麗人と熊・前
光輝燦然2
「あかん、吐くかもしれん」
バイト当日。例の依頼人を現地まで迎えに来たのだが、段々と緊張してきてしまった
服装は一応スーツ指定。それだけでも背筋が伸びるというのに、少しずつ集まってくる人々や物々しい雰囲気に
「やっぱり要人警護なんて無理や…駄目や俺なんて、焼き芋にでもなったらええんや…」
「大丈夫だって、気楽にやって?ね?」
この人いつもこうだよな、と
出会った頃からそう。常に余裕を感じさせる振る舞いと佇まい…自分との差は一体なんなんだ?しかも細身でイケメンだし。こっちは丸顔のぽっちゃりだっていうのに。くそう、悔しい、吐きそう。
その隣でポケットに手を突っ込んで立っている
こちらも滅多に着ることのないスーツを身にまとい鬱陶しそうにタイを緩めてはいるが、やはり
「もう嫌や、俺だけこんな…もう帰る…」
「どうしたのよ」
半ベソをかく
現場の空気が張り詰める。この車に乗っているのが今回の依頼人と“要人”だ。
運転席のドアが開いて付き人らしき人物が降りてきた。
「本日はお世話になります。こちらご紹介致します、警護対象の────」
ドアが開くやいなやスラッと伸びた長い脚が地面につき、1人の女性が姿を見せた。
鮮やかな暖色のチャイナドレス。腰まである濡羽色の真っ直ぐな髪に凛とした双眸。それは幾度となく画面の向こうで見た、あの。
「
付き人、改めマネージャーが言うより先に、華々しい笑顔と共に
そんな
「えーみんな若いね!もっと年上の人が来るのかと思ってた!」
声を弾ませる
と、
「貴方のお名前も教えてもらえるかしら?」
「あっ、か…
「
急に振り向かれて焦る
「熊さんみたいで可愛いね♡」
熊さんみたいで可愛いね─────。
可愛いね─────。
可愛いね─────。
「
「えっと、
熊発言にショックを受けたと勘違いした
反対に、
三者三様ではあるが、とかく気を揉んでいるのは間違いなく
「ちゅうか
「あ、そうそう。
この現場に呼んでも
まぁもしも万が一、暴漢などが向かってきた時にはきっと身体を張るので、弾避けにはなれるかも知れないけれど。
「これから九龍内を散策し撮影場所の下見やリハーサル等を行います。中流階級区域及び花街中心に見て回れたらと考えているので、皆さんご同行願います」
マネージャーがテキパキと予定を発表し人々はいくつかのグループに分かれた。
どうやら今回はショートフィルムの撮影で、ロケ地のひとつとして九龍を使いたいらしい。その出来と人気次第で本格的な長編映画の企画に移行するとか。
もちろん
「みんなはずっと九龍に住んでるの?」
「俺はだいたいそうだね」
「んーん、もともとは香港にいた」
それは
好きとかどうとかいう
「ねぇ、聞いてる?
「え?あ、すっすまん!!聞いてへんかった!!ホンマごめん!!」
うわの空だった
どうぞどうぞと答えたかったが言葉が出ず、
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