シンカのキセキ

進化

 半壊した教会、全壊した民家、砂漠化した大地、そこへ横たわる1人の若い男。

 そして地面の上に向かい合うように佇む若い女と不気味なほど冷酷な目をした1人の男。

 その女の目には悲しさ、戸惑い、虚無感で渦巻いていた。


「どうしてこんなことをするの‥」


 女が弱々しく漏らした言葉を男は聞き逃しはしなかった。

 冷酷な目のまま片方の口角を上げ


「面白いからに決まってるだろ?」


 と言い放った。続けて何かを口にしようとした時、


「黙れ」


 女の目は怒りで満ちていた。そしてどこから取り出したかもわからない拳銃を空へ掲げると、


「進化」


 そう呟きなんの躊躇もなく引き金を引いた。

 青空に乾いた銃声が鳴り響く。

 間もなく黄金色の光の粒がゆっくりと女の頭上に降り落ちてくる。

 次の瞬間、眩い光が女を包み込んだ。


 ほんのりと赤みがかった長い髪は紅葉のように赤く。

 薄青色の瞳はサファイヤのように青く変色していく。


「お前にどんな意図があろうとも、お前がどんな過去を持とうとも」


 以前のような弱々しさなどなく重みのある声で言い放つ。


「この身が動く限り、たとえ滅びようともお前だけは破壊する」


 依然男の口元はニヤついていた。

 女は深く息を吸うと、


「一閃」


 男がまばたきを終えた瞬間、男の視界から女が消えた。

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