見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-
三石アトラ
序章
第1話 プロローグ
「ふー…あと少しだな…」
鬱蒼と生い茂る草木囲まれた森の中、その最深部に位置する広場で1人の少年が魔物と対峙していた。
その魔物の見た目は日本でお土産として売られているような木彫りの熊そのものである。日本人からすればツッコミを入れたくなるような魔物だが、ダンジョンのボスに配置されるほどの強敵だ。先ほどから少年に対して爪での引っかきや体当たりだけでなく、咥えている魚を叩きつけたり手に持って振り回したりなど多彩な攻撃を絶え間なく仕掛けている。
一方の少年は140cmくらいと小柄な上、武器を持っていない。が、熊の攻撃を素手で綺麗に捌いており、時折カウンターを入れるなど技術の高さが窺える。他の特徴としては頭の上部には狐の耳が腰の下の方には立派な2本の尻尾が生えている。いわゆる獣人という種族である。
「これでっ、とどめっ!」
そうこうしている間に少年の渾身の一撃が決まり、木彫りの熊が粉々に砕け散った。
「っしゃぁー!ようやく正攻法で勝てた…長かった。
…ああ、切り株の方も倒さないと」
思わずといった感じで歓声をあげて感傷に浸っていた少年。だが、グリズリートレントと呼ばれるこの魔物は外敵から身を守るために根や枝で作った熊を分身として操る生態をしており、本体を倒さないと戦闘が終わらないのだ。それを思い出した少年は本体である切り株をひたすらに蹴り続ける。
実のところ少年がグリズリートレントを倒すのはこれが初めてではない。ただ、分身が本体から50m以上離れることができないという制約を逆手に取った、遠距離からの投石によるハメ技でしか倒したことがなかったので、喜びもひとしおだ。
「さてさてドロップと攻略報酬は何かなっと……お、まさかこれは!」
ところ変わって、森に囲まれた湖にポツンと立っている一軒の家。その中では1人の女性が紙に何かの設計図であろう図や文字を書いては消してという作業を繰り返していた。
すると、突然外にある小さな石柱が光ると同時に先ほどの少年が現れてバタバタと家に駆け込んでくる。
「師匠師匠!やっと手に入った!」
「あら、ユリス。
今日は随分と早かったわね。もう倒して来たの?」
「いつもは、遠くからペチペチやってたから時間かかってただけだしね。
それよりほら!ようやく師匠が言ってた奴が手に入ったよ。しかも武器に使えそうな素材のおまけ付きで」
ユリスと呼ばれた狐獣人の少年は尻尾をゆらゆらと揺らしながら先程の成果を報告する。
「あら、本当ね。凄いじゃない。それじゃあステップ3はクリアっと。
ちなみに今のレベルはいくつ?」
「さっき上がったから、今は17だね。
他は……こんな感じ」
そう言ってユリスは近くにあった紙に自身のステータスを書き出した。
―――
【名前】:ユリス
【年齢】:10歳
【種族】:狐獣人(2尾仙狐)
【レベル】:17
【HP】:E
【MP】:SS
【STR】:H+
【VIT】:H-
【INT】:C
【RES】:D
【AGI】:F
【紋章器(Lv.1)】
①[仙狐(無)]
スキル:『魔力充填(尾)』、『身体変化』、『隠密』、『魔力収束』
アビリティ:MP+3、INT+3、RES+2、AGI+2
②[調律]
スキル:『調律』、『操作』、『干渉』、『制限強化』
アビリティ:MP+6、INT+4、RES+4
③[魔化]
スキル:『魔化』、『付与』、『
アビリティ:MP+6、INT+4、RES+4
④[武術家の心得]
スキル:『武術』、『武技』、『歩法』、『走法』
アビリティ:STR+2、AGI+2
【紋章効果】:なし
【ユニークスキル】
『神の指先』
【パーソナルスキル】
『鑑定(EⅩ)』、『収納(EⅩ)』、『合成』
【加護】
『世界神の祝福』
