田中リミット~彼女をつくれないと死ぬカウントダウン。片想いの相手に告白します~

属-金閣

1章

第1話 学園の高嶺の花とアイドル的存在の幼馴染

「お、俺と付き合って下さい!」

「……ごめんなさい」

「えっ」


 俺、小鳥遊祐樹たかなしゆうきはたった今片想い相手である学園の高嶺の花である、冴島麗奈さえじまれなに告白し見事に玉砕した。

 告白への返答を終えると冴島はその場から立ち去って行った。冴島の後ろ姿を見送った俺はその場で膝から崩れ落ちる。


「フラれた……そりゃ、そうか。一年も片想いしてただけで全然話した事もないし、当然の結果だよな」


 俺はため息をつき暫く呆然としていたが、そろそろ帰るかと思い立ち上がった瞬間だった。

 急に胸が苦しくなり、息も出来ない状況に陥る。

 その場に倒れてもがく事しか出来ず、声も出ず助けも呼べないまま苦痛が続く。


 何なんだよ、これ! ……苦しい……息が出来ない、胸が痛てぇ! 誰か、誰か助けてくれよ! 誰か……

 だが、それは声にはならずただその場で俺はもがき続ける。遂には意識が遠くなり始め、死を覚悟した。

 さっき告白して玉砕したのに、次は訳の分からない病気で死ぬのかよ。

 ありえねー……最悪だろ俺の人生……

 と、思いつつ意識が完全になくなった。

 次の瞬間、突然頭に物凄い衝撃が走り目を覚ました。


「いっっってぇ~~! ……ってあれ? 何で俺床にいんだ?」


 そこは俺の部屋であり、状況から見て何故かベットから落ち頭をぶつけたのだと理解した。

 俺はゆっくりと起き上がりぶつけた頭をさする。同時に、さっきまで感じていた胸の痛みなどが一切ない事に安堵した。


「よかった~夢か。玉砕するは、死ぬ夢見るは最悪なコンボだったわ。つうか、そもそも俺があの冴島に告白なんてしないっての。……そりゃ付き合いって思う程、好きだけど」


 そう独り言を口にしながら、まだ眠さがあったので布団へと戻ろうとした時だった。

 突然部屋の扉が勢いよく開かれ、俺は驚き目を見開いた。


「びっくりしたー……もうちょっと優しく開けられないのかよ、うみ」

「ゆうちゃん、何呑気なこと言ってるんの! もう八時前だよ!? 遅刻するよ!」

「んな訳あるかよ。これでも俺はしっかりと目覚ましを――マジだ……」


 目覚まし時計を見て、俺は血の気が引き一気に目が覚めた。


「やべぇ! 遅刻する!」

「全く、私が朝練終わりに一度家に帰って来なかったら、ゆうちゃん完全に遅刻だったね。それじゃ、私は先に行くからね」

「おう! マジ助かったわ、うみ」

「じゃ、昼何か奢ってよね」

「オッケー、オッケー!」


 そうして、幼馴染である海原詩帆うみはらしほは急いで俺の家から出て行き、学園へと走って行った。

 一方で俺は、急いで仕度し菓子パンをカバンに詰め込む。玄関で革靴のかかと踏みつつ履き家を後にし、全力疾走で学園へと向かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁ~マジで疲れた。やっと昼だ~」


 その日俺は、何とか遅刻せずに学園に辿り着いた。

 現在は午前中の授業を終え、俺が机に突っ伏していると詩帆がやって来る。


「ゆうちゃん、よく間に合ったね」

「本当だよ。高二になって初めてあそこまで全力疾走して、マジで疲れた」

「うんうん。で、遅刻しなかったのは誰のお陰かな~」

「分かってるよ。うみのお陰だろ、後で食堂に行くからその時な」

「やった! 何にしようかな~高めのアイスにしちゃおっかな~」

「おい、少しは俺の財布の事も考えろよ」

「え~どうしよっかな~」


 詩帆は俺をからかう様な顔で見つめて来る。

 すると遠くで詩帆を呼ぶ友達が現れ、視線をそちらに向け返事をする。


「じゃ約束守ってね、ゆうちゃん」


 と言い残し、小走りで友達の元へと向かって行く。

 それを見て俺は小さくため息をつく。

 

