「眼」の話(上)

1



「――そんじゃ、俺らの出会いを祝して、かんぱーい!!」



 シンプルな防音壁に囲まれた、中々に広い部屋。

 高々と掲げられたグラスから、氷が大きく揺れる音がした。


 それを持つのは、長テーブルを挟んだ対面に座る、長いアゴが目立つ三枚目じみた雰囲気の青年だ。

 相当に高揚しているのか、先程からずっとハイテンションで騒ぎ立てており、今しがた入室したこの店の従業員の苦笑いにも気付かない。

 部屋に籠ったタバコの匂いも合わせ、やたらと私の癇に障った。



「いやー、それにしてもこんな可愛い子達と遊べるなんて、すげぇっすね先輩らのコネ! ステキ!」


「コネ言うなや。ゲスい空気になんだろーがよ」



 アゴ男が振り返った先のソファにはもう二人ほど男が座り、そのうちのメタルピアスを付けた男が笑って返した。

 それなりに整った顔をしたイケメンだ。もう片方のツーブロック頭の男も精悍な容姿をしていて、いいとこフツメン未満のアゴ男との対比が際立っている。

 ……まぁ、ワザとなんだろうな。色々。



「ま、俺もこの並びは予想外っつーか超ラッキーだったけどな。この子らお前繋がりなんだろ?」


「そんな感じ。そっちの白い子……タマってったっけ? とはあたし今日初めて会ったんだけどね」


「はは、お前自分より若いヤツ隣に置きたがらねーしな。高校生だっけ?」



 そう言ってツーブロ男が水を向けたのは、彼らと顔見知りらしいドギツい金髪の女の人だ。

 近くに未成年が居るにもかかわらずタバコをスパスパやっているその女性は、鼻白むような視線をチラリと私に向けてきた。


 ……正直あまりいい印象を受けない人だったけど、揉め事を起こすにはまだ早い。

 外面用の笑顔をニッコリ返してやれば、女性は軽く眉を顰めてそっぽを向いた。なんだこのタバコ女。


 そうして僅かに空気がピリつきかけた時、空気を読まないアゴ男が部屋に備え付けられていたマイクを取り、暢気な鼻歌をスピーカーから響かせた。音痴。



「んじゃあ最初誰歌います? 俺的に最初は女の子の聴きたいなーって思うんすけど~」


「あたし最近飲み過ぎで喉焼けてっからパス。こういうのはやっぱ新顔からっしょ、ほら」



 そう言ってタバコ女はアゴ男の手からマイクをひったくると、私とその隣に座る『もう一人』へと差し出した。



 ――さて、マイクという事からも察せられると思うが、私は今とあるカラオケボックスの一室に居る。

 しかも見るからに素行の悪そうな奴らと一緒に、合コンのような場の中にだ。


 無論、私の意思ではない。

 私なんかがこういった場に参加したって、イヤなトラブルを引き起こすだけだろうとは察しているし、何より興味自体があんまり無い。大体中学生には早いだろこんなの。


 では何故私が高校生だと詐称してまで、こんな所に来る事となったのか――それは、私の隣にいる『もう一人』が原因である。



「――おけおけ、そんじゃワタシから歌わせて頂きま~す! 合いの手よろしく~」



 美しい黒髪をした彼女は、アゴ男にも負けないテンションでマイクを受け取ると、手元のパッドで曲を打ち込んだ。

 一切の含みが感じられない、この場を純粋に楽しんでいるかのようなワクワク笑顔。

 ともすれば周りのチャランポランどもと同種にも見える、私とは別の意味で頭の軽そうなゆるふわ女だった。


 ……けれど、私は知っている。

 今この場における彼女の立ち振る舞いは全てが演技。

 浮かべる笑顔も放つ言葉も、纏う雰囲気でさえもが擬態にすぎない。


 そう――この場に居る全員の油断を誘うための、だ。



「……おん? タマちゃんどしたーん?」


「いや……」



 これから歌う曲の歌詞を口ずさみ、楽しげにパッドを操作する彼女と目が合った。


 笑顔と共にちょこんと小首を傾げるその様子は、やはり何の裏も感じさせない朗らかなものだ。

 しかしその瞳だけは黒く濁り切っていて、私はそっと目を逸らした。







