第24話 バックヤードの人々【BY-H-1】

 南原明樹が惑星瑠璃にあるグングニル政府の防省のFS対策本部FS監視室に配属されてから、10年が経つ。子供の頃にFSとの戦いの記念館でFSのビーム攻撃で飴細工のように溶けた隔壁を見て、身震いした。脅威的な存在であるが、もし、ファーストコンタクトに成功していたら、と時々考える、という話をやった勢いで当時の同僚に話したのが転機になったらしい。気がつけば、この監査室に配属され、今では室長になっている。

 南原室長は新しく送られてきた申請書を見て机に突っ伏した。ディスプレイには20前半ぐらいの容姿の女性が映しだされている。


「申請すればいいわけではないんだがなあ」


 恨み節たっぷりに嘆いてから顔を上げる。人を割いて監視はしているが、FSに怪しい動きは見られなかった。滅ぼされた種の生き残りとして、報復を考える、といったものは全く、感じられなかった。この身体を増やす動きこそ怪しい、とも見られるが、あくまで人とのコミュニケーションを楽しむための手段でしかない。

 交流相手の身辺調査は毎回している。が、どれもシロだ。怪しい団体に所属していたどころか勧誘すら受けてない。FSに洗脳される可能性もあるため、人を割いて監視させているが、どうも普通の生活を覗き見ているようで抵抗を覚える。これもFSの作戦なのだと疑うこともできる。無害だと見せかけて毒がある。

 もし、トロイの木馬戦術をとっているなら、我々はすでにお手上げだ。何せ、この星に降り注ぐ小惑星の迎撃に使っているUADSの開発にはFSが情報提供を行なっている。最近になって開発されている特殊な戦闘スーツは特撮ヒーローか何かの才能を持っている。反旗を翻されたときは抵抗もできずに灰にされるだろう。


「室長、トレーサーの確保できました」

「イヤリング型か」


 トレーサーは装飾品に埋め込むのが暗黙の了解になっている。毎日同じものをつけるのも難しいので、何セットかを送る。今回もオンオフ、冠婚葬祭などで使えそうなものがいくつかあるようだ。


「いつも通り着払いで……いや、発払いにしよう。費用は俺が出す」

「珍しいですね。もしかして、惚れましたか」

「ばーか」


 若いメンバーがははは、笑いながら扉の向こうに消えていく。こちらの都合にあわせてくれている異星人にささやかな贈り物をしてもいいだろう、とそんな気分になっただけだ。

 ディスプレイに小さなウィンドウが表示される。活動予兆の定期報告の提出期限が近いのだ。報告用のページを開き、お決まりの文言を記入する。危険な活動の兆候なし、と。



「そのイヤリング、似合いますね」

「ありがとう。知り合いからのプレゼントなの」

「センスいい人ですね」

「ええ、ほんとね」

「もしかして……」

「特別な関係はないわ。さて、急ぎましょう。今日中に全部巡るのでしょう?」

「あ、はい!」



「トレーサーの作動確認よし。博物館好きだなあ、君ら」

「いっそ、おすすめの博物館や美術館のガイド送ります?」

「随分と前のめりじゃないか」

「行動範囲が絞れますからね」

「本音は?」

「いいところたくさんあるんです。その後の流れも込みで」

「お前さん、結構遊んでたそうだものな」

「嗜む程度には」


⚫︎


 監視室の大型ディスプレイには世界中で活動しているFSの状態が表になって表示されている。能力の濫用や第三者から襲撃を受けた場合にはアラートが発報されるが、今はどの状態も緑色で問題なしだ。瑠璃にも地球にもFSはいた。都市部だけではなく、僻地のように思える地域にも。人の間であればどこでもやっていくつもりらしい。

 見届けてやろうじゃないか、隣人として、と南原はディスプレイの前で腕を組む。

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