51:英雄剣

 今からおよそ30年前、ストーンヘンジ・ゲート内にて「英雄剣」は誕生した。5人の伝説的シーカー達の手によって「人工的に」作り出されたのだ。そのきっかけは酒の場で出た鍛冶師の何気ない一言から始まった。


「我が国が誇る聖剣エクスカリバーのような最高の剣を作ってみてぇなぁ」

「おっ、アーサー王の剣か、いいねぇ」

「さしずめ俺達は円卓の騎士ってところか?オレは剣はからっきしだけど」

「鑑定ならこのワタクシが直々にしてあげますことよ。ヘッポコな剣だったら、世界中に笑われますものね」

「おう!見てな!世界最高、世界最強、未来永劫語り継がれる程の名剣を作ってみせるぜ!」

「その話し乗った!オレが最高の素材を見つけてくるぜ!」

「俺もやる!柄、鍔、鞘、装飾の一切は俺に任せてくれ!これまで磨き上げてきた技術の全てを注いだ史上最高の武器に仕上げてみせる!」

「それならあの偏屈な魔法使いも呼ぼう!魔法でさらに強化するんだ!」

「マリアンヌ、すまんが頼まれてくれねぇか?」

「仕方がないわねぇ・・・大きな貸しになるわよ」

「すまねぇ、よろしく頼む!」


 その後マリアンヌと呼ばれた女性鑑定士は、世俗にまるで関心がなく、人付き合いもほとんどない、偏屈ジジイで知られる魔法使いの元へと行き、ほぼダメ元で話してみたが「そういう話をずっと待っておった!」と、最近曲がり始めてきた腰をピシリと垂直に立て、仲間の元にすっ飛んでいった。


 かくして、鍛冶師、武器職人、採掘人、鑑定士、魔法使いの5人は、完成まで10年もかかったわずか一振りの剣の製作にとりかかった。


 最初は既に存在する国宝級の貴重な鉱石を素材にしようと思ったが、採掘人が「オレに1年くれ、最高の素材を探してくる!」と言ったので、他のシーカー達は皆了承し、各々のスキルをさらに高めることにした。


 しかし1年経っても採掘人は戻ってこず、調査隊を派遣したところ、彼の弟子の中でも一番若かった者がボロボロの姿で発見された。


 後に「竜の涙」と呼ばれることになる、エメラルドグリーンに輝く鉱石を両腕で大事そうに抱えていた。


 採掘人の遺言が書き記された手紙には、「この世で最高の素材を見つけた、剣の完成をこの目で見られないのは残念だが、お前たちなら最高の剣を作り上げると信じでこれを託す、後は頼んだ」と書かれており、残されたシーカー達は身命を賭して作り上げることを誓った。


 これまで遊び半分だった気持ちは、愛する仲間、採掘人の死という代償を支払うことで、全身全霊をかけての揺るぎない決意へと変化した。


 しかし採掘人が命をかけて見つけ出した鉱石「竜の涙」はおよそ一筋縄ではいかない極めて難しい素材だった。


 既に世界最高の鍛冶師とまで言われた彼でも、その素材を前にはまったく歯が立たなかったのだ。


 マリアンヌが鑑定を試みても、その組成や性質についてはほとんど分からず、当時の研究者や、それぞれの専門分野に特化したスペシャリスト達でも、その素材についての詳細を伺い知ることは出来なかった。


 鍛冶師は自分自身のプライドどころか、自国だけの力で作りあげるんだという矜持も捨てて、世界各国のシーカー達に協力を要請した。


 様々な国の一流と呼ばれる刀剣鍛冶師達が招待され「竜の涙」に挑んでみたが、まるで歯が立たず、そもそも刀剣素材じゃないのではないか?という見方が強まっていった。


 そんな中、日本の奈良ゲートからやってきたという一人の小柄な「刀匠」スキルを持つ老齢なシーカーが現われ、彼の長年愛用してきた大槌を力強く一振りすると、カーン!と鳴り響く高音、閃光とともにごく僅かではあるが「竜の涙」は割れることなく変形した。


 彼は日本刀の聖地とも呼ばれる瀬戸内地方、かつて「備前」と呼ばれた地の「長船」出身であった。


 しかしながら彼は既に高齢であり、彼の渾身の一振りでさえ、ほとんど見分けがつかない程度にしか「竜の涙」は変形しないため、とてもこれを刀剣の域にまで鍛錬することは出来ないと語った。


 鍛冶師はこれまで彼が築き上げてきたその全てを一切手放して、弟子入りを平身低頭懇願し、遠く日本からきた高齢の刀匠はそれを快く受け入れた。


 二人がかりで剣の形にするまでに5年、そこから刃を研ぐのに3年もかかった。刀身が完成する頃には遠く日本からやってきた刀匠は静かに息を引き取り、鍛冶師は号泣した。刀身には彼の名を刻み込んだ。


 もちろんその間、武器職人もそれに見合う柄、鍔、鞘の製作に、全身全霊を費やし作っては壊し作っては壊しを繰り返し、鍛冶師に負けぬ程の気迫でまさに血をにじませながら作っていった。


 そして残りの1年は魔法使いが己の全ての英知と魔力を注ぎ込んだ。最初に依頼を受けたとき彼は60歳であり、まだまだ壮健であったが、70歳近くになった今、己の命己の魂全てを剣に籠めているかのような執念により、誰が見ても余命僅かな老人の姿へと変貌していた。


 偏屈で知られる魔法使いが、彼の命の雫を最後の一滴まで流し込むと、剣は大きく光り輝き、まるでこの世のあらゆる暗闇を、その一刀のもと、光で浄化するかのようなオーラを放った。


 魔法使いは絶命した。しかし彼の顔は生前誰も見たことがない程の優しい笑顔であった。


 鍛冶師はそれ以後二度とハンマーを握ることが出来なくなった。しかし一切の後悔はなく、生涯最高の剣、未来永劫語り継がれるであろう剣を作ることが出来て幸せだった。


 武器職人も既に両腕はボロボロで、その上過労がたたって、ついには失明してしまった。


 マリアンヌはそんな彼等を見守る事しか出来ず、そしてそんな彼等を誰よりも愛し、誰よりも深く知るからこそ、彼等の命が削られていくのを止めることが出来ず、完成したその剣の鑑定結果を見て、ひたすら溢れ出る涙をとめることが出来なかった。


 こうして5人の伝説のシーカーによる世界最高の剣「英雄剣」は、二人の命と二人の命と言っても良いスキルと引き換えに誕生した。


 その鑑定結果は以下の通りであった。


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英雄剣

攻撃力:9999

メンテナンス不要

自己修復機能有り

生まれながらの英雄だけが扱える

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英雄剣の鞘

防御力:1000

メンテナンス不要

自己修復機能有り

身に着けているだけで防御力が付与される

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