第16話:目分量でワンパン?!グラタンコロッケ風

2023年6月4日


「おはようございます……先輩、いま起きたとこですか?」

「ああ、まあな」


 昨夜、久しぶりに会った友達と宅飲みをした。そのまま酔い潰れて寝てしまい、先ほど友人がようやく帰ったところだ。俺はまだ朝飯すら食べていない。着替えはしたが、頭はまだ寝癖でボサボサのはずだ。


「いつものクセで来ちゃいましたけど、まずかったですか?」

「ああ、別に俺は問題ない。ろくにもてなせないかも知れないけどな」


 昨夜、いろいろおつまみを作ったりしたのだが、きれいに平らげられてしまっていた。少しくらいは残しておきたかったのだが、うまそうに食べている友を見るとそうは言えなかった。


「残ってるのは……牛乳くらいか。ハムも卵も全部使っちゃったからな」

「なんか買ってきましょうか?」

「小麦粉とパン粉があったか。あとはコンソメ……よし、あれが作れる」


 最近あまり作っていなかったが、一人での休日にはよく作っていたレシピがある。


 *


「パスタは……俺は今はあんまりいらないから、150グラムくらいでいいか」

「そんなんでいいんですか?」

「ああ、割とこってり系だからな」


 俺は目分量で150グラムを取り分ける。


「鍋に水を沸かして、と。パスタの3倍量で450ml、いや少し減らして400にしとくか」

「ワンパン調理ですね。そんな雑でいいんですか?」

「ああ。後から帳尻を合わせられるからな」


 *


「沸いたな」


 大きいフライパンに入れた水が沸騰したのを確認して、コンソメキューブ1つと、150グラムのスパゲッティを半分に折って入れる。


「これで5分くらい茹でる。その間に一仕事するから、鍋のほうを見といてくれ」

「あ、はい」


 小さいフライパンにオリーブオイルを大さじ2杯ほど入れて火にかける。熱が通ってきたら、パン粉を大さじ3杯と、乾燥オレガノを入れてよくかき混ぜ、きつね色になったところで火を止める。


「あ、オレガノなんて入れるんですね。初めてじゃないですか?」

「まあ、パセリとかバジルでもいいし、入れなくてもいいんだけどな。今回はたまたま余ってた」


 そもそも、パン粉も普段は常備していない。友人のリクエストでチキンの香草パン粉焼きを作った余りだ。


「ここで、空焚きにならないように注意が必要だ。油を吸わせた後は軽く火を通すだけでも十分だからな」

「はい、気をつけます」


 このあたりはフライパンの材質や環境にもよるところだ。コンロのほうの安全装置で火が消えたりもするのだが。


 *


「こんな感じできつね色になったらよし、と。パスタのほうも柔らかくなってきたかな」

「茹で始めてから5分くらいですね」

「7分茹でのやつだから、そろそろだな」


 牛乳を計量する。パスタの重量比で2倍の、300mlをカップで計って入れる。


「冷たい牛乳入れちゃっていいんですか?」

「これはそんな丁寧なレシピじゃない。まあ電子レンジで軽く温めてもよかったかもな」


 *


 しばらくすると牛乳が沸騰して泡立ってくる。


「ここで、かき混ぜながら火傷しないように注意な」

「たしかに、普通の箸で適当に混ぜてると危ないかもですね」

「ああ、前に痛い目にあったことがある。さて、最後の仕上げだ」


 俺は菜箸を後輩に預け、小麦粉の袋を開ける。


「大さじ2杯ってとこだな。それに茹で汁を少し入れて……」


 深皿の中で小麦粉と茹で汁を混ぜて即席のルーを作り、フライパンに戻してよく混ぜる。


「先輩、それだとダマになっちゃいません?」

「いいんだよ、むしろダマを具に見立てるくらいだからな」


 だいぶ煮詰まってきて汁気も少なくなってきた。スパゲッティを一本つまんで茹で加減を確かめる。そろそろ良さそうだ。


「こんなところだな。皿に盛り付けて、仕上げにさっきのパン粉を散らす。グラタンコロッケ風パスタの完成!」


 *


「それじゃ、さっそくいただきます!……食感が面白いですね」

「ああ、パン粉のサクサクに小麦粉のとろとろだからな」

「考えてみれば、牛乳と小麦粉だけの料理なんですね」


 パスタにパン粉に小麦粉。確かに小麦づくした。


「具を入れてもいいとは思うけどな。カニカマを刻んで入れてカニクリームコロッケ風とか。何もなくてもそれなりに食えるのがポイントだけど」

「グラタン風なら、いっそオーブン焼きにしてもいいと思うんですけど。チーズ乗せたりして」

「いいな。実家には取っ手の取れるフライパンがあったから、炒めた後にそのままオーブンに入れたりしてたな」


 ここにはグラタン皿もオーブンもないので、できる料理には限りがあるのだ。


 *


「ところで先輩、お友達とはどんな料理を食べたんですか?」

「まず昨日の昼はお好み焼きを作った。この小麦粉はその時の余りだ」

「お好み焼き、関西風ですか? 広島風ですか?」

「その区分なら関西風ってところだが、そもそもお好み焼きの発祥は東京で……」


「あー、また始まった先輩のうんちく!」

「やめとくか?」

「いえ、続けてください!」


 彼女と話しているうちに二日酔いが覚めてきた。午後も頑張れそうだ。


***


今回のレシピ詳細

https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330658323689813

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