 事の発端は二日前。

 学校での授業を終え、髭擦くんと一緒に下校している最中の事だった。


 いや別に一緒に帰る約束とかをしていた訳では無く、普通に道でバッティングしただけである。

 オカルトが視える者同士、行動パターンも似通うという事だろうか。なんとなく嫌な予感のする道を避けていると、いつの間にか合流している事が多々あるのだ。


 最初こそ顔を合わせる度に互いにギョッとしていたものの、最近はもう慣れたもの。

 その日も住宅街の裏道でバッタリ出会ってスルっと並び、とりとめのない雑談を交わしつつ歩いていた。



「……その、お前はいつ頃から視えるようになったんだ?」


「んあ?」



 するといきなり、髭擦くんがそんな事を聞いて来た。

 思わず気の抜けた声が漏れ、それを何と勘違いしたのか慌てた様子で手を振った。



「ああいや、変な意味とかじゃ無くてな……何かお前、昔からずっと視えてたって感じじゃないだろ? もしそうなら、たぶんもっと早くこうやって顔つき合わせてただろうし……」


「あー、まぁねぇ」



 確かに私が昔からオカルトを視認できていたのなら、一年生の頃には既に今の状況になっていたかもしれない。

 髭擦くんにしてみれば、若干気になる問題だろう。


 ……私の血統が目覚め、オカルトに関わるようになったあの一件。

 思えば髭擦くんには、そこらへんの話は一切していなかった気がする。


 まぁオカルト仲間としては言ってもいいのかなと思う反面、進んで語りたい話でも無い訳で。

 私はどこまで触れたもんかと悩みつつ、うーとかあーとか暫く唸り。



「……もう二ヶ月くらい前になるのかな。私さ、だいぶクソみたいなオカルトに巻き込まれたんだよね」


「またそんな汚い言葉を……それは前の顔のヤツよりもか……?」


「たぶんそうなんじゃん? いやオカルトの格付けとか知らんけどさ」



 インク瓶や『親』に聞けば教えてくれるかもしれんが、わざわざ確かめる気は無い。

 ただ、私の主観では確実にそうだった。

 あのイヤな空気も、騒動としての厄介さも、そして――受けた傷も、だいぶクソ。



「――……」



 私の視線が自然と下がり、地面の下へと……この街のずっとずっと深い場所へと意識が向いた。



「……どうした?」


「別に。ともかくそん時に視えるようになって、だから経験的にはめっちゃ素人。そっちは小さい頃からだっけ?」


「ああ、物心ついた時はもう当たり前だった。でも、そうか……そういうパターンで視えるようになるって人も居るんだな……」



 目から鱗が落ちたかのように感心している髭擦くんだが、どことなく楽しそうにも見えた。

 きっと、こういったオカルト関係の話題を誰かと共有できるのが嬉しいのだろう。


 実を言うと、私もそう感じている部分がある。


 インク瓶や『親』のような、明らかに住む世界の違うヤツらじゃない。同じ境遇で、同じ恐怖を理解してくれる等身大の友人が居る。

 そういうのって割と大きいものなんだなと、今になって実感していた。卵の時みたいのはヤだけど。



「……これ、もうちょっと早く分かってあげてれば、なんか違ったのかなぁ……」


「それは……どうだろうか。俺としては、ずっと見えなかった方がお前にとっては良かったんじゃないかと思うが」


「や、そういうんじゃなくて……まいっか」


「……?」



 途中でめんどくさくなった。

 どうせ、そこまで深く話す気も無いのだ。首を傾げかけた髭擦くんに手を振って誤魔化し、適当に流しておく。



「てか、髭擦くん今まで私以外の霊感持ちに会った事なかったの? 視えてる歴長ければ長いほど、同族とはそこそこエンカウントしそうな気ぃするけど」


「自称ならよく居るんだが、本当に視える奴は居なかったと思う。そういう奴って大抵、あそこに何か居るって何も無い場所を指差しながら、本当に変なのが居る場所に近づいて行くんだよな……」



