46:ヒアリング
一夜明けて、良野・木下コンビをゲート付近でユニコーンと一緒に見送った後、程なくしてシーカー兼研究職員の人達がゲート内に入ってきた。見るからに全員徹夜明けのような風貌で、昨日の大上映会のことなどつゆ知らずでグッスリ寝ていた冴内はなんとも申し訳ない気持ちになった。
いつものプレハブ小屋とは別の、まだ入ったことがないプレハブ小屋に入ると、大型のコンピューター機器が数台設置されていた。職員が手慣れた手つきで操作し、正面の大型モニターが映し出された。そこでふと思いついたことが口から出た。
「そういえばゲート内の電気ってどこから来てるんでしょうか」
「あれ?講習で聞きませんでしたか?」
「あっ、光発電とか自家発電でしたっけ・・・」
「確かに光発電もありますが、ほとんどが鉱石からの自家発電ですよ」
ゲート内に来てからこれまで普通にあちこちにコンセントがあるので全く気にもかけていなかったのだが、ようやく電気の供給元が分かった。シーカー達の間では「デンキ石」と呼ばれる「帯電鉱石」なるものがあり、食塩水に浸すと電力を得られる鉱石なのだが、実際には安定装置や出力調整装置など各種コンバーターが搭載された専用機械にセットすることで電力をまかなっているそうだ。まだまだ知らないことがいっぱいあるなぁと冴内は少し反省。
ちなみに例のルビー(仮)については膨大なエネルギー量が含まれていることが分かり、電力換算すると日本の年間総電力量の5倍ほどに相当することが分かったそうだ。また、ただ単にエネルギー源としての性質以外にも素材としての組成調査も行われており、その方面でもかなりの価値があるらしい。あのルビー(仮)一つで日本の5年分の電気量があることに冴内は驚愕した。
その後これまでのヒアリングが開始された。ヒアリング途中、心配そうにユニコーンがプレハブの窓から何度もこちらの様子を伺い、そのうちツノで窓ガラスを割りそうだったので、職員の了承を得て窓を開けて鼻筋をなでてやった。安心したのかユニコーンは大人しくなった。
これまで自分が撮影した動画や良野さんが撮影した落馬動画、さらに例の壁画動画など、これまでの自分の探索行動に関連する動画を見ながら時折動画を停止してはその時の様子や状況、感じたことなどをヒアリングしていった。動画の最後に出てきた自分の「げぇっ!」という顔だけは正直見たくなかった・・・
朝から5時間にも及ぶヒアリングを終え昼食の時間になった。もちろんぶっ続けで事情聴取されたのではなく、きちんと小休止を挟み、その際はユニコーンをなでてやった。ユニコーンもだいぶ人間になれたようで、年配の優しそうなシーカー数名にボディタッチされても大人しくしていた。
職員の人達と一緒に野外食堂で食事をしていると大工の宮君がやってきて「厩(うまや)の建築作業完了したッス!」と言った。そして自分に向かって「昨日の梨スゲーうまかったッス!」と言ってくれた。
食後自分の個室があるロッジに行ってみるとロッジの横にかなり立派な厩が建っていた。ユニコーンも気に入ったようで前足をピョンピョンしていた。
屋根付き厩の中には木製の6人掛けテーブルとイスがあったので、午後はそこで調査を継続することにした。自分がいるのでユニコーンも安心しており、これなら大丈夫そうだということで研究職員のうち白衣を着た、いかにも生物担当っぽい職員はユニコーンを調べ始めた。残るメンバーでさらにヒアリングを再開した。
午後5時半頃に全てのヒアリングが終了し、職員たちはゲート外へと引き上げていった。彼等を見送った後「ウーン!疲れたぁ・・・」と伸びをしてユニコーンの顔をなでながら「お前もご苦労様」と声をかけた。
その後食堂に行くと見知った顔が多くいたので一緒に飯を食おうということで大きなテーブルを囲んだ。メンバーは良野さん、木下さん、早乙女さん、梶山君、宮君、そして矢吹さんと涼宮さんがいた。ここ数日矢吹さんと涼宮さんを見かけないと思っていたが研修センターで色々と調査報告などをしていたそうだ。
やっぱり自分以外の皆は真面目に仕事しているんだなぁと思い、どうにも申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだが、食事後の雑談の際にほぼ全員の携帯待受け画像が自分の「げぇっ!」の顔だったのにはほとほと狼狽した。
例の動画は全員何度も繰り返し見たそうだ・・・
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