百合ゲーヒロインたちを陰ながら助けようとした俺が、彼女たちに追われるのはなぜ?
こがれ
第1話
「けがれた女をかばうなんて、信じられないな」
『シリル・グレイホイル』はあざけるように言った。
まるでドブネズミを可愛がっているバカを見るように、ゆがんだ眼を向ける。
「彼女をそんな風に言わないで」
シリルに対しているのは一人の少女。
『エリテア・ヴォルフガング』だ。
肩程度まで伸びた金髪を、いつも赤いフードで隠している。
「約束して、私がこの決闘に勝ったら、二度とその言葉を口にしないで」
二人は石造りのステージの上に立っていた。
生徒たちが戦闘訓練をするさいに使われるものだ。
その周りには野次馬の生徒が集まり、決闘が始まるのを待っている。
「ああ、約束してやるよ」
二人の間に、審判を引き受けた生徒が入り、始まりの合図を送る。
「お前が勝つ可能性なんて、無いけどなぁ!!」
シリルは剣を引き抜き、走り出す。
『グレイホイル家』は王国でも有数の大貴族。
その家の教育を受けたシリルは、優れた剣技と魔法を操る。
その実力は学内で高く評価されている。
家柄と実力。
両方を備えたシリルは、学内で不動の地位をきずいていた。
調子に乗っていた。
自分こそが、この学校の支配者だと。
自分に歯向かうエリテアは、おろかな女だと。
「ぐぇ!!?」
バン!!
発砲音と共にシリルが吹っ飛んだ。
まるでカエルが潰れたようなうめき声をあげて。
エリテアが銃を使って、シリルを吹き飛ばした。
魔力を放出する銃だ。
体を貫くのではなく、吹き飛ばすように、エリテアが加減をして撃った。
情けなく四肢を投げ出してシリルは地面に転がる。
ピクリとも動かない。
どうやら気絶したようだ。
「私の勝ちでいいね?」
審判が一瞬遅れて、エリテアの勝ちを宣言する。
シリルは負けた、あっけなく。
「エリテア、大丈夫?」
エリテアに駆け寄るのは長い銀髪の少女。
『セレナ・ルナーズベルグ』。
シリルが『けがれた女』と呼んでいた、この決闘の原因だ。
「大丈夫だよ。怪我一つないから!」
「良かった」
セレナはホッと息をはく。
「ごめんなさい。私のせいでこんなことに巻き込んでしまって」
「気にしないでよ。私たち、友だちでしょ?」
「と、ともだち……」
その言葉を聞くと、セレナは恥ずかしくも嬉しそうに笑った。
ずっと友人がいなかったセレナにとって、それはとても甘美な響きだった。
(うひょーー!! これこれ、これですよ!!)
シリルは心の中で踊りだす。
気分はフィーバータイムだ。
薄目を開けながら、エリテアたちの様子を見ていた。
(生きてて良かった。転生して良かった)
シリルの前世は平凡なサラリーマンだった。
特に優れたものがあるわけでもない。
少し百合が好きなだけの一般人。
(良かった。『かりころ』の世界に転生して。エリテアちゃんとセレナちゃんの絡みが見れて良かった……)
『狩人は吸血鬼を殺さない』その通称が『かりころ』。
百合系の学園RPGだ。
そして『シリル・グレイホイル』はそのゲームのかませ役。
序盤にセレナをバカにして、それに怒ったエリテアと決闘をして負ける。
そうすることで、エリテアとセレナの友情が深まるきっかけを作るキャラだ。
とりあえず、『シリル』としての大きな役目は終えた。
(だけど、まだ油断はダメだな。俺の最終目的は、二人が死んでしまうのを阻止することだ)
『かりころ』はいくつかのルートに分岐する。
しかしそのいずれでも、エリテアかセレナ。そのどちらかは死んでしまう。
それを阻止することがシリルの目的だ。
(ゲームでは苦汁を飲んでいたが、俺はこの世界に転生したのだ!)
シリルは改めて決意を固める。
たとえ、自分の命を賭したとしても。
(二人を完全無欠のハッピーエンドに送り出してやるぜ!!)
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