第8話 しゅうかくっ!

「お姉ちゃん、起きて」


 私はそうスイに身体を揺さぶられて目を覚ます。


「んー、おはようスイ。どうしたの?」


「ラディッシュ、収穫できる」


 そうか、もう収穫できるのか。流石二十日大根って言われるだけあるな。


「そっか、じゃあご飯食べてから収穫しよっか」ナデナデ


「うんっ!」


 ・・・・・・


「よしっ、それじゃあご飯もできたし食べようか」


「食べたら・・・収穫っ!」


 そして私達は席につき手を合わせる。そしてそれとほぼ同時に家の玄関の戸が叩かれる。


「こんな朝に誰だろう?はーい」ガチャッ


「ご機嫌ようルリカ、今日も遊びにきましたわよ!」


 来訪者の正体はマリアだった。後ろにはヴァルさんの姿もある。


「おはようマリア、それにヴァルさんもおはようございます。今日はマリアの護衛ですか?」


「うむ。世話係のものが今日は来訪者をもてなす準備で忙しくてな、私に後釜が回ってきたのだよ」


 すると突然マリアが手を叩き私に尋ねる。


「そういえばルリカ!もうご飯は食べたかしら?」


「ご飯?いや、ちょうどこれから食べるところだけど・・・」


「だったらいいものを持ってきましたの!」


 いいもの?


「まあ、とりあえず入りなよ。きっとスイも喜ぶから」


 私の言葉にマリアは目を丸く、そして輝かせて答える。


「いいんですの!?では喜んで!」


「ヴァルさんもぜひ」


「うむ、感謝するよ」


 ・・・・・・


「スイ、お客さんだよ」


「あっ、マリアお姉ちゃんにヴァルお姉さん。おはようございます」


「ご機嫌ようスイ、今日も可愛いですわね」ナデナデ


「スイ、撫でられる好き。ニヘヘ」


「でしたら無限に撫でてあげますわぁー!」


 ああ!すごい撫でる!首もげるよこのままだと!!


「と、ところでマリア!持って来たものって何なの?」


 するとマリアは手を止めて答える。


「ああ、それでしたら・・・ヴァル」


「はいお嬢様、こちらが」


 そう言うとヴァルさんは木製のバスケットを私に差し出す。その中身は・・・


「パン?」


 私がそう口にすると、マリアは自信満々に語り始める。


「そうですわ!このパンは王宮直属のモノが自らの手で焼き上げる世には出回らない逸品ですの!」


 なんとっ!そう言われて見てみると何となくパンが金色に輝いているような・・・


「喜んでいただけるかしら?」


「う、うん!こんな立派なもの貰っちゃって何だか申し訳ないなぁ・・・」


 すると不意にヴァルさんが私の耳元で囁く。


「お嬢様、1週間は前から手土産を何にするか迷っていたんだ。可愛いものだよ」


 1週間っ!?それは随分と前から・・・だとしたらマリアめっちゃ健気じゃん!好きになっちゃうんだけど!


「そうだ!2人も一緒に食べようよ!」


「えっ!いいんですの!?」


「全然いいよ!ね、スイ?」


「うん、皆んなで食べると、美味しい」


 スイのその言葉を聞いたマリアは一瞬表情を緩ませると、すぐに素の表情に戻って言った。


「で、でしたらご一緒させていただきますわ」


「もちろん、ヴァルさんもですよ?」


「うむ、喜んでご相伴に預かるとするよ」


 ・・・・・・


「それでルリカ、今日は何か予定はあるのかい?」


 ご飯を食べていると、不意にヴァルさんが私に尋ねる。


「はい、この後ウチのラディッシュの収穫をしようかと・・・」


 すると急に目を輝かせて立ち上がり言った。


「収穫するんですの!?」


 えっ!?何だ何だ?


「実はワタクシ、そういったことの経験がないんですのよ・・・」


 なるほど、だからあんなにテンション高くなったんだ・・・


「だったら一緒にやる?と言っても今回収穫するのはプランターに植えたラディッシュだけど・・・」


 するとマリアは表をパァッと明るくして言った。


「それでもやってみたいですわ!」


 ・・・・・・


「それで!その収穫するものは何処にありますの!?」


「マリアお姉ちゃん、落ち着いて」


 マイペースのスイが諌める側とは・・・まあ、それだけ楽しみにしてもらえてるなら良いんだけど


「ホラっ、着いたよ。今日収穫するのはこれ」


 それを見たマリアは首を傾げ、答える。


「これ、もう収穫できるんですの?実もなっておりませんし葉もあまり大きくありませんわよ?」


 するとスイが首を横にフルフルと振って答える。


「違う、ラディッシュ、食べるのは根っこ」


 そう言ってスイはラディッシュを引き抜く。すると真っ赤な球根が姿を現す。


「これ、食べる」


 その事実に納得したマリアは、手をパンッと叩く。


「まあ!そうだったのですね!ルリカ!ワタクシもやってみてよろしくて?」


「うん、いいよ」


「ありがとうございます!それでは・・・エイッ!・・・キャッ!」


 マリアは勢いよく引っ張りすぎたのか、引っこ抜くのと同時に尻餅をついてしまう。


「マリア大丈夫!?怪我してない!?」


「・・・取れましたわ」


「え?」


「取れましたわー!見てくださいルリカ!すごく立派じゃなくって?」


 そう言うマリアの笑顔はまるでお人形さんみたいに綺麗だった。抱きしめたい・・・


「?どうしましたのルリカ」


「えっ!?いやいや、何でも無いよ。すごい立派だね。他のも取っていいよ」


「いいんですの!?感謝しますわ!」


「スイも、取っちゃったいいからね」


「ワーイ」バンザーイ


 ・・・・・・


「これで、最後ですわ!」ズボッ!


「お疲れ様マリア、スイもお疲れ」


「収穫、楽しかった」フンフンッ


「でも・・・こんなに沢山食べ切れるんですの?」


 確かに、植える時に調子に乗って植えすぎちゃったかなぁ・・・


「まあ、この家で食べきれなかったら周りの人にお裾分けするよ」


 すると後ろにいたヴァルさんが私にアドバイスをする。


「もしそれでも消費しきれない時のために、商業ギルドに登録するのをお勧めするよ」


「商業ギルド、ですか?」


「ああ、商業ギルドに登録をしていなければ自分で販売するのも、店に卸すのも不可能だからね」


「なるほど、モノを売るのも結構手間がかかるんですね」


 するとヴァルさんが追って説明をする。


「少し前まではそんなギルドは無かったのだが、今の国王様が街に出回る粗悪品の対策の為に設立なさったのだよ」


 今の国王様、つまるところマリアのお父様に当たる人が・・・中々のやり手だ。


「ところでヴァル、今は何時なのかしら?」


「はい、午後の3時にございます」


「あら、もうそんな時間だったのね。それならもう帰りますわよ」


 何だもう帰るのか、そういえば来訪者が来るとか言ってたもんな・・・


「そっか、それじゃあマリア。ヴァルさん。さよなら」


 するとマリアは首を傾げて言った。


「何を言っているの?2人も来るんですよ?」


「・・・え?」


 私の態度で思い出したのか、ヴァルさんが話し始める。


「ああ、そういえば言っていなかったな。今日の王宮の来訪者というのはルリカとスイのことなんだ」


「・・・ええ!?」


 急展開すぎませんか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る