第三十三話「魔王ロナ=リベルス」

 赤。青。黄色。眼の前には、カラフルなプラスチックボールの海がある。


 最近作ったボールプールだ。羽毛をなめし革で包んだ少し硬めのクッションで部屋の一角を覆い、プラスチックボールでそれを埋め立てれば完成。


 この世界にはプラスチックなんて便利なものは無かったし、どうやって作るか知識も無かったから、ボールについては、|想像(イメージ)から作る必要があった。


 でもその作り方には膨大な|魔力(コスト)がかかる。膨大な魔力を使ってプラスチックボールを一個生成し、魔力が回復するのを待って、また一個作る。

 なんとも非効率な方法のお陰で、作り始めたのは半年前でも、完成したのは三日前だ。


 そこにダイブすると、適度な反発と柔らかさを感じながら、身が沈んでいく。

「あー、いいな。童心に帰る気がするわ」


 元の世界にあって、実用性のあるものはあらかた作り終えた。

 実用性はないけど、思い出のあるものも作り終えた。


 だから最近はこういった、実用性も思い出もない、ただただ適当に思いついたものを作っている。


 千葉にあるのに東京の名前を冠している某商業施設にある城のような、いくつかの尖塔が連なって出来た古城は、外から見ると重々しい見た目をしているが、中は清潔で明るい。


 床は一面エナメル質の白い大理石でホコリ一つ無いし、ボールプールに浸かりながら眺める高い天井には、魔石に貯めた魔力で発光するシャンデリアが吊られている。

 これのお陰で夜も明るい。


 魔石は魔力のバッテリーのようなものだが、永遠には使えない。繰り返し使うと割れて使えなくなってしまう。地下から採掘する必要があるのだが、それは近隣の村を襲って用意した奴隷に任せている。


 その奴隷を自分が直接管理するのも手間なので、部下に任せている。そのために組織を作った。


 今の目標は、というかこの目標は異世界に来てからずっと変わっていないが、ストレス無く日々を暮らすことで、そのためには衣食住を満足させたい。衣料や食料も略奪している。高価な調度品が目に入れば、やはりそれが欲しくなるものだ。ほしいと思ったものは手に入れたい。


 道徳心がないわけでもないが、気づいたのだ。


 元いた世界にあった規律やルールは、当然この世界にもある。ただ、それらはある程度の規模のコミュニティを、維持するためのものだ。つまり集団に所属しなければ生きていけない弱者のためのルールなので、この世界で圧倒的に強者である自分は、それを守る必要はない。


 ただ最近はあまり好き放題暴れたりするような欲望は萎えてきてしまっているから、ボールプールなんかで暇を潰している。


 こんなもので遊んで、精神が幼稚化してきているのを感じる。心身の健康には、適量のストレスも必要そうだが、自分からストレスを求めるほど、もの好きでもない。だからなるように任せている。結局そうするしか無いのだ。


 それよりも最近感じ始めている不安は、することもしたいことも、完全になくなってしまうことだ。

 魔王を倒してすぐ、この世界に残ることを決めてから、魔王を倒した報酬として女神に不老の魔法を頼んだ。


 その魔法の効力で、自分は年を取らず、死なない限り永遠に生き続ける。


 いつかやることが完全になくなって、それでも永久に生きなければならなくなったら、自分はどうなるのだろう。その瞬間に、時間の流れが急激に速くなって、気づけば自分ひとりだけが取り残されてしまうのではないか。


 自分一人だけになった世界で静かに自殺して生涯を終える。いや、自殺できればまだいい。自分にはそんな度胸ないから、多分永遠にそのままだ。永遠になんの変化も、刺激もない時間を送り続ける。


 背中にあたっていたプラスチックボールが外れて、体が斜めに転がった。


 腕を上げると、それにつられて動いたボールが顔にかかった。

「ふふ」

 まあいいか。


 思いつきで作ったが、ボールプールはいいものだ。ここに入っている間は、あまり脳みそを使わないで済む気がした。


 ボールプールから溢れたボールが、太った醜い男の足元に止まった。

 目の下に深い隈がある無愛想な表情をした男は、名をレイスという。


 レイスはそのボールを拾うと、ボールプールに投げずに戻して、そこに埋まっていた魔王に声を掛けた。

「リベルス様。イビルが戦闘に入りました」

「ああ、映せ」

 魔王リベルスは気怠げに身を起こしながら言った。


 イビルの眼と耳には細工がしてあり、遠隔地からそれを確認出来るようにしている。レイスは燕尾服の懐から人間の眼と耳のような形をした不気味な陶器を取り出した。


 いくつか呪文を唱えると、眼の方から細い光が出始める。

 部屋の壁に、プロジェクターのように、イビルの視界がそのまま映像として出力される。少し遅れて、耳のような形をした陶器から、音も聞こえ始めた。

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