◇間章:敗北if(アイアンゴーレム第一形態)

 アイアンゴーレムとの戦い。ゴーレムが両手を振り上げるモーションを取ったのを確認し、シヅキは敵の後ろに回り込んで攻撃を継続する。ゴーレムはあらぬ方向に腕を叩きつけ、そこを基点として周囲に可視化された衝撃波がゆっくりと広がっていく。

 しかし、敵の巨体に阻まれ、シヅキからは広がる衝撃波が見えていない。攻撃に集中しているシヅキの足先に衝撃波のエフェクトが触れる。瞬間、ばちりと衝撃が走り、シヅキは勢いよく弾き飛ばされた。


「なっ……がっ!?」


 壁面に叩きつけられ、シヅキの意識はあっけなく途絶した。



    ◇◇◇


「──ぅ、あ?」


 背中の痛みと腕にかかる負荷を感じ、シヅキは目を覚ました。目の前にはゴーレムの無感情な顔面があり、地を踏みしめる感覚はなく、足はぶらりと垂れ下がっている。

 どうやら、ゴーレムに腕を掴まれて吊り下げられているようだ。大きな石の腕でそれぞれの腕を握られている。シヅキは激しく抵抗するが、どれだけ暴れても、拘束からはまったく脱せそうにない。

 なにか手段がないかと辺りを見渡せば、シヅキの短剣は部屋の片隅、壁の方に転がっている。気絶したときに取り落としたようだ。


「ちっ……くそっ、離して! 離せ!!」


 シヅキはげしげしとゴーレムを蹴りつけるが、石の身体をもつゴーレムにはまるで効いていない。だが、まったく無意味という訳ではなかったのか、蹴り付けられたゴーレムはゆっくりと稼働しだした。


「なに……? い゙っぎ……!? がっ、あ゙あ゙ぁ゙あ゙ぁ!!」


 急に動き出したゴーレムを警戒するシヅキ。すると、突如両腕に感じる甚大な圧迫感。ぎちぎちと肉が張りつめ、骨が軋みをあげる。

 凄まじい激痛に、シヅキは絶叫をあげる。


「や゙っ……ぃ゙……ぎゃあっ!?」


 シヅキの細腕が圧力に耐えきれず、ぐちりと音を立て、あっけなく圧壊する。握りこまれたゴーレムの手の内からぼとぼとと夥しい量の血が零れ、石畳に吸い込まれていく。


「ぐぅ……あ゙っ、ああ゙ぁ…………! ぃ、だ…………」


 両腕を破壊したことで危険性はなくなったと判断されたのか、ゴーレムはシヅキの腕を手放す。いきなりの解放にシヅキは尻餅をつき、その場から動けずにいる。


「ゔっ……うぅ……。いたい……いたいよ…………」


 シヅキは逃げることもせず、座り込んでぽろぽろと涙を零している。ゴーレムは、そんなシヅキの足を摘まみ、ぐんと持ち上げた。シヅキの視界が逆さまになり、ぐしゃぐしゃになった両腕が力なく垂れ下がる。


「うぁっ!? やっ、もうやめて……っ! 酷いこと、しないで……!!」


 涙を流すシヅキの嘆願も届かず、ゴーレムは無機質に次の工程に移行する。空いている手でシヅキのもう片方の足を捕らえ、それらを左右別々の方向に強く引き始めた。


「い゙っ!? ぐ、あ゙あ゙ぁぁあ゙!! あ゙っ! い゙がぁあ゙!!」


 股を裂く、常軌を逸した激痛。ぶちぶちと筋繊維が千切れる悍ましい感覚。

 シヅキは喉を振り絞り絶叫をあげるが、武器は無く、両腕は潰れ、拘束から逃れるすべはなにもない。


「あ゙ぁ゙っ! がっあ゙!!」


 わずかな抵抗の後、シヅキの右足が根本から千切れ、びちゃびちゃと血が辺りに飛び散った。身体を伝い、血がシヅキの右半身を真っ赤に染める。


「はっ……! はひっ……! あぁぁ……うぁあ…………」


 残った四肢、左足だけで逆さまに吊り下げられているシヅキは、完全に心を折られた様子で嗚咽を漏らす。

 最早シヅキに反抗心は微塵も残っていないが、それでもゴーレムは無慈悲に更なる追撃を行う。逆さ吊りになっているシヅキの胴を空いている方の手で掴み、ぐるりと手首を返し、顔を突き合わせた。


「うぅ……た、たすけて……。助けてくださいっ……もう逆らわないから────」


 ゴーレムに向かって懇願するシヅキ。その声を聞き終えもせず、ゴーレムはシヅキの胴体を握り潰した。


「がぼっ!? ごぶ、ぉ゙……ぇぐ…………」


 腹部を押しつぶされ、シヅキは意思とは無関係に血と吐瀉物を撒き散らし、それを追うようにして口部からはピンク色の内臓が顔を出す。ばきばきと肋骨が破砕され、本来守る対象である内臓に突き刺さる。

 圧力に耐えきれず体外に押し出されたはらわたが、ゴーレムの握りこんだ手の内から垂れ下がった。


「ぅ゙、お゙ぇ………………」


 シヅキの全身を破壊しようやく満足したのか、ゴーレムはシヅキを解放した。手放され、ぐちゃりと音を立てて地面に落ちるシヅキ。だが、そのHPは未だ尽きてはいない。

 肺がずたずたになり、気管は完全に閉塞している。呼吸すらままならず、激痛で混濁する意識の中。失血によりHPが尽きるまで、シヅキは全身を苛む地獄の痛苦に曝され、静かに顫動し続けていた。

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