第18話 ゾンビ退治すると家がもらえるらしい
「昨日、宿に泊まろうとしたけど、部屋が空いてなかったじゃないですか」
お手頃価格の定食屋で晩ご飯を食べながら、アオイはそう話を切り出した。
向かいに座るクラリッサは、ハンバーグで頬を膨らませながら頷く。
「時間が遅くなると、ああいうことってまたあると思うんです。だから自分の家が欲しいんですけど……」
「そりゃ、私だって家が欲しいよ。宿代払わなくていいし。好きな家具置いたり、庭で家庭菜園やったりとか楽しそう。でも……家って高いんだよ?」
「……やっぱり高いですか。ちなみにどのくらいするんですか?」
「そんな詳しくないけど、おおむね――」
クラリッサが語った額は、アオイの想像を超えていた。
日本の家が何千万円もするのは知っていたが、どうやら異世界でも人生をかけた買い物のようだ。
「まあ、家を買っちゃうとそこに住むしかないし。家がないからこそ町から町へブラリと移り住めるんだよ。気楽な根無し草を楽しもう!」
クラリッサは前向きなことを言う。
前向きであろうと後ろ向きであろうと、金がなければどうやっても買えない。
諦めたほうがよさそうだ。
遠い将来に買えたらいいなぁ、程度に思っておくべきだろう。
今はコツコツとレベルを上げたり、アイテムを集めたりして、この世界で生きていく力を身につけるのが優先だ。
というわけで冒険者ギルドに行く。
「ねえ、アオイくんって、ゾンビを浄化する魔法を使えるかしら?」
顔を合わせるなり、ロザリィがそう質問してきた。
「ゾンビを浄化? そんな魔法があるってことさえ知りません」
「あら、そうなの? 実は、もう何年も解決できないまま放置してる依頼があって……ゾンビ屋敷をなんとかしてくれって依頼なんだけど」
「ゾンビ……屋敷ですか」
ついさっき家が欲しいという話をしたばかりで、また家がらみの話。
因縁めいたものを感じるが、どうせ買えないのだから誘惑しないで欲しい。そうアオイは思った。
「依頼主は不動産屋でね。その屋敷を手に入れたあとに、地下からゾンビが出てくるようになったんですって。当然、そんな屋敷、誰も買ってくれないし。それどころか、ゾンビが外に出て近所トラブルにならないよう、定期的に護符を交換しなきゃいけないから、コストだけが膨らむのよ。それで冒険者ギルドにゾンビ退治の依頼をしてきたんだけど……ゾンビって真っ二つにしても動くじゃない? それに、その屋敷のゾンビって地下からどんどん湧いてくるらしいから、原因を取り除かないとキリがないみたい。そんなの解決できる人材、この町にはいないのよ。って言うか、ほかの町を探したって滅多にいないわよ」
「確かに、すでに死体にですから、もう一度殺すって難しそうですね」
アオイはゾンビを撃ち殺すゲームをやったことがある。
拳銃を何発か撃ち込んでも、平然と向かってきた。
ボスキャラのゾンビなど、マシンガンで蜂の巣にしても動いていた。
こちらの世界のゾンビも、かなりしぶとい奴らしい。
「早く解決してくれって、ちょくちょく依頼主からせっつかれるのよ。固定コストがかかるから気持ちは分かるけど。いくら催促されたって、ゾンビ退治できる人が生えてくるわけじゃないのよね」
「大変ですね。不動産屋もギルドも」
「全くだわ。ちなみにゾンビ問題を解決してくれたら、格安で屋敷を譲るって言ってたわよ」
そのロザリィの一言を聞き、アオイとクラリッサは顔を見合わせた。
いくら格安だろうと、家など買えるわけがない――。
とはいえ、聞くだけなら無料だ。
「ねえ、ロザリィさん。格安って具体的においくらなの?」
と、クラリッサ。
「端的に言うと、依頼の成功報酬と同額。つまりゾンビ退治すると、タダで家がもらえるってこと」
「タダ!」
と、アオイはつい大声を出してしまう。
あまりにも魅力的な話だった。
絶対に手が届かないと思っていたものが、無料とは!
「ちょ、ちょっとアオイくん、落ち着いて。目が血走ってるよ。あくまでゾンビを退治できたらだからね? アオイくん、そういう魔法使えないんでしょ? 私も無理だよ。聖なる剣とか持ってないよ」
「わ、分かってます……けど、誰かに先を越されたくないので……とりあえず依頼を受けておいて、ゾンビを浄化する魔法をなんとか覚えて……」
「駄目! 達成できる見込みのない仕事を受けるのは駄目! 失敗した記録がずっと残るんだよ。そりゃ頑張って失敗したなら仕方ないけど……最初から達成する能力がないのに受けるとか……あんまり悪質だと思われたら、ギルドが仕事を回してくれなくなるよ!」
「そうね。ゾンビをなんとかする手段を手に入れたら教えて。じゃないとこの仕事は任せられないわ。あとその屋敷、ゾンビ屋敷として結構有名だから、転売しようとしても高く売れないわよ。その辺も考えてね」
クラリッサとロザリィの言葉は、実に正論だった。
人生の先輩として、真面目にアオイを諭してくれている。
しかし、だ。
家が無料でもらえるチャンスなんて、これを逃したら二度とないかもしれない。
「クラリッサさん。魔法道具屋に行きましょう。ゾンビをなんとかする魔導書とか、アイテムとか売ってるかも」
「そんなのがこの町で売ってたら、とっくに誰かがなんとかしてると思うけど……それでアオイくんの気が済むならついてくよ」
アオイとて、魔法道具屋でどうにかなると本気で思っているわけではない。
なにかヒントの一つでもあればいいなぁ、くらいの気持ちである。
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