称号は『危険物取扱注意』!? 泣き虫爆発娘による絆のVRMMO
一 万丈、(にのまえばんじょう)
大章 夏休み編
プロローグ
泣き虫は出会ってしまった
──その日、わたしは恋をした
わたしの名前は
とある地方の商業科高校に通う1年生。美しい袋と書いて『みなぎ』と読むんだ
春の身体測定では身長が162cm。うんうん、育っておる
他はまあ、それなり。高校生活にも慣れてきた6月のある日、壊れてしまったドライヤーの替わりを求めて家電量販店に来ております
ネットで注文すれば楽なんだけど、わたしは手に取って確かめる派。お小遣いを握りしめ、蒸し暑いなかを自転車でえいこらと来るのは疲れたよ
入り口をくぐりエアコンの涼しさに癒されながら物色していると、隣のゲームブースに奇妙な形の物を発見。それは灰色をした大きな球体を4本の足で支えた物
「なんじゃこりゃ……椅子?」
よく見ると球体の上半分は半透明で、中に人ひとりが座れるソファのような物が見える。その部分をすっぽりと覆うように球体が配されているようだ
しかしてその正体とは?
「え~と、なになに?」
『最新VRMMORPG 絆オンライン お試しダイブ実施中』とな。ほうほう
最近のゲーム機は、こうなっとるのかね。年の離れた兄がゲームとかアニメ大好き人間だからして、よく付き合わされて遊んだものだ
もっとも、疑似空間に
こいつも多分……げげっ!
じうにまんごせんはっぴゃくえん
は、ははは。むりむり!
こちとら普通の高校生じゃい。ゲームのために12万5千8百円も出せましぇん
実は……あるにはある。商業科高校だから就職という選択をするかもしれない
そうなると、地方では普通自動車免許が必須なんだよね。都会みたく、何処でも電車でゴーとはいかないのが現実だ
車の出番は普通に多い。自転車の通勤範囲に就職できるとは限らないしね
だから、車の免許を取るために貯金はしてた。貯め込んだお年玉と入学祝いを合わせれば、あるいは?
いや、まてまて。わたしはドライヤーを買いに来たのだよ
兄みたくゲームに散財など出来るかい!
……でも気になる
純真無垢だった少女は、兄によってゲーマー怪人に改造されたのだ
イーッ! ちくしょう! 兄よ、恨むでホンマ
そんな葛藤少女を見ていた女性店員さんが、声をかけてくれた
「よろしければ体験なさいますか?」
おおう、気を利かせちまったい。すまねえ……すまねえ、おねいさん
では、遠慮なく
半透明の部分が上にスライドし、中のソファがハッキリと見える。足まですっぽりと腰かける形をしているようで、店員さんの言う通りに靴を脱いで座ってみた
わりと柔らかい素材で出来ているらしく、包み込まれるような感覚に眠気を誘われる。こりゃ良きかな、安眠ソファとしても使えそう
ソファの感触を楽しんでいると、目の前に半透明の部分が下りてきて、そこに文字が浮かび上がった
『バイタルチェック……正常』
『フルダイブシステムON』
『絆オンライン体験版 作動します』
「いってらっしゃーい」
店員さんの声を聞きながら、眠りに落ちていった
──意識が覚醒し、目を開けると……そこはまさしくファンタジーだった
緑の森に飛び交う、光る綿毛玉たちの幻想的な光景。流れる音が耳に心地よい、透き通った小川
触ってみると冷たささえ感じる。そうしていると不意に場面は変わり、今度は石造りの町並みに出た
路地に建ち並ぶ屋台からは様々な香りが立ち上り、美味しそうな匂いが辺りを支配している。串焼きの屋台をのぞいていると、1つくれたので食べてみた
「美味しい、味がちゃんとする」
絶妙な塩加減とジューシーな肉の味に、嬉しいというより驚いてしまう。
肉串を食べ終わると、今度は砂漠だ。神秘的な遺跡が
その後は目まぐるしく景色が変わって行き、その全てが現実と同じくらい美しい。そして最後に自分の身体が鳥へと姿を変えた
人間以外にもなれるんだ
翼を広げ、雲の近くまで飛んで行く。眼下には綺麗な緑の大地が続いていた
彼方には雪を被った山々が連なっている。その眺めを背景にして『絆 ONLINE』のタイトルが浮かび、現実世界へゆっくりと覚醒していく──。
「あ、あの大丈夫ですか?」
慌てて女性店員さんがハンカチを差し出してくれた
わたしは、泣いていたらしい
体験した世界の美しさに感動してしまったのだろう。心が震えるってこういう事なのかと思った
その日、わたしはゲームに恋をした──
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