第十三話:再進撃準備
キアマート帝国がカーム王国に侵攻をし、問題発生して一時引いてから早ひと月が過ぎていた。
小さな小競り合いはあったものの、おおむねその侵攻は止められ、キアマート帝国の軍隊はカーム王国の西にある侵略された旧ボジスト王国にその本陣を置いた状態だった。
「ロメル陛下、魔物たちがまた我が軍の兵に襲いかかったとの事です」
宮廷魔術師であるソームは皇帝ロメルの前に出てそう報告をする。
それを聞き皇帝ロメルは宰相であるラメリヤに聞く。
「ラメリヤ、本国からの補給物資はどうなっている?」
「それが、従来魔物たちの食料は現地調達を基軸とする為、補給物資自体が不足しております。また我が軍の優秀な侵攻速度があだとなり、補給線自体が追い付いていないのが現状です。補給線を伸ばすにはあと半月は必要となります」
宰相のラメリヤはそう言って手元の資料を確認する。
キアマート帝国は闇の森の住人を従え各国を侵略し、その場で略奪を繰り返して来た。
しかし闇の森の住人である魔物たちは本来人とは相容れぬ存在。
いくら英雄である皇帝ロメルでも完全に彼らを制する事は出来ない。
彼らを従える方法は侵略した国々で略奪をし、弱き者をその餌とすることで成り立っていた。
しかし進軍が止まり、腹をすかせた魔物たちを従えるには犠牲が必要となる。
現地で捕らえた問題のある者たちだけでは大軍である魔物の群れは空腹を補えない。
「カーム王国への侵攻準備はどうなっている?」
「それが、カーム王国は着々と守りを固めると同時にどう言う訳か海の悪魔どもが手を貸す事態に有りまして、淫魔共が先導を切って守りについております」
北側からカーム王国を襲う事も、本陣を進めるのも共に困難な状態へとなりつつある。
皇帝ロメルは地図を見ながらしばし沈黙をし、カーム王国の西の町、一夜城が出来あがった町を指さす。
「一点集中による突破を行う。あの町を蹂躙せよ。全戦力をここへ集結させるのだ!!」
このままではキアマート軍は内部から魔物たちの暴走により瓦解する恐れが出て来た。
北の元アルニヤ王国との同時侵攻は事実上できなくなっていた。
あちらもあちらで王都に軍が籠城する事態になりつつある。
それは元アルニヤ王国の貴族たちが進軍してきたベトラクス王国軍へと合流を始め、反旗を翻していたからだ。
「陛下、その前にご報告があります。これをご覧ください」
そう言ってソーム宮廷魔術師は小さな箱を持って来た。
それはそれは厳重に封がされていたが、ソームが解除の魔法を唱えると鍵が外れ、ひとりでに蓋が開く。
そしてその中にあったのは干からびたナマコだった。
「これはなんだ?」
「はい、これは海の悪魔の干物にございます」
「ソーム! 陛下の御前にそのような危険なモノを!!」
「どう言うつもりだ、ソーム!?」
すぐさま皇帝ロメルと宮廷魔術師ソームの間に宰相のラメリアと将軍ランベルが割って入り、ロメルをかばう。
「まぁまぁ、お二方も落ち着かれよ。この悪魔は既に事切れております。それにこれは海の悪魔の下僕、力も何も無くどうやら淫魔たちの指示によりあ奴等はこれを食し魔力を増幅させていると聞き及んでおります」
ソームはそう言って箱の中の乾燥されたナマコをつまみ上げる。
途端にラメリアあたりは小さな悲鳴を上げる。
「ひっ!」
「ソ、ソーム本当に大丈夫なのであろうな?」
頬に一筋の汗を流しながらランベルも注意深くその様子を見る。
しかしソームは笑いながら言う。
「ご安心を。いくら海の悪魔と言えど死んでしまえばこれこの通り。それより興味深いのはこれを食すると魔力が増幅し体力も回復すると言う事でしょうな。我らもこれを利用する手はないと思いますがいかがでしょうか?」
ソームはそう言っていやらしい笑をする。
それを見てラメリヤもランベルも心底嫌そうな顔をする。
「ソーム、まさかそれを皇帝陛下に食べさせるつもりではないでしょうね? そのような事はこのラメリヤが許しませんよ!」
「落ち着いてください、陛下にこの様な下賤なものをお出しするはずがありませんでしょうに。これを我が闇の森の者たちに喰わせるのです。情報ではカーム王国の補給部隊が二日後に海よりあの西の町に到着するそうです。そこを我らの軍で押さえれば闇の森の者たちの食料となりましょう。そして魔力と体力を回復した暁には一気に町に攻め入り蹂躙するのです!」
そう言い放ちソームは恍惚とした表情を浮かべる。
彼は人々が苦しみ死んでゆく姿がたまらなく好きなのだ。
「是非も無いか。よい、軍の者たちを補給物資略奪に回すがよい。特に飢えた魔獣どもを差し向けるがいいだろう。成功と同時に本陣も西の町へ攻め入るぞ!」
皇帝ロメルがそう言うとラメリアもランベルもソームも頭を下げその命を受ける。
「さあ、そこにいるのだろう魔女アザリスタよ。貴様に会うのが楽しみだ」
皇帝ロメルはそう言って地図上にある西の町へ短剣を投げつけ突き刺すのだった。
* * * * *
「これが例の物ですの? やたらと香ばしくおいしそうな匂いがしますわね?」
『だろ? 実際毒の無い部分は野菜と一緒に煮込んで食うとうまいんだよ』
目の前にこんがりと焼かれたフグがいた。
しかも毒性の高い種類だった。
更に下手に食べれば下痢を確実に起こすと言う脂の強い魚などもいた。
それらを香草とニンニク、スパイスを使って焼き上げるとなんとも旨そうな香りが漂ってくる。
天馬はカーム王国の海に近い村でそれら毒性の高い魚や魚介類を掻き集めさせある程度保存がきくような料理を大量にさせて荷馬車に積み込ませていた。
『自分たちが喰う毒の無いものと間違えて一緒にだけはしないでくれよ? 毒の強いモノだと食って三十分くらいで反応が出始める。嘔吐、下痢、頭痛、腹痛、脱力感などまっとうに立てる状態じゃなくなるからな。特に神経系の毒は体が痺れて動けなくなるから要注意だ』
「そ、それは海の悪魔の呪いでは無いのですの?」
『呪いではない。はっきり言って毒だよ。地上にだって舐めただけで場合によっては死んでしまう毒草だってあるだろう? それと同じだよ』
アザリスタのその心配に雷天馬は真面目に説明をする。
そして準備が出来た馬車を次々と出発させる。
『で、どうなんだい? あちらさんはこの補給部隊の事がちゃんと伝わっているんかい?』
「そこは抜かり在りませんわ。わざと情報が流れるようにしてありますわ。しかし、やはり海の悪魔たちは危険ですのね……」
『知っていて毒のある場所さえ回避できれば問題はない。それに食えるところは料理次第ですっげー美味い物になるからな。そうそう牛乳とエビや貝を煮込んでだなぁ~』
天馬のその説明にアザリスタは早速料理人を呼ぶのだった。
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