第23話 ゾンビ屋敷に突入

 ロザリィからもらった地図を頼りに、ゾンビ屋敷を目指す。

 迷子になる要素はなかった。

 その屋敷に近づいただけで禍々しい気配を感じたし、鉄格子の向こう側には顔色の悪い人々が歩き回っていたからだ。


「ゾンビ、ですね」


「うん。まさしくゾンビ屋敷だ」


 アオイとクラリッサは門の前で呟き合う。

 庭をザッと見ただけで十数体はゾンビがいて「うー」とか「あー」とか声を出していた。


「ゾンビ・ピュリファイ!」


 試しに敷地の外から魔法を放ってみた。

 杖の先から白い光の矢が飛んでいき、一体のゾンビに突き刺さった。


「お、凄い。ゾンビが砂になって消えちゃったよ。MPの消費はどんな感じ?」


「このくらいの威力だと、ほとんどMPが減らないですね。ファイアとかと似たようなものです。とりあえず庭のゾンビを倒してから門を開けましょう」


 今度は矢ではなく波動として広域に放ってみる。

 MP消費はやや多いが、見える範囲のゾンビを一瞬で消し飛ばした。


「あれ? キューブが落ちてる」


 庭を歩いていると、クラリッサがそう言って四角い物体を拾い上げた。


「キューブがドロップしたってことは、ゾンビってモンスターなんでしょうか?」


「うーん……けどゾンビって人間の死体でしょ? 人間がモンスターになるってこと?」


「そう言われると不気味ですね……」


 ひとまずキューブを鞄にしまう。

 ゾンビについてもっと議論したいが、まずは仕事だ。

 庭をぐるっと回ってみたが、これといって怪しいものは見当たらない。

 やはりゾンビを発生させているナニカは屋敷の中だろう。


「じゃ、入ってみよっか……って、なんか掴まれた! うひゃぁぁ!」


 地中からゾンビの腕が生え、クラリッサの足首を握りしめていた。

 クラリッサは悲鳴を上げながらゾンビの腕を斬り、そして一歩後ろに下がった。

 するとゾンビが地中から勢いよく飛び出し、全身を露わにする。


「よくもビックリさせたなぁ!」


 鋭い斬撃がゾンビに振り下ろされた。

 ゾンビは瞬く間に斬り裂かれ、バラバラになって地面に転がった。

 が、そんな状態でも、ゾンビはもぞもぞと動き続ける。

 どうやら一カ所に集まって、もとの形に戻ろうとしているらしい。


「ひぃっ、不気味!」


「クラリッサさん、聖水を忘れてますよ」


「あっ、そっか」


 クラリッサは自分の鞄から聖水を取り出し、刃にかけた。

 そして改めてゾンビの破片を薙ぎ払う。


「砂になって消えた! 効果バツグン!」


 聖水はまだ瓶の中にかなり残っている。

 効果が薄れたらまた塗ればいい。

 とにかく、これでクラリッサの剣も戦力として期待できると分かった。


「また新しいゾンビが地面から出てきましたね。キリがなさそうなので、屋敷に入りましょう」


「私が先陣を切るよ! たぁっ!」


 クラリッサは気合いの声とともに扉を開けて飛び込んだ。

 その瞬間、二体のゾンビが襲い掛かってきたが、軽やかな動きでまとめて両断。ゾンビは消滅した。


 玄関の先は、二階まで吹き抜けのロビーだった。

 階段からゾンビがわらわらと降りてきたので、アオイは魔法でそれを浄化する。


「ゾンビ多過ぎ! どうしてこんなに死体があるんだろう? この屋敷ができる前は墓地だったのかな?」


「けど、大昔の死体なら白骨化してるはずです。原形をとどめた死体がこんなにあるなんて……もしかすると、ここのゾンビって人間の死体が動いてるんじゃなく、最初からこういう形のモンスターとして生まれたんじゃないでしょうか」


「あー、なるほど。洞窟にいるスケルトンも、誰かの骨じゃなくて、最初からあの状態で湧くって聞いたことある。本物の死体じゃないってことは……やっぱり原因をなんとかしないと無限に湧いてくるのかぁ」


 ゾンビをいくら倒しても、次々と湧いてくる――。

 依頼を受けたときロザリィからそう説明されたが、実際に目の当たりにすると、その厄介さがよく分かる。

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