60話:お前を殺すまでアタシは死なない
*まえがき
【3章】もクライマックスですが、このタイミングで【2章】の挿絵(?)を追加しています。近頃は出番の無い「組織の先輩:イヴァン」と「組織の長:グラハム」を描いているので(+ダークエルフの少女:ロロ)、よろしければご覧下さい。
https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16817330666648605627
そして今話は「領主:ピエトロ」視点での話となります。
以下、本編です。
――――――――――――――――
混乱を極める音がアチコチから鳴り響く中、纏っていた“瓦礫の鎧”をガラガラと脱ぎ捨て、『領主:ピエトロ』はつまらなそうに舌打ちをする。
「ったく、無駄に素早いチビガキだったぜ。ちょこまかと動きやがって」
相手を侮っていたら「まさか」の可能性もあっただろう。
ただ、そこは先に「車掌:ディグリード」がやられてた為、小さな姿から受ける印象以上に警戒していたのが功を奏した。
結果を見ればピエトロの圧勝。
今、彼の目の前には“腹を貫かれた”少年が血まみれで倒れている。
「ピ、ピエトロさん!? 何でその子を刺したんだ!?」
「あぁ?」
声を掛けて来たのは一人の男性。
ピエトロが名も知らぬ住民の一人で、彼は酷く青ざめた顔で震えていた。
「そ、その子は俺達を守ろうとしてくれたんだぞ!? そもそもどうしてアンタが瓦礫を……え?」
“瓦礫の槍”。
それが腹に突き刺さり、声を掛けてきた男性は呆気なく言葉を失った。
人一人を始末して顔色一つ変えないピエトロは、言葉を失った男性に代わって気だるそうに口を開く。
「さて、これで
近くの瓦礫に向かって歩を進めるピエトロ。
これから何をするかと言えば、上空から町全体を俯瞰しつつ、6体もの
(普段、
今回の一件、元々ピエトロの中では
管理局は無論のことながら、裏社会には目を付けられたくない輩も多い。
そこで手間のかかる「殺し」と「略奪」は
既にその少年は始末済みだが、町からの逃亡者を許せば、嫌でも自分の名が裏社会で売れてしまうだろう。
それを阻止する為にも、誰一人この町から生きて逃す訳にはいかない。
自身の平和の為に、ここで全員を殺す。
その為に、いざ瓦礫に乗って浮き上がろうとして――
「ぐッ!?」
背中に“ナイフが刺さった”。
「誰だ!!」
反射的に振り向き、背中を刺した犯人の腕を掴むピエトロ。
その目がハッと見開かれたのは、頭の上に生える“獣耳”に見覚えがあった為だ。
「……こいつは驚いたな。まさか本当に生きていたとは」
「お前を殺すまでアタシは死なない!! パパとママの
背中を刺した犯人。
それは2カ月前に始末したトマス夫妻の娘:テテフだった。
苦痛に顔を歪めるピエトロは、しかし致命傷には至らない傷である事を認識し、ナイフが突き刺さったままジロリと彼女を一瞥する。
「ちょうど昨日、お前を見たって噂を耳にした。2カ月前、エクドレアと一緒に
「うるさい!! お前を殺してやる!!」
掴まれていないもう片方の腕を、ブンッと精一杯振るうテテフ。
それに当たるピエトロではないし、当たったところでどうという事もない。
彼は「ふんッ」と鼻で笑う。
「威勢のよさは相変わらずだな。トマスの執事をしていた時は、お前のやんちゃに手を焼かされたものだ」
「黙れ!! お前はここで殺す!! パパとママの仇を私が――」
「黙るのはテメェだ」
「きゃッ!?」
脚を蹴り、テテフのバランスを崩すピエトロ。
そのまま彼は地面の瓦礫を操り、先端の尖った槍を突き上げた!!
「“
「ッ――」
先程ドラノアを貫いたその槍が、しかしテテフを貫かない!!
槍が突き刺さる土壇場。
彼女は身を捻り、跳ねる様に横へと逃げる。
小さな獣耳の少女は、そのまま建物の陰へと隠れてしまった。
「チッ、獣人族はこれだから面倒だ。ガキでも身体能力だけは高いからな」
とはいえ、所詮は大人と子供。
しかも“
結果は既に見えており、後はその結果が訪れるまでの時間が早いか遅いかの差でしかない。
背中のナイフを抜き捨て、瓦礫に乗ったピエトロは天高く浮上。
その際、彼は一緒に大きな瓦礫を幾つか浮かせた後、空中で“瓦礫どうしをぶつけて粉々に砕く”。
そして粉々に砕かれた小さな瓦礫が――
「“
――瓦礫の雨として、駅前広場に勢いよく降り注いだ!!
「ぎゃああああ!?」
「痛ぇぇええええ!!」
「辞めてくれぇぇええ!!」
領主の裏切り。
信じていた者からの攻撃に、逃げ遅れた人々が悲鳴を上がる。
その渦中に、先程仕留め損ねた少女が混じっていることを彼は見逃さない。
「そこにいたか」
「ッ~~!!」
声ならぬ声の持ち主はテテフ。
素早く動いたところで避けきれぬ量の小さな瓦礫を受け、アチコチから血を流しながら彼女は地面に倒れている。
その小さな身体で“庇う”様に。
物言わぬ少年に降りかかる瓦礫の雨を、代わりに自分で受け止めながら――。
「ははっ、泣けるじゃねぇか。それとも笑うところか? そのガキは既に虫の息、今更身を挺して守る意味も無いぞ」
瓦礫の雨が止み。
安全地帯の空中から、テテフの元へと降り立つピエトロ。
彼女の小さく華奢な身体は全身傷だらけで、倒れたまま動けぬその細い足を左手で掴み、グイッと宙吊りの形で持ち上げた。
「くそッ、離せ!!」
「言われなくてもすぐに離してやるさ。テメェ等二人を、3000メートル下のゴミ山へ投げ捨てる時にな」
「なッ!?」
まさかの言葉に必至でジタバタと暴れるテテフだが、足を掴まれた宙吊りの状態では逃げることも叶わない。
続けてピエトロが少年の身体を右手で持ち上げると、その腹からボタボタと赤黒い血が流れ出る。
途端、テテフが瞳一杯の涙を浮かべた。
「辞めろ!! そいつは関係ない!!」
「ハハッ、関係ないってことはねぇだろ。こいつは
「頼むッ、そいつは見逃してくれ!! そいつに頼んだアタシが悪いんだ!! お前に勝てると夢見たアタシが馬鹿だった!! 悪いのは全部アタシだ!!」
「ったく、ギャーギャーうるせぇな。これだからガキは嫌いなんだ」
交渉の余地など無い。
少なくとも、ピエトロにテテフの話を聞く意味など無かった。
次に発せられる「彼女の言葉」を耳にするまでは。
「それならッ――“ページ”と交換でどうだ!?」
「……あ?」
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