第8話 そのメイド『封印』
「ルシウスとラグが……冥界人……?ロザンナさんと同じ……?」
そして、死神結社の宮殿でルシウスがシェフを、ラグは庭師を勤めている……にわかに信じがたい。まったく予期していなかった事実に、ミカコはただただ驚くのだった。
「俺とラグが、ヴィアトリカお嬢様に仕える
おまけに、ロザンナは俺達よりも仕事が出来るうえに頭がいい……この半年間、地獄のようにこき使われて、いい加減うんざりしてたところにおまえさんが臨時のハウスメイドとして屋敷に来てくれたもんだからほんと助かったぜ」
「私でお役に立てられたのなら、恐悦至極に存じます」
何故か、妙にかしこまった言い方になってしまったが、曖昧に微笑みながらそのように返事をしたミカコは、
「私は
徐に立ち上がり、凜然たる雰囲気を漂わせてルシウス、ラグに協力を促した。
「もちろんだ」
「僕らで役に立てるのなら、喜んで力を貸すよ」
自信に満ちた、凜々しい笑みを浮かべたルシウス、ラグが交互に返答。この二人は初めから、ミカコの手助けをするために駆け付けたのだ。それはミカコにも伝わっている。だからこそ、力を貸してくれると信じたのだ。
ビンセント家の、広大な屋敷の玄関ホールにて。
ヴィアトリカお嬢様を手にかけようとする者と、それを阻止する者。双方の力がぶつかり合い、火花を散らす。譲れぬものを賭けた、真剣勝負である。
「……?」
ジャンと刃を交差させ、後方へ飛び退いた時だった。ふと背後で人の気配を感じ、ロザンナが不可解に思ったのは。
「……そのままで、聞いてください」
ロザンナと背中合わせになりながら、凜然たる雰囲気を漂わすミカコが、ロザンナにしか聞こえないくらいの小声で話し始める。ロザンナはポーカーフェイスで、前方で佇むジャンと対峙した。
「時間がないので、手短に要件をお話しします。私は今、ルシウスに術をかけてもらって、一時的に姿が見えなくなっています。ラグには引き続き結界を張ってもらって、私がまだ、階段の踊り場で動けないでいるように見せかけています」
ロザンナはちらりと階段の踊り場に視線を向ける。依然として、階段の踊り場で横向けに倒れる
「隙を突いて、ジャンを一気に叩く。これから私の言う指示に従ってください。一度しか言わないので、よく聞いてくださいね」
なるほど……それは、名案です。
ミカコからの指示に、ロザンナは面白いと言う風に、不敵な笑みを浮かべたのだった。
不意に、銀色の銃弾が音もなく撃ち放たれた。階段の踊り場で結界を張るラグの肩越しから、ルシウスがライフルを撃ったのだ。
「……っ!」
後方から飛んできた銀色の弾丸がジャンの右腕に命中。激痛に顔を歪め、ロザンナめがけ突進しようとしたジャンの動きを止める。その隙を見逃さなかったロザンナが突進。サーベルを前に突き出し、ジャンにトドメを刺す。
「
ミカコが悪魔を封印する呪文を叫んだ。
「そんな……
不意を突かれ、胸に刃を受けたジャンが、力が抜けたようにガクッと膝をつく。右手にサーベルを携え、ビシッと佇むロザンナ。真ん中に赤い宝石がはまる黄金の剣を手に、ロザンナの傍で凜然と佇む神仕いの姿がはっきりと見て取れる。
「……お見事。私の負けです」
そう呟いたのを最期に、観念したように微笑んだジャンが、変身が解けて元の
「封印完了……ですね」
フッと冷ややかな笑みを浮かべて見届けたロザンナが呟いた。
「そうですね」
ロザンナの動きに合わせ、ジャンと言う名の人間に化けていた
ルシウスがミカコにかけた術の効果は三分。時間が過ぎると術が解け、姿が見えてしまう。ロザンナがサーベルでトドメを刺す直前、ミカコは封印の剣で以て魔獣を封印。ルシウスの術が解けたのは、その直後だった。まさに、間一髪である。
「ヴィアトリカお嬢様が心配です。すぐに向かいましょう!」
背中にコウモリのような大きな翼を、頭に二本の角を生やした肉食獣のような悪魔を封印し、安堵するのも束の間。すぐに気持ちを切り替えるとミカコは、二階の、ヴィアトリカの部屋へと急ぐ。ロザンナ、ルシウス、ラグもその後に続く。
「お嬢様!」
一番乗りで駆け付けたミカコの叫び声に反応したヴィアトリカが、ギロッとミカコを睨めつける。まるで野獣のような鋭い眼光を放ち、禍々しい悪魔の雰囲気が漂っている。今にも襲いかかってきそうだ。
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