多数決と西多士・前

 千錯万綜7






「あ!ゴー!お仕事終わったの?」


 スープや前菜を小腹に収めてメインの料理がテーブルに並ぶ頃、フラッとやってきた燈瑩トウエイ大地ダイチが手招き。マオが軽く目を見開いた。


「随分早いな、ちゃんと最後までお片付け・・・・してきたのかよ?」

「えー?まぁ…したっちゃした」

「散らかしっぱなしは良くねぇぞ」

マオだってそうでしょ」


 椅子をひきながら笑う燈瑩トウエイマオもククッと喉を鳴らす。大地ダイチは少しキョトンとしたが、イツキがすごい勢いで点心を消失させていくのを視界の端に捉え慌てて自分のぶんを小皿に取り分け確保。その横にある藍漣アイランからの皿を見やる。


「っていうか藍漣アイランは食べた?」

「いや?ウチの蝦餃ぎょうざイツキが食べた」

ほへんへごめんね

「おかわり持ってくるから、待ってなさい。こちらメインディッシュでーす」


 藍漣アイランが肩をすくめるイツキを指差すと、魚香茄子マーボーなす回鍋肉ホイコーローを運んできたアズマが大皿をテーブルに置いて提言。この眼鏡、今日も当たり前に厨房を手伝っている。

 たわいもない話をしながら料理を囲んでいるさなか、だいぶ遅れてカムラが現れた。


「すまん、遅なってもうた」

んかホハフトラブル?」

「后座の裏んあたりが火事んなっとって通れへんくてな、大回りしてきてん。よう死んだらしいで…ヨソから来た半グレの奴らばっかみたいやけど」


 口をモゴモゴさせて問うイツキへ椅子に腰を降ろしつつ答えるカムラ。ピンときたマオが、黙って笑顔で頬杖をつく燈瑩トウエイに‘そういうとこだぞお前’と小声で言った。


「つうかよ、オメーんとこカチ込んできたのどこの奴ら?俺のは寄せ集めだったけど」

「え?なんや揉めたん?」


 燈瑩トウエイをつついて問うマオカムラは驚いた表情。マオは手をヒラヒラさせ老酒をすする。


「俺ぁ自分から行っただけだけどな、有意義なお話・・しによ」


 戦闘があった夜とメッセンジャーの件を話すマオに、ガラ悪過ぎでしょと口を挟む燈瑩トウエイマオはこれでもかというくらい眉間にしわをよせた。


「本っ当に燈瑩おまえにだけは言われたくねぇな…で、そっちはどうだったんだよ」

「んー、普通に台灣から来たって言ってた。縄張り欲しい小団体って感じ」


 毎度原因を作っているのはやはり台灣の小さなグループ。名のある組織はあまりこのシマ獲り合戦には参戦していない、規模が大きければ大きいほど次代の角頭が誰になるかを座して待って居たほうが賢明だからだ。余計なお手付きは品格と信用をおとす。


「やけど台灣むこうで話し合い進んでるらしくてな。次の角頭、先代と同じ派閥の重鎮さんに決まりそうやって。九龍との揉め事も抑え込んでくれるかもせんな」


 街の半グレどもの情報やけど、確度高いと思うでとカムラは付け加える。


 亡くなった角頭は九龍城のマフィア達と懇意にしていた。跡継ぎがその角頭と同様の方針を掲げる人間なのであれば、それに伴いこの街にも平和・・が戻ってくるはず。

 けれど勿論もちろん今日明日といった話ではない、まだそれなりに時間はかかる。


「ノッポも気を付けろよ、仕事ガッツリ違法な割にケンカ強くねぇんだから」

「出来る限りのことはやるけどね」


 追加の点心を持ってきたアズマをからかう藍漣アイラン、空笑いを浮かべて遠くを眺めるアズマ藍漣アイランは例のごとくアズマのフードの紐を引っ張り、顔を寄せるとフッと笑った。


「死なれたら困っちまうよ」

「家無くなるからでしょ」

「いや?普通に寂しいから」

「俺も」


 呆れ声を出すアズマの耳に届いた意外な台詞、なんとイツキまで同意した。


「え、ほんと…?嬉しい…」


 藍漣アイランイツキの顔を交互に見るアズマは涙目だ。おまえが思ってるよりみんなおまえの事好きだぜ、なぁ?と藍漣アイランが周囲を見渡す。

 大地ダイチ燈瑩トウエイは全く興味を示さずマオは氷よりも冷たい目をしていたが、カムラは‘せやな’と頷きキッチンからはレンの‘当然でしゅっ!’という返事が聞こえた。


 3対4。ギリギリではあるが過半数なら上々だろう。


「まぁ俺が居れば守れるから」

「そーそー!イツキは最強なんだから!どっからでもかかってこいやって感じ!」


 アツアツの蝦燒賣えびシュウマイをフーフーしながらイツキが言い、ご機嫌なアズマが自分の力でもないのにドヤ顔を決める。




‘どっからでもかかってこいや’。

 この調子に乗ったアズマの言葉は、翌日すぐに、現実となった。


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