#1
「先生っ」
「どうした」
「どこへ行かれるのですか」
「とあるパーティに招かれてね」
「ぼくも連れて行ってください」
「しかし——招かれているのは私だけなのだが——」
「迷惑はかけませんから。ぼくは先生の助手ですよ」
「きみが勝手についてくることが迷惑になると思うが」
「残り少ない時間、少しでも長く先生と一緒にいたいんです」
「うーん、しょうがない。おとなしくしているんだよ」
「はいっ。ありがとうございます」
先生はそれなりに名を知られている探偵で、これまでに多くの事件を解決してきた。しかし、先生の関わった殺人事件の犯人はすべてその直後に何らかの形で死んでしまう。そのストレスのせいか、先生は癌にかかってしまい医者に残り二か月の命だと診断されているのだ。
また、犯人が特定できてもすぐに死んでしまうので、警察からは忌み嫌われ、「死神探偵」と呼ばれてしまっている。でも先生はその名前とは違って優しい。
そんな先生と僕が出ったのは、ちょうど五年前の事件でのことだった。
——さて、これで全てのピースはそろいました。
探偵である
ぼくは愕然としている。こんなこと信じられるはずもない。
——っ。そんな。母さんが、母さんがそんなことするはずがない。父さんを殺したのは、きっと別の人だ。あんなに仲良かったのに、母さんが父さんを殺したなんて、そんなのあり得ないっ。
何の説得力もないとわかっていても言わないわけにはいかない。
——しかし、証拠はこんなに上がっている。君のお母さん以外、霧島光輝さんを殺害できた人はいないんだ。
——でもっ。
そういって助けを求めるようにぼくは母さんのほうに目を向ける。
母さんが目をそむけたのが見えた。
——ごめんなさい。ごめんなさい。
絞り出すように言った母は、
ドンッ
——おいっ。どこへ行くっ。
横にいた人を突き飛ばし、家を飛び出した。
バタンッ
叩きつけられるように閉じられた扉が大きな音を立てる。粟田田市区警察官が母の背中を追う。
母さんが飛び出した道路は、車の通りが多かった。
キキー
運悪く歩道を飛び出した母は道を走ってたトラックにひかれた。
——ああ。そんな。そんなっ。母さん。かあさぁん。
ぼくは何が起こったか分からずしばらく棒立ちの姿勢だった。少ししてやっと起きたことを理解し、泣いた。
——まただ。また止められなかった。ああ。
そんな声が横から小さく聞こえてきた。
ぼくの母さんは死んだ。両親が死に、親戚もいなかった僕は、探偵だった岸野先生に引き取られることになった。
そこで初めて、先生が死神探偵と呼ばれていたことを知った。恨まなかったはずがない。
初めは、先生が母さんを殺したとまで思った。先生が推理したせいだと。先生が捜査しなければと。
でも、いまは先生のことを恨んでいない。それよりも、先生の推理力を生かしながら、犯人が死亡しないようにするにはどうすればいいのか。ぼくはその謎の答えを探すため、先生の助手になった。
そして先生についていろんな事件にかかわった。いずれも生き残った犯人はおらず、ぼくがどんなに注意して動いたとしても先生が解決した事件の犯人は死んでしまった。
先生は以前、事件の捜査をやめようとしたことがあったそうだ。しかし、外へ出歩き、普通に生活するだけでも殺人に巻き込まれ、その犯人が分かったら口に出さなくても犯人が死んでしまう。
今は犯人を死なせないようにする方法を探すためにもできるだけ普通に生活し、最低限の事件を遺族の負担が最小限になるように解決していくようにしている。
ぼくも先生もあきらめ始めているのだ。
先生が死ぬ前にこの問題は解決されるのだろうか。そんな疑問を抱きぼくは一日一日を無為に過ごしている。
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