第3話 播州皿屋敷

(3)播州皿屋敷


ここでは、本編に入る前に姫路に伝わる皿屋敷伝説について説明する。


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姫路には『播州皿屋敷』という伝説がある。


「いちまぁ~い・・・にまぁ~い・・・さんまぁ~い・・・」


これを聞くと、江戸時代の有名な怪談話『番町皿屋敷』を思い出す人が多いだろう。


青山播磨守主膳の屋敷に奉公していたお菊という女中が、青山主膳が大切にしていた10枚の皿のうちの1枚を割ってしまったため、ひどい叱責を受け、屋敷内の井戸に身投げして死んでしまう。

それ以来、夜な夜な皿を数える恐ろしい声が屋敷中に響き渡る。


これは誰でも知っている有名な話だ。


実はこの『番町皿屋敷』は、100年以上前に作られた姫路を舞台にした『播州皿屋敷』をもとにしたという説がある。


姫路城にはお菊が身投げしたとされる「お菊井戸」が実際に存在している。そしてお菊を祀った「お菊神社」も存在する。

「お菊井戸」は城外との秘密の連絡経路になっていたため、誰も近づかないように怪談の噂を広めたという説もあるようだ。


主人公の名前はお菊、番町皿屋敷の敵役は播磨守(姫路周辺の守護)、播州皿屋敷の敵役は青山鉄山(あおやま てつざん:姫路城主の家臣)、これらから江戸時代の皿屋敷の話は『番町皿屋敷』がベースになっていると考えても良いのかもしれない。


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武と信子が車の中で年齢詐称の打ち合わせをしているのを、猫は退屈そうに見ている。

このまま2人のやり取りを聞かされ続けるのに疲れてきた猫は、先に用事を済ませることにした。


猫は武に話しかけた。


「ちょっと用があるから、この辺で降ろしてほしいんだけど。」


「降りるの?何かあった?」


「この辺を仕切ってるアオヤマってボス猫に挨拶しとこうと思ってな。挨拶してないと後で面倒だろ?」


「そういうことか。じゃあ、自衛官に車を停めるようにお願いするよ。」


とは言え、自衛官に『猫が降りたいから車を停めてくれ』と言えるわけがない。

武は自衛官に「車に酔ったから少しだけ車を停めてほしい」とお願いした。


車が停車して、ドアから出て行こうとする猫に武は言った。


「お前、母さんの実家の場所を知ってるのか?」


「いけねー。聞くのを忘れてた。」


武は信子に家の近くにある目印を聞いて猫に伝えた。


「亀山御坊(かめやまごぼう)の近くだって。」


※亀山御坊は兵庫県姫路市亀山にある浄土真宗本願寺派の寺院。1515年、蓮如上人(れんにょ:浄土真宗本願寺派第8世宗主・真宗大谷派第8代門首)の門弟空善が飾磨郡英賀の英賀城下に本堂(英賀御堂)を開山したのを始まりとする。

正式名称は亀山本徳寺(かめやまほんとくじ)。


「分かった。じゃあ、後でな。」


そう言うと、猫はどこかに走り去っていった。


猫が出ていってしばらくすると、車は信子の実家に到着した。


武と信子が祖父母に挨拶をすると、祖父母は武たちの訪問を喜んでくれた。


信子は顔も体形もオリジナルにそっくりだ。

孫とは言ってもオリジナルに似すぎているから、祖父母は気持ち悪がっているような気もする。


祖父母が話す播州弁(播磨地方の方言)に対して、信子も流暢に播州弁で話している。

秋田県で生まれ育った設定なのに、ネイティブの播州弁を話す孫に祖父母は違和感を持たないのだろうか?


武の疑問は尽きないのだが、祖父母はそれ以上突っ込んで聞いてこなかった。


武が信子と一緒に部屋でくつろいでいると猫が帰ってきた。


「どうだった?」と武は猫に言った。


「アオヤマはいい奴だったよ。悩み事があるらしくて、今まで聞いてたんだ。」


「どんなこと?」


「お前、お菊さんの皿屋敷伝説を知ってるか?」


「『い~ちま~い、に~ま~い』ってやつ?」


「そう、それ。あれアオヤマの家の話らしいんだ。」と猫は言った。


「へー、青山お菊さん?」


「違う。お菊さんは青山じゃない。お菊さんを殺したのが青山鉄山っていう奴。」


「アオヤマは悪者なんだ。それで?」武は興味がなさそうに言った。

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