 その時の光景を思い出しているのか、髭擦くんの目が遠くなる。

 ……いや白目だから分からんけど、雰囲気で。



「だがお前みたいなパターンがあるなら、そういう奴らも後々視えるようになったのが居るかもしれないな。お前の他には同じようにして視えるようになった人は居ないのか?」


「いや知らんて流石に」



 自分から霊感があると嘯きながら、実際本当にそうだったヤツならば知っている。

 だけど、私と同じ経緯で視えるようになった人に心当たりは無かった。


 というか、オカルトに巻き込まれた経験があるかなんて、普通人には言わないだろう。

 遭遇を共にでもしなければ、そうそう知る機会なんて――。



「……あー、いや、もしかしたら居るのかも……?」


「曖昧だな……」



 そうだ。一緒にオカルトに巻き込まれたという意味では、幾人かの心当たりが無くもないのだ。


 件の『だいぶクソみたいなオカルト』――あの一連の騒動に巻き込まれ、そして被害を受けたのは、その中心に居た私だけでは無かったのだから。



「私と一緒にオカルトに巻き込まれた人も割と居たんだよね。分かんないけど、もしかしたらその人達の中に……的な」


「……なんか他人行儀だな。一緒に危険を乗り越えたなら、その人らと友達になったりするんじゃないのか」


「いやぁ、髭擦くんと私みたいな感じじゃなくて、単に一緒に事故ったみたいなもんだったから。みんな必死で、他人の事気にかけてる余裕なんて無かったんだ」



 ロクに会話も無く、互いの名前も知らず、訳が分からないまま共に惑い、そして別れてそれっきり。あの人達のその後など、私は何一つとして知らなかった。



「私はその時に目覚めたって訳じゃ無かったけど、他の人のきっかけにならなかったのか、とかは分かんないしな。確かめらんないけど可能性だけは無いとも言えんねって話」


「そうか……少し残念だな。視える人が他に居るのなら会ってみたかった」


「私の『親』ならいっぱい居るからどーぞ」


「いや……いや。あの人は何か違うし、ダメなやつだろ……?」



 どうやら髭擦くんの中でも『親』はアウト判定のようだ。何がどうアウトなのかは知らんけど。

 そこらへんの感覚も私と同じである事に、小さな笑みが零れた。



「ま、後でインク瓶にでも聞いといたげるよ。私らと同じようなヤツが居ないかどうかってさ」


「……お前がお世話になってるって人だっけ? 俺その人も知らないんだが、どんな人なんだ?」


「ただの性悪メガネだよ。さっき言ったオカルトの時とかも色々助けて貰ったけど、ほんとヤなヤツでさ――……、?」



 と、そこまで行った時、どこからか視線を感じた。


 いつもの私の容姿に目を惹かれたものかと思ったが、それにしては湿度が高くて、なんだかか嫌な感じだ。

 いきなり言葉を切った私に首を傾げる髭擦くんをよそに、視線の出所を静かに探した。



「……!」



 居た。

 少し離れた道角に一人の女性が佇んでいる。


 大学生くらいだろうか。長い黒髪をした、綺麗な人だ。

 ショルダーバッグを肩にかけたその人は、壁に寄りかかったまま私に濁った瞳を向けていて――……。



「……、……あーっと、ごめん髭擦くん。ちょっと用できたから、先帰っちゃってくれる?」


「え? あ、ああ、だが、なんというか……大丈夫なのか?」



 続いて黒髪の女性を見つけた髭擦くんが心配そうな声を上げた。

 彼もあの濁った目つきに気付いたらしい。じりじりと、私の前に出てくれる。


 ……正直少し迷ったけれど、その腕をぽんぽん叩いてどかしておく。



「いいって。一応、知ってる人ではあるから……」


「……そうか? 誰なんだ、あれ」



