第11話 白羽の矢(4)
(そろそろ
「霞。霞ってば!」
目の前に座る
「もうっ。ぼうっとしちゃって……。次は霞の番よ」
「申し訳ありません。考え事をしておりました」
霞は一日休養した
菖蒲と向かい合い遊戯盤に
「もしかして、まだ具合が悪いの?」
菖蒲が心配そうに楓の顔を覗き込む。霞は慌てて首を振った。
「いいえ。お休みを頂いたお陰ですっかり元気になりました」
まだ矢を受けた右肩を上げることができなかったが、菖蒲は霞が矢に射ぬかれたことを教える訳にはいかない。微笑みを浮かべながら息をつくように嘘を言う。
「それとも……
菖蒲の顔が急にきらきらと輝き始める。霞は背中に冷や汗を掻いた。遂に恐れていた機会が訪れる。他の女房達もちらちらと霞のことを見ていた。
「いえ……それは……」
「霞様!楓様とはどのようにお過ごしに?」
「まさかそれほどの仲だったとは思いませんでしたわ!予想外の組み合わせ!」
「是非ともお二人のお話を聞かせてください!」
彼女達の瞳には、「何故目立たない地味姫と宮中一の色男がくっついたのか」という好奇心で溢れているのがすぐに分かった。遠巻きから眺めている女房に限っては「何故あんな奴が楓様と」という目を向けてきている。
霞は
(ほらね。こんな風に面倒なことになるんだから……。話していることと言えば宮中に潜む化け物のことばかり。貴方達が期待しているような甘いことなんて何ひとつないのに)
「ちょっと!あまり霞に乱暴しないで。病み上がりなのよ」
菖蒲が声を上げると、女房達が渋々と仕事に戻っていった。
「でも安心したわ。楓様って
菖蒲の口から信じられない言葉を聞いて霞は目を丸くした。
(あれのどこがですか?あんなのは全部、
思わず心の中で
「だって、霞が倒れたって伝えに来てくれた楓様の必死なお姿……。その後も夜通し霞に付いていてくれたのでしょう?私、二人の愛の強さを感じたの。こういう非常時にこそ愛が試されるのよね!」
「はあ……愛ですか……」
うっとりとした表情を浮かべ、両手を合わせる菖蒲に霞はため息を吐いた。何だか愛という言葉が
確かに、怪我の
(看病するというのは今後の方向性を相談するための
霞と楓の関係は
(私と楓様のことを周りがどう思おうと関係ない。私はただ、家族の
「霞が素敵な愛を
「
「ええ?そうかしら?実は最近殿下が……」
霞は素早く話題をすり替える。菖蒲の話を聞きながら、頭の中で駒を動かし始めていた。
「宮中にいる
その日の夜、いつものように
驚く楓に霞は
「ええ。昨年の『
『射天ノ儀』というのは宮中の弓矢上手を争う行事だった。毎年十月に行われ、
「危険すぎる!霞様は一度射られているんだぞ。怖くないのか?」
「私は怖くもなんともありません。それに
そう言って霞は好戦的な笑みを浮かべる。
「なるほど……。正体を知られていないからこそ接触できるということか」
「はい。実際にこの目で見て調べたいことがあるのです」
霞の正面に座る楓は腕組をして黙り込んでいた。薄明かりの中、
「楓様こそ、命を狙っている相手と顔を会わせるのは恐ろしいのでは?ここは私にお任せください」
そう言って再び昨年の射天ノ儀が記録された書物に目を落とした。
「……いや。ここは
「え?」
予想していなかった言葉に霞は弾かれたように顔を上げた。楓の黒い瞳が真っすぐに霞のことを
「狙いそびれた相手を目の前にすれば何か反応が変わるかもしれないだろう?」
(へえ。意外と勝負に出る性格なのね。そのまま私だけで調査を進めるものだと思ってたのに)
楓の意外な性格に驚きながらも、楓の策が良いものだと思っていた。霞はこほんと咳払いをする。
「では……私の考えた
「策?どんな策だ?」
眉を
「……危険なことではないんだな?」
「さあ、それは何とも言えませんが……。大掛かりなものなので皆さんの協力が必要ですからきちんと説明致します」
「霞!俺の名を呼んだか?」
スパンッと襖を勢いよく開けて、伊吹が姿を現す。その顔は霞に呼ばれた嬉しさに溢れていた。
「伊吹。お前、俺達の会話に聞き耳を立てていたな……」
「当然です!局の中で何が起きても対処できるように!」
「あのなあ……。お前は警護に集中していればいいんだ。余計なことを考えなくていい」
「余計なことではありません!お二人の状況を知らねば守れませんから!」
二人が言い争うのを無視して、霞は
『相手に進めば有利だと思わせて、進んだ先に罠を仕掛ける……。そうすれば相手は驚くだろうな!そして霞。お前は勝利を手に入れることができる!』
どこからか霞の父、
(狩の準備は整ったわ……)
霞の瞳に炎が宿る。
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