―――
「はあ…前々から思ってはいたけど、やっぱりおかしいわねこの子。紋章を見繕ったのは私だし、ユニークスキルのせいもあるとはいえ、普通は適正レベルが倍以上のダンジョンボスなんて倒せないわよ。というかまず攻撃が通らないし…」
女性がユリスのあまりの規格外っぷりに溜息をこぼす。
「ああでもこのアビリティなら威力的には十分かしら?とはいえ防御面は適性を考えたら紙だし、相手の攻撃を避けることすらままならないはずなんだけど。何でソロなのに中級ダンジョンがクリアできるのよ。それに結構余裕そうだし…」
「いや、サラ…師匠がそうするように指示したんじゃないか。
僕は言われた通りに修行してきただけなんだけど?」
師匠と呼ばれた女性の名はサラといい、赤ん坊のユリスを拾ってからこれまで育ててくれた人物だ。
といっても、師匠と呼ばせていることからも分かるように親としては接しておらず、あくまでも弟子として自分の知識や技術を日々叩き込んでいる。
「いや、そうなんだけどね?体術が最初からかなりのレベルなのは仕方ないとしてもスキルの把握や応用とかにもっと時間がかかると思ってたというか。とにかくあなたの習熟スピードが異常なのよ。
…でもまあ、あの方の作った身体だし今更かしらね。むしろ貴方の役目を考えたら行くとこまで行っちゃった方がいいかも?目指せ世界最強の職人かしら。
あそうそう、ステップ3のクリア報酬はこれよ」
そう言ってサラはビー玉サイズの水晶や石を5つ差し出してくる。鑑定をしてみると水晶の方が『操作の紋章球』と『変質の紋章球』、石の方が『
空のスキル石は宿している紋章のスキルの中から選んで任意のスキル石を作ることができるアイテムで、スキル石によって習得したスキルはパーソナルスキルの欄に移動する。パーソナルスキルの欄は紋章の付け替えの影響を受けないため、特定のスキルだけが欲しいのであればそちらに移した方がメリットが大きいのだ。ちなみにこの方法でスキルを移すことを一般的に抽出という。
「操作と変質を合成すれば『創造の紋章球』になるわ。そうしたら生産系のスキルも覚えるから、ようやくレシピアイテムが使えるようになるわね。
「はーい。
えーと…紋章球は合成して…スキル石は…『移動』になるのか…ん、おっけー終わったよ。
そう言えばステップ3で手に入れるように言われてたアイテムってどんな物なの?
片方は『紋章術のスキル石』だったから分かるんだけど、もう片方の『ダンジョン構築盤(森)』って何に使うのかサッパリなんだよね」
「ああ、そういえば説明してなかったわね。
スキル石の方は使っちゃって構わないわ。そうすれば自分で紋章を付け替え出来るようになるから今後は自分で好きに試していくといいわ。あ、『創造』は『武術家の心得』と入れ替えておきなさい。
構築盤の方は生成ダンジョンの生成時にベースとして使用するものよ。ダンジョンの種類についての詳細は近いうちにヴェルサロア様が来ることになってるから、その時に聞いて頂戴」
ヴェルサロアというのは、この世界を創造したとされる女神の名前である。普通の人であればその神が来るというのは一体どういうことなのだろうかと普通なら疑問を浮かべるところだが、ユリスはその話を聞いても大して驚くこともなくすんなりと受け入れていた。
「りょーかーい。ちなみに次のステップは?」
「次からしばらくはレベル上げと生産がメインよ」
「はーい。それならさっき手に入れたグリズリーの芯材は後でつかうことにするか。
そんじゃあ、今日の狩りはお終いだから部屋でゆっくりしてるね」
「ええ、分かったわ。お疲れ様」
そうして、サラと別れて自室でくつろぎ始めたユリスはヴェルサロアの名前が出た事で何となくここに来るまでのことを思い出していた。
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