 髭擦くんはおずおずと下がりつつ、私のはっきりしない物言いに眉を顰める。


 ……誰、誰か。どう答えたもんだろうか。

 私は少しの間考えて、しかし適当な呼び方も浮かばなかったので、ありのままをそのまま言った。

 即ち、



「――さっき話した人だよ。前に一緒にオカルトに巻き込まれた、名前も知らない知ってる人」







 かつて私は、走行中のバスの中でオカルトに遭遇した事がある。

 乗り合わせていたインク瓶のおかげで結果的に何とかなったとはいえ、あまり詳しく思い出したくない記憶だ。


 そして当然そこには私の他にも数人ほど乗客が居て、一緒に混乱の坩堝に陥った。

 その大半とは顔も思い出せない程に関わりが無かったけど、ちょっとは印象に残っている人も居る。


 この黒髪の女性は、その中の一人。

 バスで私の隣席に座ってしまったために、私と同じくらい近くでオカルトに巻き込まれてしまった、私と同じくらい不幸な人である。






「――久しぶり……って言っても良いのかな、ワタシら」



 最後まで心配そうだった髭擦くんと別れ、連れられた近所の公園。

 園内を流れる川沿いのベンチに腰掛け、黒髪の女性はぽつりとそう呟いた。


 ……まぁ同じオカルトに巻き込まれた被害者仲間意識じみたものはあるが、それだけだ。

 お互いの名前すら知らない、幽かで薄い間柄。なんと言えばいいか分からず唇をむにゅむにゅしていると、女性は濁った眼のまま小さく笑う。



「まぁ、どうでもいっかぁ。全然赤の他人だもんね、お互い」


「……えっと、もう聞きますけど何の用ですか? 言う通り別に縁も無いのに、わざわざ会いに来たっぽいですけど……」



 どうにもまどろっこしく、スパッと切り込む。


 そう、私は彼女と別れる際、再会の約束はもとより言葉のひとつすら交わしていない。

 なのにこうして私の前に現れたという事は、自力で私の住所や生活範囲などの個人情報を調べてきたという事だ。


 いくら私の外見が特徴的とは言っても、それには結構な労力が必要だっただろう。何某かの目的がある事は明らかだった。



「うん……そうね。別にいっかぁ、自己紹介とかなくても」



 私の問いに女性は投げやり気味に返すと、すっと口元の笑みを消し、



「――キミさぁ、ワタシと一緒にカラオケ行ってくれない?」


「……はぁ?」



 呆けた声が漏れた。

 いきなり何を言い出すんだこの女――疑問混じりの文句が口をつくより先に、女性は言葉を重ねた。



「はは、この前のバスの時さぁ、ワタシ友達と一緒に大学の先輩らと遊ぶ予定だったんだよね。結局は行けなくなっちゃったんだけどさ。分かるでしょ?」


「……そら、まぁ」



 結局あのバスは目的地にまで辿り着かなかったし、この女性も途中で意識を失っていた。

 彼女が起きた後、当初の予定通りの一日を過ごせたとは到底思えなかった。



「それで友達一人で行く事になっちゃったらしくて。先輩らの話じゃ中々盛り上がったんだってさ。行けなかったのなじられちゃった」


「あの、それ何か関係ある話で――」


「――そのちょっと後、友達自殺しちゃったんだぁ」



 …………おっと。



「電車に飛び込み。可愛い女の子だったんだけど、ぐちゃぐちゃになっちゃった。警察の人達はただの事故かもって言ってたけど、そんな訳無いってワタシは知ってた」


「…………」


「だって、あの子のスマホに残ってたんだよね。メールの下書き、ワタシ宛に送ろうとして、やめてたっぽいやつ」



 私が黙っていても、女性はブツブツと勝手に話し続ける。

 きっと、最初から反応なんて求めていないのだ。その濁った瞳から、そう感じた。


