、もう、( ̄m ̄〃)ぷぷっ! 腹筋が死にそうです――!)
こいつー、念話で上手く笑いやがって。俺も堪えてるんだよ。この茶番下らなさ過ぎだしさー。
「そうだ、オロス! 貴様だ! 貴様が私をそそのかしたのではないか! どうなっている!!」
今度は魔人に押し付けだしたぞ、まあ確かにこんな汚れ野郎は付け入られて当然か。見るに耐えんな。
「ククク……、王になるべき人間は自分だと言っていたのはあなたではありませんかな? 私はあなたのお手伝いをしたに過ぎませんがねえ」
あらら、魔人にまでそっぽ向かれたか。もう利用価値ナシということか。
「でよー、結局その魔人はどこなんだ? 美しい冒険者のお嬢さん。それがわからなきゃ意味がないんだぜ」
フフフ、そういう話になるのを待ってたのだよ、てか次男の兄さん、アンタもかよ。しかもこの人結構遊んでんな。雰囲気でわかるぞ。
「そうね、ヨーゴレを主犯として処断するとしても、その魔人がどこにいるのか? お嬢さんは知っているんでしょ?」
お姉さんあなたもですか……。まあいいけど。
「私は魔人など知らぬ!! いたとしたなら私は騙されていたのだ!!」
見苦しいなあ、もういいや、トリを飾る最後の役者に出演して頂こう。
「ならば、こちらをご覧下さい」
「王よ、ご無沙汰しておりました」
城内はもう大混乱、何がなんやらである。ヤヴァイ! クレアに対してのインパクトから騒ぎになるとは思ったけどこれはマズイ、やり過ぎたかも。
「皆様、お静かに!!!」
オロスが一喝! おおー、この人もいいもの持ってるな。もうこの人が宰相でいいんじゃね?
「私はこのカーズ殿とアリア殿によって救って頂きました。私の姿を奪い、ヨーゴレ宰相の悪意につけ込んだ魔人によって姿を変えられていたのです」
一瞬にして静かになる周囲。ならばあの取り押さえられてるオロスは?? 誰もが恐る恐る偽物を見る。
「オロスよ、お前が本物のオロスなのだな! ではあの偽物がやはり……」
困惑しているが、事実は伝わった、ちょっとやり過ぎ感はあったけど完全に作戦通り、チェックメイトだ!
「あやつが魔人です。王よ!」
オロスが偽物を指差す! 城内は再び騒然となる。
「オロスが二人!? どういうことなんだ!! なら貴様は一体!?」
あれ? ヨーゴレそこは知らんのかよ? でもお前の悪意あってのこの惨事だ、ギルティには違いないけどな。
「ククク、お見事。よくぞ見抜いた、人間にしてはやるではないか。いや、神の眷属と言った方がいいかな?」
だから何なんだよその眷属ってのは? オロス魔人といいこいつといい。それによくぞ、じゃねえよ、ハナからバレてんだよ。
魔人から途轍もない瘴気が立ち昇る。大根役者が、やっと自白したか。
「離れろ!! 飲まれるぞ!! あとは俺達二人に任せろ! 全員避難してくれ!!! ここにいるだけで危険だ!!」
「さてさて、ようやく出番ですねー。三文芝居もあそこまでいくと三文にすら失礼ですねー」
俺と共に立ち上がるアリア。
「アーヤ、君もみんなと一緒に避難しろ!」
「でもカーズ! あなた達に全て押し付けてしまうなんて!!」
この場に留まろうとするアーヤ。だが、もう噴き出した瘴気で嵐のような突風が起こっている。
「いい、このために来たんだ! この場にいるのは危険過ぎる!」
「……っ、わかったわ。でも絶対に死なないで!!」
「ああ、死ぬわけないだろ! さっさと終わらせてやるから、待っててくれ!」
背を向けて走り出すアーヤ、目に涙が浮かんでいるように見えたのは、気のせいか……。
よし、みんな避難したな。アストラリアソードを抜き放つ。
「さあ、お前らはここで終わりだ。そしてこの下らん茶番も全て幕引きとさせてもらうぜ!」
「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪ 正義の刃を味わうがいいですよ」
アリアも隣ですぐ抜刀できるように女神刀に手を掛けている。上位魔人が放つ瘴気がやがて小さくまとまり始め、その本当の姿を現す。ヨーゴレを含め他の拘束されていた者達もその瘴気に飲まれ魔人と化した。上位1体に下位が7体か…。相手にとって不足はない、さあ最終決戦といこうじゃないか! 俺達が勝って終わりだ!
だが俺はまだ理解していなかった。魔人達を前にゾクゾクしながら剣を構える自分の考え、覚悟が如何に軽いものだったのかを……
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一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。
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