第51話 次のトラックを再生します【Depth EX 3】

 誠司とシアーは久しぶりに二人が出会った浜辺に来ていた。


「思っていたよりも雰囲気は変わってないね」

「あの階段で降りれた方が奇跡だ」

「だいぶ、こう、風情が」

「歩けるから問題はないな、多分」


 浜辺に腰を下ろすと、会話は自然と止まった。こうやって波の音を聞きながら、他愛もない会話をしていた時期があった。二人はそれを思い出していた。


「どうして、あの時、話しかけようと思ったの?」

「半分は好奇心」

「物好きだね」

「もう一つは綺麗だと思ったんだ」

「え」

「綺麗だと思ったんだ。その夏の日差しを浴びて輝く金色の髪、汗ひとつ流れない白い肌、究極の美だと」

「本音は」

「綺麗だと思ったのはほんとだ。もう一つは君となら他愛もない話をしていいと思ったんだ」

「へえ」


 そう言いながら隣に座るシアーは誠司の手に自身の手を重ねる。誠司は応じるように指を絡めて、


「ほんと、他愛もない話をしたな」

「石の飛ばし方も教えたっけ」

「人の飛ばし方も実地で教わったね」

「いや、あれは、不可抗力なんだ」

「責任、とってよね」

「俺はあの投げ込みで禊ぎは終わったと思っていたのだが」

「それは甘いと思うよ」


 この場合は重たい責任の取り方が求められそうだ。ため息をつきながら、渡すタイミングを失った小箱をポケットの中で転ばせながら、


「別の方法も用意はしたんだ。受け入れてもらえるかはわからないんだが」

「どんな提案?」

「結婚しよう」

「ここで!?」

「風情がないのはわかってるが、職場だと賑やかになりすぎる」


 社長も同僚も性格はいいし、スキルも持っている。が、いかんせん祭り好きなところがあり、職場でやろうものなら、その場で式場の情報がどっさり集まってしまうだろう。下手すればウェディングプランナーと繋がりのある同僚が一気に手筈を整えるまでありえる。


「それはわかるけど」


 シアーはそこで言葉を止める。誠司は彼女を見て続きを促す。


「私なんかでいいの?」

「君だからいいんだ」

「ありがとう。指輪持っているんでしょう?」

「なんだ、お見通しか」


 誠司な苦笑してから、ポケットに忍ばせていた小箱を取り出し、シアーの目の前まで持っていくと、蓋に軽く力を込める。。小気味よい音がして、飾りっ気のないプラチナリングが姿を現した。

 シアーはなんの迷いもなく、それを自身の左手の薬の指にはめると、五指を伸ばしてしばらく、興味深そうにながめ、そして、誠司に向ける。


「似合ってる?」

「ああ、似合ってる」

「サイズはどうやって測ったの?」

「この前のボウリングで」

「期待はしてたんだよ」


 シアーは幸せそうに笑う。


「二人の時間、もっと増やしたいね」

「仕事以外のな」

「そうそう」

「二人でこの指輪したらバレるか」

「私だけがしててもバレるよ」

「ふぅむ」

「でも、外す気はないからね」


 笑みのままシアーは続ける。その声には充実感からくる力がみなぎっていた。

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