第十三話 望む一撃

「流石にさっきまでみたく一体一体での相手はさせてもらえないか」


 サリシアが周りのゴブリン達と共に三体目のデュラハンを倒したことに他のデュラハン達はサリシアに対しての警戒心を今まで以上に高める。

 自分達の進軍における最大の障害として。

 その為先程までサリシアの目の前に来たデュラハンは一体ずつだったのに対して残りのデュラハン達はサリシアを取り囲むように陣を組みだした。


「ふぅ」


 サリシアはデュラハン達に取り囲まれた中心で一人息を入れ直す。


「さぁどの子からくる」


 サリシアは剣を構え直す。

 デュラハン達も自分達が持つ剣を構える。

 一瞬の静寂の後それを破るほどの剣と剣のぶつかり合う音が戦場に響きわたる。



◆◆◆◆◆◆


「前線に出ていた兵士の治療を急げ!!!」


「隊長!サリシア様の援護は」


「いらん、むしろ足手まといに…いや足手まとい以下にしかならんか?とにかく今は怪我人の治療を優先する。まだまだ気を抜いくな。後ろにいる我々を巻き込んでしまうかもしれないからサリシア様は力任せに敵を全部消すような強力な一撃を放てん。我々がいるだけで制限になってしまっているんだ。目の前の戦いに集中してもらうためにも怪我人の治療は我々がおこなう。サリシア様には聖女としての役目を忘れていただく。傷の一つも残さずきっちり治してもらえ」


 ラグナにいる回復魔法の使い手達は今回の最大の功労者たる前線の兵士を労うように治療に全力を注いでいた。


「大丈夫ですか?」


「なんとか」


「安心してくださいもう治りますので」


「なんか気が抜けてないか」


「そういうあなたこそというより気が抜けているのは全員でしょうか?」


「だな、隊長は気を抜くなって言ってるけど無理そうだ」


 前線に出て抑えていた兵士も後ろで回復魔法を使い続ける者たちも等しく皆安心しきっていた。

 もう大丈夫だと。

 剣帝聖女サリシアは負けないと。



◆◆◆◆◆◆


 全員で一斉に攻撃して来てくれたほうが楽なんだけど、しっかりフェイントいれたりしてきたりして本当にやりにくい。


「今度は後ろか!」


 デュラハン達は陣を組んだ後サリシアに目掛けて代わる代わる様々な仕掛け方をしていた。

 単純な攻撃では返り討ちに合うのを嫌でも理解していた。

 一人で挑めば負ける。

 それは初めの三人が証明している。

 目の前にいる人間は自分達の鎧の防御を突破してくる。

 そんな相手に正面から挑めば同じようにやられる。

 こちらの有利は分かりやすく数が違う。

 ならば残った十人で挑めばいい。

 ゆっくりと確実に持っているであろう戦力を削っていく。


「確実に削っていく戦い方に替えたかな。確かに私の方が先に疲弊する可能性が高いかもしれないけど」


 そんな戦い方をするのなら急所を守らなくてもいいかな。

 当たりどころが悪くない限り死ぬことはない。

 一歩前に出る。

 普通ならあり得ない選択を取るサリシア。

 防御を捨てると。


「ハッ」


 サリシアは自分との間合いを測りながら攻撃をする左側のデュラハンに対して前につめた。

 当たれば死ぬ可能性があるのに防御を捨てて前に出たサリシアに驚いたデュラハン。

 そのほんのわずかな一手の差で勝敗が決まる。


「肉を斬らせて骨を断つ!だっけ」


 サリシアは力を入れて剣を振るう。

 デュラハン達の鎧の防御がどれだけの硬さたわかったが故に。

 自分の一撃は防げないと。


「ぐっ、まずは一体」


 やるね~最後に剣で横腹を斬ってくるなんて。

 でも一体持っていけたなら良い。

 このくらいの傷なら戦いながらでも治せる。


「ヒール」


 サリシアは斬られた箇所に回復魔法を掛けていく。

 伊達に聖女などとは言われていない。

 一瞬にして斬られたはずの傷が塞がった。


「本当久しぶりに余裕なく戦っているかも」


 後ろにいる怪我人達のことも気になるし、でも目の前にいるデュラハン達も放って置けない。

 それに後は任せてって言ったしね。





「サリシア様!!!」


「えっなに」


 声が聞こえたのはサリシアの後ろラグナから。

 多くの人達がそこには並んでいた。

 前線にいたであろう兵士から後衛にいたであろう回復魔法の使い手、避難していたはずの住民でさえも。


「サリシア様!目の前にいる奴らを倒しちゃってください」


「傷なんてもう治ったし」


「後々の俺達の治癒はいらないんで」


「最近あったオーガみたいに全力で」


「思いっ切りやっちゃえ」


「その辺りの街道なんかまた直せる」


「なんなら綺麗になるしな」


「新しい街道を作るのもいいしな」


 各々が口々にいろんな言葉をサリシアにかけていた。

 こっちは気にするなと。

 私達という制限は無視していいと。

 そしてサリシアに向けて彼らが最後に言うはいつもみたいにやってしまえと。



「「「「「ぶっ飛ばせ剣帝聖女」」」」」



 サリシアはその言葉を聞いてただ笑みを浮かべながら、


「了解」


 サリシアは呼吸を整える。

 溜めて放つというシンプルな一撃。

 辺り一帯が消失する程の一撃。

 

「やり過ぎっていつも怒られるけど今回はいいよね」


 私は我ながら単純だ。

 言葉一つでどうしようもなく心が動く。

 


 ハハハハァァァァァァァァ



「ぶっ飛ばせと言われてやらないわけにはいかないでしょが」


 サリシアは自身の力を高めていく。

 全身全霊皆が望む剣帝聖女としての一撃を繰り出す為に。

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