第16話 お買い物

 月曜日のモンスターの襲来が終わると、人類には束の間の日常が訪れる。学生は火曜日から金曜日まで学校に通い、社会人も然り。


 土曜日は完全なオフで街は人で溢れる。


「成金マン! 私服じゃないの!?」


 相変わらずミニスカートの四辻が俺の服装にケチをつける。


「これが私服だ」


「いつもの成金マンの格好じゃない。今日は土曜日よ? 普通の格好にすればいいのに」


「いつ戦いになるか分からない。素顔で成金パンチを使ったら正体がバレてしまうだろ?」


 四辻は「はぁ」とため息をついて周囲を見渡し、「滅茶苦茶目立ってる」と吐き捨てた。


 県で最大のターミナル駅に俺は呼び出されていた。相手は四辻。そして──。


「遅れてすみません!」


 ベージュのワンピースに身を包み小走りで現れたのはリカだ。大蜘蛛に囚われていたあの日はパジャマ姿だったので、随分と印象が違う。


「絶対遅れると思ってた! リカ時間通りに来たことないもんねー」


 四辻が揶揄うと、リカは苦笑いしてまた謝る。


「じゃあ、早速行くか。武具屋へ」


 そう。ここに集まった理由は装備を充実させるためなのだ。


 モンスターの襲来が定期イベント化した今、自分の命は自分で守るのが基本だ。もちろん警察や自衛隊も戦ってくれるが、モンスターは全国に一斉に沸く。とても手が回らない。


 だから死なない為の準備が必要なのだ。



 駅のロータリーを見下ろすように建てられたビルの一フロアに武具屋『フロンティア』はあった。最近オープンしたばかりだが、既製品やモンスターからのドロップ品が所狭しと並べられている。


「成金マンはさぁー、攻撃力とスピードはあるけど防御力が紙だよね?」


 防具コーナーを物色しながら四辻はたのしそうに言った。


「最近はレベルが上がったから紙ってことはないぞ。ただ、防御系のスキルはないから、殴られれば普通に痛い」


「成金マンさんに何かあると大変です! ちゃんとした防具を買ってください! 例えばこの黒い鎧、よくないですか?」


 リカが指差したのは凶々しいオーラを放つ黒い西洋風の鎧だった。「鑑定済み。防御力50万」とある。普通の服は防御力10とからしいので、雲泥の差だ。


「300万円だって……」


「よし。買う」


「「えっ!!」」


「300万で命が助かるかもしれない。安いもんだろ? 四辻とリカも防具を選べ」


「それって……買ってくれるってこと?」


 四辻とリカが申し訳なさそうにしている。


「当たり前だ。金をケチッて死なれたら寝覚めが悪い。ただし、ちゃんと実用性で選んでくれよな?」


 元気に返事をして、二人は女性モノのコーナーへと小走りで向かっていった。女子高生らしいテンションに、なんだかほっこりしてしまう。


 さて、一人になったところで厄介事を片付けよう。


「おい。そこの帽子の男。俺のことを盗撮しているな?」


 俺から微妙に距離を取りながら、バッグをこちらに向けている男。駅からずっと付いて来ていたので間違いないだろう。


「……えっ、してません……」


 声は若い。見た目の雰囲気と合わせると20台前半だろうか?


「最近よくTwittorに晒されるからな。さぁ、カメラを出せ」


 一歩踏み出すと、帽子の男はくるり向きを変えて逃げようとする。愚かなことを──。


【成金ダッシュ!】


 先回りして通路に立ちはだかる。何事かと人々の視線が集まった。


「ひっ!」


「さぁ、カメラを出せ! 気持ちの悪い奴だな!!」


「うごっ!!」


 俺の言葉を聞くと男は蹲り辛そうにする。


「どうした……?」


「ちょっと、言葉でダメージを受けてしまって……」


「めちゃくちゃセンシティブだな。ところで、カメラは?」


「ほ、本当に盗撮なんてしてないです……」


「じゃあ、なんで俺達をつけていた?」


「じ、実は……」


 男は立ち上がり、帽子を取った。


「ぼ、僕に成金マンさんの弟子にしてください……!!」


 この男、何を言い出すんだ?

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