第七話:カーム王国


 カーム王国はレベリオ王国の西にある国で、周辺を岩山で囲まれた天然の城壁を保有していた。

 昔から「鉄壁のカーム王国」とまで言われていて、この国に侵攻するのは容易では無いと言われていた。


 その為に守りに関しては自信を持ち、保有する兵力にもそれ程力を入れていなかった。

 故にレベリオ王国と違い魔法騎士団を持っていない。



 この世界での戦争は基本的には剣と剣との合戦が主体であった。

 魔法自体はどちらかと言うと軽視され気味で自尊心の高い騎士たちは魔法などサポート程度のモノとしか考えていなかった。


 だが、約二十年前よりレベリオ王国が魔法と騎士団を融合させる魔法騎士団を設立した。

 その功績は街や村の近隣に現れる魔物や魔獣の討伐に大いに役に立った。

 そして魔法騎士団の戦力は無視できない程のものとなっていた。


 その為約十年くらい前からベトラクス王国にある魔法学園へ各国の貴族や王族が留学をし、そこで魔術を学ぶ者が増えていた。

 

 この数年間、各国は魔法騎士団の設立に注力をしていたのだった。



 そのような背景がある中、キアマート帝国がカーム王国の西にあったポジスト王国を侵略してしまったのでカーム王国も焦りを見せ、つい最近隣国のレベリオ王国と関係を持つ事を急いだ。

 それがアザリスタの腹違いの妹、フィアーナとの婚約と言う事だった。


 

「カローラ様! ご無事ですの!?」


 フィアーナはカーム城に入城してすぐにでも婚約者であるカローラ第一王子の元へ行く。


「おおぉっ! フィアーナ殿、まさかフィアーナ殿が来て下さるとは!!」


「カローラ様の事が心配でなりませんでしたわ。我が国の魔法騎士団も引き連れてまいりました」


 フィアーナは略式の挨拶をしてからカローラ王子の手を取る。

 見目麗しき姫が増援を引き連れカーム王国へやって来た。

 それは二国間の関係をより強く結びつかせるには十分なものであった。


「お姉さまが更なる増援を準備しておりますわ。カローラ様、増援が来るまで持ちこたえればきっとキアマート帝国も追い返せますわ!!」


 才女であるアザリスタの噂は近隣諸国へと伝わっていた。

 若干十九歳の娘でもその才覚にリベリオ王国は頼っているとの噂も聞こえる。

 そのアザリスタが更なる増援を準備しているとなればカーム王国にとっても心強いのは言うまでもない。


「それは朗報です。早速陛下の元へ参りましょう」


「ええ、それがよろしいですわね。それとこの親書をお姉さまから預かっております。必ず陛下にお見せするよう言われておりますからすぐにでも参りましょう」


 フィアーナはそう言って蝋で厳重に封がされている巻物を見せる。

 それを見たカローラ王子は頷きすぐにでもフィアーナを連れて王の謁見の間に向かうのだった。



 * * *



「フィアーナ姫、此度の増援心から感謝する」



 謁見の間で疲れがにじみ出ているクライマス王はそう言ってフィアーナに礼を言う。


「もったいないお言葉ですわ、陛下。私はいずれこの国に嫁ぐ身、我が国レベリオと友好を結ぶカーム王国の一大事に真っ先にはせ参じるのは当たり前の事ですわ」


 そう言ってファーナは深々と頭を下げ、そしてアザリスタから預かった親書を手渡す。

 クライマス王はそれを受け取り、その内容を読み取ってから怪訝な顔をする。



「失礼だが、フィアーナ姫はこの親書の内容をご存じか?」


「いえ、存じておりませぬ。しかしながら我が姉の事、必ずやこの状況を打開してくれると信じていますわ」



 そう真っ直ぐな目でクライマス王を見るフィアーナ。

 その圧倒的な自信と姉たるアザリスタへの信頼はゆるぎなきものだった。



 クライマス王は陰で「魔女」と呼ばれるアザリスタの事を思いだし実はキアマート帝国よりもやっべーぇ相手と手を組んでしまったのではないかと本気で思い始めてしまうのだった。



 * * * * *



「ほ、本当にこれが食べられると言うのですの?」


『ああ、言ったとおりに下処理できれば大丈夫だ。それにしてもちょっと網で漁っただけであんなに捕れるってのはすげーなこの世界の海!」



 今アザリスタの目の前には下処理が終わって塩茹でにされたり、蒸されたタコやナマコ、ウニなどが並べられていた。

 雷天馬のその説得の成果でもあるが、禁断とされたこれらのモノを陸にあげ、あまつさえは下処理をして試食をしようとしているのだ。



「の、呪われる事は無いのですわよね?」


『大丈夫だって、それにこいつらはタウリンやビタミンが豊富で食えば体力の回復に役立つ。しかも現地調達できる食材だ。あんたがそれを皆に示せば必ず役に立つ』



 雷天馬のその話にアザリスタはそれらを見る。

 既に指示された通りに切られて元の姿が分かりにくくはなっているものの、この世界の人間にしてみればとてつもない事である。


 しかしアザリスタはこの雷天馬とあれやこれと策を練っていて最後の食糧問題を解決しな狩ればならなかった。


 最初は海で魚を多量に取る事を考えたが、この世界は漁の仕方が確立されておらず大量に魚を捕る事が出来なかった。

 そこで食品会社に勤め、自身も趣味で海には釣りやウォータースポーツを楽しんでいた雷天馬の知恵を使って陸からでも簡単に採取できそうな食材を集めた。


 それがこれらなのだが、この世界では先にも話した通り海は悪魔の住む所、そこに居るこれらのモノも当然に悪魔の下僕とみられて恐れられていた。



「うううぅ、これも国の為ですわ!」


 そう言いながらアザリスタはたこの塩茹でを口にする。



 はむっ!



「もごもごもご…… あら、意外と癖がないモノなのですね? こ、こっちは??」


 次いでナマコを口にする。

 これも塩で茹でているが、食感が軟骨のようなモノで特に癖がない。

 

 次いでウニの蒸したものをスプーンですくい口に運ぶ。


「やたらと黄色いこれも食べられるのですわね…… 悪魔のとげの塊の中身としては想像できないものですわね。 はむっ」


 しかしながらそれはアザリスタに驚きを示す。



「な、何ですのこれは!? 濃厚な味わいと海の様な香り? は、初めてですわ!!」



 そう言いいながらもう一口。

 それはフォアグラにも負けない濃厚な味わいを示すのだった。


『へへへへ、どうだい? これらを分からない様に加工したり干物にすれば長期保存が出来る。タコなんざ酢につけられれば内陸にまで運べるぞ?』


 アザリスタは驚きそれらを見渡す。

 そして自身の身体の様子を見る。


「た、確かに呪われるような事は無いですわね・・・・・・」


『よっし、これで食料の問題も何とかなったな。これで行けるだろう?』


 雷天馬はアザリスタにそう言う。

 アザリスタはもう一度それらを見て頷く。



「これで準備が出来ましたわ。キアマート帝国、私を相手にした事を後悔させてあげますわ!!」




 そう言いながらどうやらお気に入りになったウニの蒸したものをまた食べ始めるのだった。    


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