 髭擦くんと別れたのは間違いだったかな……でもカンペキ無関係なのに巻き込むのもなぁ。

 後悔しつつ半歩ほど身を引けば、それを抑え留めるように、女性の口から言葉の洪水が溢れ出す。



「入学したばっかで、先輩らの事なんて何にも知らなかったから。遊んで、カラオケ行って、そこでよってたかって乱暴されちゃったんだって。お薬だかお酒だか分かんないけど、何か盛られて動画とか撮られて、ありがちっちゃありがちな話だけど悲惨だよねぇ」


「あ、あの、ちょっと」


「あの子昔からちょっと夢見がちだったからさぁ、それでやんなっちゃったんだろうね。せっかく花の大学生になってウキウキしてたのに一歩目で躓いちゃって、しかも理由がこんなのって最悪だしもう色々気持ち悪くなって衝動的になっちゃったんかなあの子ワタシに何も言わなくていや連絡無くなっちゃってたから心配してたんだけど何も、」


「――あのっ! だから何なんですか、ほんとに!!」



 聞いていられなくて、大声で遮った。


 意味が分からなかった。

 そんな胸糞悪い事情をわざわざ私を探し出してまで聞かせて来る理由も、そこからカラオケに誘ってくる理由も。

 この人の行動が何一つ理解できず、強い怖気が肌に走った。


 すると女性は一旦言葉を止めると、のろのろと首を傾げる。

 私を見ているのだろうか。黒髪がすだれとなって、濁った瞳を覆い隠していた。



「……あのバスでの事が終わってからさ、ワタシたまに変な物が視えるようになったの」


「っ!」


「幽霊ってやつなのかなぁ。最初ビックリしたけど、でもラッキーって思った。だってあの子に会えるかもじゃん?」



 目を瞠る私に女性は笑い、ぶらぶらと上機嫌に足を振る。

 ベンチの背後を流れる川に砂利が落ち、映る彼女がゆらりと揺れた。



「あの子の家、一緒に旅行いったとこ、死んだ駅……色々回ったよね。で、やっと見つけたの。どこだと思う?」


「…………」


「正解! あの子が乱暴されたカラオケボックス~」



 何も言ってない、と反論する気になれなかった。

 朧げに察したのだ。彼女が何のために私と接触しようとしたのか、その目的を。



「――キミ、確かオバケとか元気に出来るんだよね? 霊能力ってゆーの? バスの時にメガネの人といろんな事喋ってるの、聞いてたよ」


「ち、ちがっ」


「ならさ、ちょーっとあの子の事も元気にしてくれないかな。成仏もしないで、まだあんな場所に居るんなら……なにかきっと、やりたい事があるんだろうからさ、ね?」



 女性はゆっくりと立ち上がると、ごく自然な様子で私に近づき、背中側から肩を抱く。

 ふわりと大人っぽい香水の香りが漂うけれど、私にはどこか腐臭のようにも感じられ、身が凍る。



「――あの時、私があの子の傍に居られていれば、何か変わってたのかな……?」


「――……」



 ……その囁きは、私の心に罪悪感となって突き立った。


 私のせいじゃないというのは簡単だ。

 だって、オカルトを呼び寄せるこの性質は私が望んだ訳じゃない。私だって被害者だ――そう叫んだって、インク瓶あたりはきっと許してくれるだろう。


 ……だけど、それが通らない事もまた、分かっていた。

 女性が私の巻き添えでオカルトに逢ったのは、間違いない事でもあるのだから。



「先輩らも呼ぶんだぁ。一緒にカラオケ、楽しみだね」


「…………」



 反応なんてしない。けれど女性は満足そうに笑みを深め、私と指を絡ませる。

 ほとんど力の入れられていないそれを、私は振り解く事が出来なかったのだ。



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