「(くっそ~今父さん母さんそれに姉ちゃん達も居ないから、小遣いの補充が厳しいのに)」


 そう、今俺の家は両親が出張で、二人の姉ちゃんも大学の春合宿と海外留学でタイミング悪く誰もいないのだ。

 そして詩帆とは、小学校五年生の時からの幼馴染で家も近く、両親たちも仲が良くよく家に来る仲である。

 その為か詩帆には、何故か俺の家の合鍵の場所を教えられている。更には昔からお節介の性格で面倒を見て来る奴なのだ。


「おやおや、小鳥遊祐樹たかなしゆうき十七歳。高校二年生にして、あの人気者であり学園のアイドルでもある海原詩帆うみはらしほこと、うみちゃんと幼馴染かつ家も近い。そして唯一男子の中でゆうちゃんと呼ばれてている男が、ため息とは何事かな~」

羽石はねいし氏。もしや片想い相手の学園の高嶺の花であり、生徒会副会長でもある冴島麗奈さえじまれなの事でも考えていたのでは?」

「おい、いつにもまして変な絡み方をしてくるなよ、羽石。それに牛尾田うしおだも」


 わざわざ俺や詩帆などの説明する様に絡んで来たのは、数少ない友達である野球部の羽石と美術部の牛尾田であった。

 数少ないというのは、別に俺がこの学園で人見知りとかしてるんじゃない。友達と言える奴が少ないという意味である。ちなみに知人と言える奴は沢山いる。

 友達と知人の仕切りは、本音で俺が話せるかどうかで決めている。

 話が合うとか、こいつなら相談とか本気で乗ってくれそうと思える人を俺は友達と思っている。

 まぁ、こんな事知られたら嫌な奴だと思われるのは目に見えている。だから誰にも言ってない自分だけの考えなんだけども。


「で、いつ告るんだよ、うみちゃんに」

「はぁ? うみに告る? 何言ってんだ羽石」

「いや羽石氏、もしかしたらもう付き合ってるのかもしれないぞ。ゆうちゃんとうみちゃんは」

「そう言う事かよ~それなそうと、早く言えよな小鳥遊~」

「おい、勝手に話を進めるな。そして話を聞け。何度も言うが俺とうみは付き合ってないし、ただの幼馴染なだけ。それにあいつは昔から世話好きで、妹の様にしか見えねぇから好意はない」


