第36話 追撃
第一次攻撃隊に続き、第二次攻撃隊の指揮も執ることになった友永少佐は進撃途中で見かけた光景を思い出している。
第二艦隊がすでに第三艦隊よりもむしろ東洋艦隊に近い海域にまで進出していたのだ。
このままの速度を維持すれば、日没までに同艦隊を捕捉出来るポジションに到達出来るではないか。
あるいは、第二艦隊は最初から洋上航空戦における第三艦隊の勝利を確信していたのかもしれない。
そして、索敵機が東洋艦隊を発見すると同時に第二艦隊は最大戦速に移行した。
そう考えれば一応の辻褄は合った。
一方、機動部隊それに水上打撃部隊の二群に分かれていた東洋艦隊のうち、機動部隊のほうは西へ向けて避退を図っている。
主力の三隻の装甲空母がすべて撃破されたうえに護衛艦艇もそのことごとくが手傷を負わされたのだから、当然の措置だろう。
逆に水上打撃部隊のほうは機動部隊の盾になるつもりのようで、同部隊よりも東にその位置を遷移している。
友永少佐は視界に捉えた英機動部隊を凝視する。
明らかに脚が衰えた空母が三隻。
生々しい被弾痕を穿たれた重巡が二隻。
それと、弱々しい足取りでそれらを取り囲む駆逐艦が八隻。
第一次攻撃隊の猛攻によって大打撃を受けた英機動部隊と見て間違いなかった。
「『飛鷹』攻撃隊は左翼の空母。『隼鷹』攻撃隊は右翼の空母。『龍驤』攻撃隊ならびに『龍鳳』攻撃隊は最後尾の空母を狙え。艦爆隊は外郭の巡洋艦と駆逐艦を攻撃せよ」
友永少佐の命令一下、艦爆と艦攻が分離し、それぞれ定められた目標に急迫する。
第二次攻撃隊は九九艦爆一五機に九七艦攻二八機、それに護衛の零戦が一八機の合わせて六一機。
艦攻が多いのは索敵任務にあたっていた「祥鳳」それに「瑞鳳」の機体を「隼鷹」と「飛鷹」がこれを一時的に取り込み、さらにそれら機体に魚雷を搭載したうえで出撃させていたからだ。
予想以上に充実した戦力で英機動部隊を攻撃出来ることはなによりもありがたい。
数が多ければそれだけ敵の対空砲火は分散されるから被害も少なくて済む。
第一次攻撃隊に参加した艦爆の四割強、それに半数の九七艦攻が即時再使用可能だったのは英艦隊の対空火力が米艦隊のそれに比べてかなり劣っていたからだ。
もし、第一次攻撃隊が同規模の米艦隊を相手どっていたとすれば、即時再使用可能な機体は艦爆も艦攻も三分の一にすら満たなかっただろう。
あるいは英海軍や帝国海軍の対空能力が普通なのであって、米海軍のそれが凄すぎるのかもしれない。
一五機の艦爆は二機乃至三機に分かれて六隻の英重巡あるいは英駆逐艦に狙いを定める。
英重巡や英駆逐艦は必死の回頭で狙いを外そうとするが脚を奪われてしまっていては回避運動もままならない。
九九艦爆は投弾前に二機が撃墜されたものの、他の機体はそれぞれの目標に二五番を叩きつけていく。
一三発中六発命中というのは昨年四月の戦いのことを思えば少々物足りないが、当時はそれこそ達人級の搭乗員が揃っていたから、そんな連中と比べるのも酷な話だろう。
友永少佐は一〇機の部下を引き連れ、左翼に位置する空母を目指す。
すでに二本の魚雷を被雷しているせいか船脚は伸びていないうえに回頭にも切れが無い。
余裕で理想の投雷ポジションに遷移した一一機の九七艦攻は、途中で一機が撃墜されたものの残る一〇機は必殺の九一式航空魚雷の投下に成功する。
「目標の空母に水柱! 一本、二本、三本・・・・・・さらに一本」
後席の部下からの報告を信じるのであれば四本が命中したことになる。
「撃沈確実だな」
第一次攻撃の時点で二本被雷し、さらに四本もの魚雷を突き込まれたのだ。
いかに防御力に優れた装甲空母といえども浮いていられる道理は無い。
友永少佐率いる「飛鷹」隊が攻撃を終了した頃には他隊の攻撃もまた終わっている。
「『隼鷹』隊、魚雷四本命中、目標沈みつつあり」
「『龍驤』隊ならびに『龍鳳』隊、魚雷二本命中。大傾斜、撃沈確実」
景気の良い報告に友永少佐は相好を崩すが、すぐに気を引き締め直す。
空では何が起こるか分からない。
母艦に帰りつくまでは、一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。
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