第11話 鳩の幸せ

「わたくしで宜しいのですか?」


「当然だ。ずっと望んでいた」

 エリックはレナンに覆いかぶさるようにして抱きしめる。


「最初にあった頃から優しさと奥ゆかしさに惹かれていた。手紙も君が書いていたのだろう? 綺麗な字でいつも思いやりに溢れた言葉が書いてあった。素っ気ない返事しか書けず、済まなかった」


「いいえ、いいのです」

 それよりも覚えていてもらったことが嬉しい。


「これからは存分に思いを伝えて行くから」


「はい」

 嬉しくて笑顔になってしまう。


 おずおずとエリックの背に手を伸ばし、抱きしめ返す。


「嬉しいです、エリック様」

 温かな感触と、心地よい匂い。これが現実なのだと実感する。


 幸せで死んでしまいそうだ。


「俺も嬉しい。こうしてレナンをこの腕に抱く日が来るなんて」

 そっとレナンと唇を重ねた。





 その後は急遽用意させたドレスと装飾品をレナンに贈り、共にパーティへと顔を出す。


 パロマの国のものは酷く問い詰められ、事実確認の為に帰ったそうだ。


 後日の言い訳が楽しみだ。


 式が始まる前と違い、エリックの雰囲気は穏やかになった。


 最低限の人しか呼んでいないのだが、それが良かった。


 改めてレナンを最愛の人として紹介することが出来た。


「それにしてもとんだハプニングでしたね。一体何があったのです?」

 そう聞かれたエリックは後々の事も考え、この場にいるものに正直に話す。


 レナンに罪はないという事を強く強調し、そしてパロマ国は末の王女に酷い事をしたのだと訴えた。


 さすがに全てを信じる、という事はしないようだが、実際にこうして花嫁を偽り、国交を台無しにした事は揺るぎない事実だ。


「信用に値しない国、という事ですね」

 そう言ったのは森の向こうの国の者だ。


 大きな耳に細長い尻尾、体格は小柄ながらも勘が鋭く手先も器用だ。


(一応森を挟んでの隣国になるから招待状を送っていたな)

 鼠の国―ラタとの交流をファルケは積極的に取ったことはなかった。


 狡猾さとそのずる賢さをファルケは良しとせず、また森を超えてまでラタと交流を図るメリットを感じていなかった。


 ラタもまた森を越えてまでファルケに行くメリットはなかった。


 力の弱いラタの者にとっての森越えはリスクが高い。

 そしてファルケからも友好的な雰囲気はなく、お互いに何となく疎遠となっていた。


「もしもパロマとの交易を考え直すのならば、うちと手を組みませんか?」

 唐突なる誘いにファルケの者は驚く。


「どういう事です?」

 祝いの席での商談は珍しいものではないが、新郎に持ち掛けるのは珍しい。


 皆が注目をしている。


「いえね、そちらにとって悪い話ではないし、そちらの王女様とは少々縁が合って……」

 ちらりとレナンに目線が移される。


「わたくしと、ですが?」

 自分が名指しされるとは思っておらず、レナンはキョトンとしてしまった。

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