<episode 5> 悪役令嬢、レベルアップする。
戦いは呆気なく終わった。
いや、あれは戦いと言えるものではなかった。
狂戦士と化したネコタローの大群の前に、悪魔たちはなすすべもなくパタパタと力尽きていった。一方的な蹂躙だ。
「安心なさい。峰打ちですわ」
これでも一応手加減はした。相手は悪魔だし、まあ死ぬことはないだろう。
「お手柄でしたわよ、ネコタロー」
戦いを終えて、一匹の黒猫に戻ったネコタローを労う。
本来なら、ご褒美に大好物のイワシをプレゼントしたいところだが、あいにく持ち合わせがない。代わりにたっぷりとわしゃわしゃと全身をなでまわし、仕上げにほっぺに口づけする。
「にゃーご」
ふふっ。どうやら満足してくれたようだ。
♪パラッパッパーパー♪
唐突に聞き慣れたジングルが響き渡る。
これはレベルアップを知らせる通知音で、魔力を有する者に自動的に付与されているスキルの一つだ。
レベルとは個人の戦闘力を数値化したもので、戦闘で敵を倒すなどして一定の経験値がたまったときに上がる。レベルが上がるとHP(ヒットポイント)、MP(マジックポイント)、攻撃力、防御力、魔力といった能力値も上昇する。
自らのレベルや能力値は、「ステータス」と呪文を唱えるだけで、いつでもどこでも簡単に確認することができる。
そういえば、地獄に来てからまだ一度もステータスを確認していなかった。どれどれ。
「ステータス」
ワタクシがつぶやくと、目の前に半透明のボードが表示される。
《レベル:1→2
HP:11→13
MP:120→134
攻撃力:5→6
防御力:3→4
魔力:104→117》
「レ、レベル2ですって……?」
……なんということだろう。生前のワタクシはレベル50だったはずなのに。
誰もパーティーを組みたがらないので独りで粛々とモンスターを狩り続けた結果、レベル50に至ったのだ。
一般市民の平均レベルはたったの5で、王侯貴族に仕える騎士たちからはゴミ扱いされている。その騎士たちにしても平均レベルは25程度なので、レベル50の凄まじさはおわかりいただけるだろう。
人々に『暗黒の魔女エトランジュ』と恐れられていたことは、ちょっとした自慢だったのに……。嗚呼、悲しみが止まらない。
どうやら死んでしまったせいでレベル1からやり直しということらしい。
しかし、ステータスをよく見てみると、すべてがやり直しというわけでもなさそうだ。レベル50だった頃より遥かに劣るものの、MPと魔力は突き抜けて数値が高い。
なるほど。レベル1からやり直しにはなるものの、習得済みの魔法は引き継がれ、能力値も底上げされて復活するということか。これは便利かもしれない。
今までコツコツと経験値を積み、MPと魔力に極振りしてきたかいがあったというものだ。……とはいえ、二度と死ぬつもりはないが。
とにかく。また、やり直しだ。
レベルは99が上限で、過去にその最高到達点に上り詰めたことがあるのは、おとぎ話に登場する伝説の勇者……ではなく、伝説の邪神だけだと言われている。
伝説の勇者ですらレベル70。ただし、同じくレベル70の仲間を4人も5人も6人もぞろぞろと引き連れていた。
強敵を集団で狩る。とても正しい戦略だ。それは先刻の悪魔との戦いでも証明された。
ワタクシも伝説の勇者を見習って、これからも圧倒的魔力と数の暴力に物を言わせ、我が道をゴリ押ししていくとしよう。
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