[改訂版]悪役令嬢に魅かれた男

山宗猫史

彼女に出会うまで

第1話 乙女ゲームの登場人物に魅かれた男

「お兄ちゃん、お願い!」


 休日俺が自室でゲームをやっていたところに、ノックもなしに突然少女、妹が部屋に入ってきた。

 妹は顔の前に両手を合わせ、合わせた手を少しずらしちらっと上目遣いで俺を見てお願いをしてきた。


 あざといというやつだ。

 妹じゃなかったら可愛いと思っていたかもしれない。


「一生のお願い!」


 妹はそう言い両手を合わせ今度は頭を下げた。


下げて見えない顔はどんな表情をしているんだろうな……


 俺は妹からの「一生のお願い」を何度も聞いたことがある。

 断ると不機嫌になって、さらに妹のことが大好きな両親も混ざって面倒臭くなることをこれまでの人生で分かりきっていた。

 仕方がない、やってやるか……と諦めて「わかった。」と返事をした。


 妹にお願いされたのは乙女ゲームの全シーンのイラスト回収作業だった。

 俺はこういうゲームなら攻略サイトを見ながらやれば簡単に回収できるだろう、自分でやれよと内心で愚痴を吐いた。


 王候貴族制があり、魔法がありレベルもあり、魔物がいる世界でヒロインが王族や公爵などの高位貴族子息や近衛騎士や王宮魔導師などの高い役職やらの子息の顔面偏差値が高い男達との恋愛し己を鍛えて世界を共に生き抜く恋愛シミュレーションRPGだ。

 RPGと唱っているがRPG初心者でも簡単なおまけ程度。


 俺はゲームが好きであるが、男を攻略するなんて……何が楽しくて同姓のイケメンを攻略するんだよ……と苦痛だと思った。

 恋愛相手、結婚相手、性的相手は女性なのに、男のはだけた胸板とか水に濡れた滴る男とか見たくないと眉間に皺が寄りそうになるのを我慢した。


 全キャラ隠しキャラのハッピーエンドとバッドエンドを達成した後に解放される逆ハーレムのハッピーエンドとバッドエンド、さらにこれ?乙女ゲームじゃないだろとツッコミを入れたい誰とも恋愛しない最悪な女王エンドなんかもあった。

 女王エンドは攻略対象というか国民全員が奴隷化だ。


 俺はなぜこんなルートを入れたのか?ゴーサインを出したのか?を作製陣に聞きたくなった。


 そして、プレイ後彼らに殺意が沸いた。


 それはなぜかというと俺はプレイしていて、あるキャラクターに魅かれた。

 さっさとクリアしてゲームを終わらせようと思っていたが一周目の登場から彼女に魅かれてしまった。


 二週目以降、腹いせで各キャラのバットエンディングを何度かやると妹に「早く終わらせて!」と怒られた。

 渋々、渋々全てのシーンを終わらせた。


 そして、毎回断罪イベントで号泣した。


「彼女を娼婦だと言ったな!」

「ええ、言いました。」

「彼女を侮辱するな!」

「私は『婚約者がいる殿方達に馴れ馴れしくしすぎではありませんか?娼婦のように見えますよ?あなた。』と言いました。」

「仲良くして何が悪いんだ!こんな心が狭い女だとは思わなかったぞ!」

「仲良く?私は婚約者ならまだしも、兄弟でも婚約者でもない殿方と手を握ったり腕を組んで歩くことや二人っきりで抱き合うことはやりすぎではないかと言いたいのです。」

「……」

「彼女を第二夫人、妾にするという報告も受けていませんし。」


 俺の口から「浮気じゃん。」とツッコミが漏れた。

 この令嬢は学力魔法上位三位に入るくらい頑張っているんだ。

 頑張っている描写はないけど……と俺は勝手な想像、推測をしていた。


 あと見た目が好みというのも魅かれた理由の一つだった。


 金髪のロングストレートヘアーは実際見たら輝いて見えるんだろう。

 少しつり目な赤い瞳は意思の強さを感じさせた。

 すっと通る鼻筋、男装が似合う整った顔立ちは格好良い女性になるだろう(学生時代ですでに格好良かった)。

 背筋を伸ばし堂々と立っている姿も良い。


 魅かれ、彼女を可哀想だなと思い、秘かに応援していたら、彼女の断罪イベントだった。

 彼女は悪役令嬢の役割だった。


 二週目からはもうこの会話から号泣してしまう。


うん、令嬢は正しいことを言っているよ。なんで、なんで誰も彼女の味方をしてくれないんだっ!


 と読んでいて内心では憤慨していてコントローラーを指が白くなるくらい力強く握っていた。


 一度見た断罪イベントだからスキップ(話を飛ばし先に進むこと)すればいいのだが、それはしてはいけないと既読スキップを解除し、ぼやける視界で何度も袖で涙を拭きながらしっかりと見届けた。


 何度も。

 全てのハッピーエンド、バッドエンドルートの彼女の断罪イベントだけは見届けた。


 文字が一気に出る設定にし基本ボタン連打で読まないで進め、彼女の名前が出てきたり画像が出てきたらログを見て少し遡り、話を読んだ。

 彼女が関わる話は全てスキップせずに読んだ。


 最後の女王エンドは最悪だった。

 コントローラーを投げつけたかったが、ぎりぎり、ぎりぎり我慢した。


彼女が……

クソッ!

思い出しだけで胸糞悪い……

なぜっ?なぜ彼女だけあんな目にっ!


 最悪な気分のまま、全てイラストを回収し終わりゲーム器ごと妹に返した。

 妹からは「ありがとう」のあの字の感謝もなかった。


 気持ちが晴れないまま数日が経った。

 時々彼女が脳裏に浮かぶ。

 ifストーリーでもなんでもいいから彼女の幸福を願った。


 ある日、夢を見た。


 魅かれた彼女が、最後まで涙を見せなかった彼女が涙を流しながら「助けてっ!」と手を伸ばす夢を見た。

 その手を掴もうと俺は助けようと全力で手を伸ばした。

 彼女の手に触れたところで夢から覚めた。


 俺は手を天井に伸ばしていた。


 ぼやける視界に映るのは可笑しいことに小さなぷっくりとした手。

 意識して手をグーパーグーパーとするとその小さなぷっくりとした手も同じ動作をした。

 また意識して左右に振ると、またその小さな手も同じ動作をした。


 頬を摘まんだ。

 痛くて感情が抑えられなくて泣き叫んだ。


「おぎゃあああ」と赤ちゃんのように。


 そして、泣き続け、いつの間にか眠ってしまっていた。


 ーーーーー

 あとがき

 https://kakuyomu.jp/works/16816927863067463626

 の改訂版です。

 主人公は強い、ヒロインは可愛いは変わりません。


 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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