第十五話:戦闘
「押せやぁっ!!」
キアマート帝国のランベル将軍の指示の元、魔物を前衛とするキアマート帝国軍が動き出した。
先行する魔物の部隊はざっと見て三万。
その屈強な魔物たちが一斉に西の町の城壁に詰め寄る。
「投石器はなてぇ!」
しかし城壁の奥より飛び出す炎をまとった岩がキアマート帝国軍に降り注ぐ。
流石にこれには魔物たちも耐え切れず、大岩に直撃をされれば巨人族でさえ頭を潰し倒れる。
当然体の小さい魔物たちもこれにより飛んでくる岩に押しつぶされていくが、その数はかなりのモノになっている。
「むっ!? これは【隕石落とし】ではない! しかし燃え盛るあの大岩をどうやって飛ばしている!?」
戦況を後方の本陣から皇帝ロメルと一緒に見ていたソームは唸る。
流石に宮廷魔術師、これが【隕石落とし】メテオストライクでは無い事をすぐに見抜いた。
それを聞いて皇帝ロメルは宮廷魔術師ソームに聞く。
「大賢者がいる訳ではないと言うのだな? しかしあのような魔法が存在するのか?」
「そ、それは分かりませぬ。しかし【隕石落とし】で無いのならばその威力はそれ程でもありますまい。魔物の先行部隊で押さえられましょう」
驚きはしたものの魔物の数はまだまだいる。
このまま城壁に取り付いて城門を打ち破りいつものように攻め入れば数の暴力で勝てる。
ソームはそう思い嫌らしい笑をするのだった。
*
「流石に投石器だけでは揺るぎませんわね」
『あれだけ数がいればな』
城壁の上からその様子を見ていたアザリスタは次いで魔法騎士団に号令をかける。
「我が魔法騎士団は遠距離魔法で敵の足を止めるのですわ! 打ち漏らしは城壁に取り付く前に弓兵で仕留めるのですわ!!」
その命令に魔法騎士団は一斉に遠距離魔法で先鋒の魔物たちを倒す。
しかし魔物たちは侵攻をやめる事無く倒れた仲間をそのまま踏みつぶし迫りくる。
が、徐々にその動きに変化が始まった。
若干ではあるものの先鋒を務める魔物たちの動きが悪くなってきた。
『やっと効いて来たか、本来ならもうとっくに動けなくなるほど頭痛や嘔吐、下痢に脱力感で大騒ぎになっているはずだったんだがな。やっぱ魔物と人間じゃ違うと言う事か?』
「でも効いているのですわ! 嘔吐を始めた魔物も出始めましたわ!! よし、ここからですわ!!」
アザリスタはそう言って手をあげると途端に城壁の上に煙が立ち込める。
それは空を覆う程勢いがあり、そこでアザリスタは呪文を唱える。
するとその煙にアザリスタの姿が大きく映し出され侵攻していた魔物たちの動きが止まる。
『よくぞ来たキアマート帝国の愚か者どもよ! 我はアザリスタ、海の悪魔と契約を結べし者! 貴様らの蛮行に今海の悪魔が呪いをかけようぞ!! たとえ魔物でもその呪いから逃れる術はない! 貴様ら全員海の糧としてくれようぞ!!』
そう言って布面積の少ないビキニ姿であの大きな胸をぶるんと揺らす。
それは見る者によっては興奮を、そしてまた見る者によっては淫魔の笑みと見える恐怖を植え付ける。
「アザリスタだと!? 淫魔の姿をしているあの者が魔女か!! しかしこれだけの大軍、いくら海の悪魔がつこうとさばききれまい!」
ランベルはそう言って馬上から更に突き進むよう指示をするも、大量の魔物たちが腹を抱えもがき苦しみ始める。
体の小さい魔物の中には痙攣を始めるものまで出始める。
アザリスタが映し出された上空の映像は笑いながら消え去るも、先鋒を務める魔物たちは完全にその動きを止めていた。
小さな魔物の中には苦しみから戦線を離脱を始める者さえ出始めた。
おかげで後方で突撃を準備をしていたキアマート帝国軍にも動揺が起こる。
「お、おい、魔物たちでさえ呪いに抗えないだと?」
「どう言う事だよ、悪魔を食ったら魔力が強くなるって話じゃなかったのかよ?」
「魔物どもが逃げ出したぞ!!」
本陣であるキアマート軍の中にもその動揺は急速に伝染する。
総勢八万にも及ぶ軍がその動きを止めてしまう瞬間でもあった。
「ふざけるなぁっ! もういい、本陣城門を破壊しに出るぞ! 騎兵隊前えへっ!」
だがランベル将軍は影響の出ていない本陣の騎兵隊に号令をかける。
魔物の軍団の約三分の一がダメになってもまだまだこちらには兵力も何もある。
本陣の騎兵隊にはまだ呪いが届いていないのであれば呪われる前に城壁を突破してアザリスタの首を取ってしまえば良い。
そうランベル将軍は判断して魔物の軍団を引かせ騎兵隊で突入を始めるのだった。
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