第39話:ワンパンの極意!手ごねハンバーグ
2023年11月12日
「おはようございます! チラシ入ってましたよ」
冷たい秋雨の中、今朝も後輩は来てくれた。
「おはよう。……ファミレスか。ハンバーグフェアだって」
そういえば、長いことファミレスに行っていない気がする。手軽なのはいいのだが、わざわざ出かける手間とか、地味に出費が痛いので、もっぱら自炊専門になってしまった。せいぜい、安い学食で食べたり、たまに飲み会に行く程度である。
「先輩、ハンバーグ好きでしたっけ?」
「もちろん。昔はよく親と一緒に作ったっけなあ」
「私も! 妹と一緒に生地をぺったんしてました」
店で食べるハンバーグも、調理済みレトルトのハンバーグもいいものだが、家庭料理としての手作りハンバーグはまた別の良さがある。味はもちろん、家族で生地をこねるというイベント感が楽しかったのだ。
「ねえ先輩、ひき肉ありましたっけ?」
「ああ、ちょうど昨日買ったやつが、まだ冷凍してないな」
「作りませんか? ハンバーグ!」
「いいな、やってみるか!」
食べたいと思うことはあっても、一人ではなかなか作ろうと思わない料理である。いい機会なので久しぶりにやってみよう。今日はハンバーグ入りのパスタだ。
*
「ひき肉は1パック250グラム、全部使っちゃうか」
「結構ありますね」
「クォーターパウンダーっていうだろ、あれで110グラムくらいだからな」
1ポンドが約450グラムで、そのクォーター(1/4)というわけである。がっつり食べるなら一人前でこのくらいはほしい。
「玉ねぎはちょっと小ぶりのを1つ使おう。だいたい200グラム弱ってとこか」
「他になにか使います?」
「パン粉はあったかな。それと牛乳だな」
「卵はいいんですか?」
「ちょっと分量調整がしづらいから、今回は無しでいこう」
材料を出してくれる後輩を横目に、俺は玉ねぎをみじん切りにする。いつもより細かめだ。
*
「ラップをせずに600ワットで3分、これをフライパンに敷き詰める」
「炒めるんですね」
「炒めてもいいんだけど、今日はやらない。あくまでも粗熱を取るだけだ」
冷たい鍋肌に触れさせることで、電子レンジにかけた玉ねぎの粗熱を取っていく。これは寒い季節のほうがやりやすい。
「適当に冷めてきたら、ここにひき肉と、パン粉と牛乳……だいたい大さじ4杯ずつだな。これを入れて混ぜていく」
「あ、ボウルじゃなくてフライパンで混ぜるんですね」
「洗い物を減らせるからな」
大きめのフライパンは、炒めものにも煮物にも使えるし、いざという時はボウル代わりにもなる。ちょっと重いのが欠点だが、男の料理にはこれほど便利なものはない。さっそく、洗った手でこねていく。
「あ、塩コショウ忘れてた」
「はーい、入れます。塩は小さじ半弱ってとこですかね」
「そうだな、2グラムってとこだ。あとは胡椒を適当に挽いて、ついでにチューブにんにくも入れるか」
こういうときに、手がもう2つあると便利である。俺もこうやって母親の手伝いをしたっけ。
「適当に形を作って……っと。なんとかフライパンに並べられたな」
大きめのフライパンで助かった。ここで焼ききれずに生の生地を取り分けたら、何のために洗い物を減らしたのかわからなくなる。
「油はいいんですか?」
「これはテフロン加工だし、合い挽きの豚からも脂は出るからな」
フライパンを後輩に預けて、俺は手を洗う。
「今日もワンパンでいくからな」
「そう思ってました。具が多いから、ちょっとパスタは少なめですかね?」
「ああ、ちょうど200グラムもあれば十分だろう」
スパゲッティを取り出す間、肉の焼ける香ばしい匂いがする。これこそがハンバーグの醍醐味だ。
*
「両面、いい感じに焼けたかな」
「ですね。まだ中までは通ってないと思うんですけど、このあと煮込むんですよね」
「そういうわけだ。それじゃ、まずは味付けするか」
ケチャップを大さじ4杯、中濃ソースを大さじ2杯入れる。これぞ家庭のハンバーグといった味付けた。
「デミグラスもいいですけど、このシンプルなやつも美味しいですよね」
「そうだな。これを焼きながら両面に絡めていくんだ」
「なんかそのまま食べちゃいたいですね。崩れたとこだけ味見しちゃおっと……うん、これこれ!」
「俺も!……うん、外じゃあんまり食えないよなこの味」
「さて、タレが煮詰まって絡んできたらお湯を入れる。だいたいパスタの倍量+100、500mlってとこだな」
「基本ですね」
「それとワインも100mlほど入れて、ちょっと大人の味にしてみるか」
「いいですね」
国産の安物の甘めのやつを使う。ちょうど、昨夜少し飲んだやつの残りだ。
「後はパスタを入れて煮込んでいくけど、ハンバーグが邪魔だったらいったん取り分けておいてもいいな」
ワンパン調理は乾麺が結着しやすいので、特に最初はよくかき混ぜなければならない。
「ですね。この深皿、食べるときに使うんですよね」
「もちろん。洗い物は減らしたいからな」
既に表面に火が通っているので、食事用の皿に取り分けても問題ないというわけだ。
「パスタ、十分ほぐれましたね。ハンバーグ戻します?」
「だな。今から煮込めばちょうどいいくらいだろう」
パスタを泳がせながらハンバーグを煮込んでいく。肉とトマトの芳醇な香りが漂う。水っぽかったソースも次第に煮詰まっていく。
*
「そろそろいいんじゃないですか?」
パスタを1本取って味見をしながら後輩が言う。見た感じでも、すっかり火が通っているようだ。
「一応、ハンバーグも確認してみますか……ちゃんと火は通ってますね」
大きめのハンバーグを一つ、フライ返しで半分に割って中を確認する。
「だな。盛り付けるか」
小さめとはいえハンバーグが8個。2つの深皿には盛りきれない。
「ごろごろハンバーグの煮込みスパゲッティ、完成!」
「見た目でもテンション上がりますね!」
「ミートソースもいいけど、やっぱりハンバーグとして固まっているとインパクトがあるよな」
「ではさっそく、いただきます!……やっぱりハンバーグっておいしいですね」
「ああ。でもソースがちょっとクドかったかもな」
「タバスコと粉チーズで味変すれば余裕ですよ!」
二人で、もりもりと食べる。ここまでがっつり肉を食べるのは久しぶりかも知れない。
*
「ごちそうさまでした! うーん満足!」
「お粗末様。美味かったのならなによりだ」
「お肉食べると幸せになりますよね。これって原始的な欲求なんですかね?」
「そうかもな。昔から一番のごちそうだっただろうからなぁ」
人間が体をつくる上で、もっとも重要なのはタンパク質、つまり肉である。
「ハンバーグみたいな料理って、縄文時代から食べられてたって言いますよね」
「確かに、肉を細かくして食べやすくする調理法だからな」
「消化にもよさそうですしね。……さてと。天気も悪いから、たまにはのんびりゲームでもしましょうかね」
勝手知ったるといった様子で、彼女は棚を漁る。
「ゲームもいいけど、片付けくらい手伝ってくれよ」
「わかってますって……モンハン発見! 今日はこれにしよっと」
その憎めない背中を横目に、俺は皿を片付けるのであった。
***
今回のレシピ詳細
https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330666637027575
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