 すると二人は何故か同時にため息をつく。

 海原詩帆――学園では「うみちゃん」「しほちゃん」などと呼ばれ、男女ともに友達も多く、勉学も優秀かつ運動神経も良く軟式テニス部に所属。

 顔立ちもよく、引き締まった体に豊満な胸もあり一部男子達からはアイドルの様に扱われ、ファンクラブも存在しているらしい。

 髪はミディアムで一部分だけ三つ編みにしているのが、特徴である。


「小鳥遊、さらっとうみちゃん自慢するなよ」

「いやしてねぇよ。事実を言っただけだし、それに俺は好きな人いるって知ってるだろう。そもそも妹的な存在を好きになるわけないだろ」

「はいはい。そう言う所ですぞ、小鳥遊氏」

「そうそう。うみちゃんファンクラブの奴が聞いたら、連行案件だから気を付けろよ」

「お前らが面白半分でいじって来るからだろが!」


 俺は二人が軽く肩に置いて来ていた手を弾き、いつもの様に反論した。

 その後軽く雑談した後、俺は一人で詩帆がいる食堂へと向かった。すると詩帆は既にアイス売り場で品定めをしていた。


「遅いゆうちゃん」

「悪い。羽石と牛尾田に絡まれてな」

「羽石君と牛尾田君? 何の話してたの?」

「……どうでもいい雑談だよ。で、何にするのか決めたのか?」

「誤魔化した。いつもちょっと間がある時は、いつも何か誤魔化してる証拠。ねぇ、何の話してたの?」


 詩帆がしつこく聞いて来たが、俺は答えずアイスの話に戻す攻防を繰り広げる。身振り手振りでいつもの様に続けていると、詩帆が何かに気付き俺の右手の甲を急に指さした。


「ねぇ、さっきから思ってたけどそれ何? 何で数字なんてそこに書いてるの?」

「へ?」


 俺は詩帆に言われて右手の甲を見ると、そこには『31』という数字が刻まれていた。

 軽くこすれば消えるかと思いこするも消える事はなかった。近くにあった蛇口から水を出し、流そうとするもそれでも消えはしなかった。


「何だこれ? 落ちねし、何かの跡? ぶつけたあざって訳じゃねえしな」

「自分で書いたんじゃないの?」

「書くわけないだろ。てか、いつあったんだこれ? あいつ等には何も言われなかったし、全然気づかなかったぞ」


 すると急に食堂が騒がしくなり始め、人だかりが出来始めた方に視線を向けると、そこには冴島が居たのだった。

 冴島麗奈――高校二年生ながらにして学園の高嶺の花と呼ばれ、生徒会副会長も務め正に容姿端麗・頭脳明晰と言える人物である。

 特徴は、ロングヘアーで片耳にいつも髪をかけている。

 愛想も良く教員たちからの評判も良く悪い噂など一切ない。当然男子からの告白も後を絶えない。

 また学園では男子たちの中で海原詩帆派と冴島麗奈派があるらしく、たまに言い合いをしている男子を見て女子が呆れている姿がある。

 俺はそんな冴島に高校一年の時から片想いしている為、自然と冴島を目で追っていた。

 すると突然隣にいた詩帆に肘で勢いよく突かれる。

 それが運悪くみぞに入り、すぐさま視線を詩帆へと向けた。


「な、何すんだよ、馬鹿……っぐぅ……」

「何であの人に見惚れて、私には見惚れないのよ……」

「うっ……何か言ったか?」

「別に! 友達ですらない人からガン見されたら、きもがられるよって言ったの。あ~もう、一番高いアイスに決めた!」


 俺が腹を抑えてうずくまってると詩帆は機嫌悪そうにして、アイスがある棚へと向かう。棚から一番高いアイスを取り出してレジへと持って行く。

 さすがにそれは財布的にきついので、俺は歯を食いしばり立ち上がって詩帆の手首を掴み説得を試みた。

 その結果、何とかそれは回避し三番目に高いアイスで手打ちにしてもらった。

 とは言っても、俺の財布には大ダメージなのは変わらないわけで……はぁ~つら。


 その後午後の授業も乗り切り、俺は部活にも所属してないのでいつもの様に帰宅した。帰宅中、右手の甲に刻まれた数字が何なのか考えたが、答えは出なかった。

 結果的に、答えが出ない事をいつまでも考えていても仕方ないと判断し、害もない為気にしない事に決めた。

 帰宅後は夕飯そして風呂に入り動画を見たり好きな事をして就寝する。

 そして次の朝、再び俺は床に頭をぶつけて目を覚ます。


「いってぇぇ……また最悪な夢を見た。てかほとんど昨日と同じで、死に方が違うくらいだったわ」


 俺はため息をついて、目覚まし時計を見て今日は寝坊せずに起きれた事を確認する。それと同時に、視界に右手の甲の数字が目に入り昨日から変化している事に気付く。


「ん? 『30』? 確か昨日『31』じゃなかったか? そういえば風呂で洗っても結局落ちなかったし、学園でも何故かうみ以外には何も言われなかったんだよな、これ」


 不思議に右手に刻まれた数字を見つめていると、突然扉が開く。

 昨日も体験した既視感に、昨日同様に詩帆がやって来たのだと思い振り返る。


「今日は何の用だ、う――っ!?」

「よう、たかちゃん」


 そこに居たのは、詩帆ではなく宙にフワフワと浮き背中から羽が生えている小柄の少女であった。

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