閑話③ 仕事の疲れを癒すのは
レオンハルトは仕事で疲弊していた。
ここ連日徹夜続きの日々で、自宅での作業がほとんどとはいうものの、もう文字を見ることすら嫌になるほどであった。
「ああ……コルネリアに会いたい……」
彼が思わずこう呟くのも無理はなかった。
徹夜続きの日々は非常に過酷であり、いつもであればダイニングでコルネリアと二人で食事をとるところを一人で執務室で毎日毎食とっていた。
コルネリアが今日はどういうことで楽しんだ、孤児院の子供たちと遊んだ話、テレーゼと庭の手入れをした話など。
最近はよく話して感情を露わにしてくれる彼女の様子を楽しみにダイニングに向かっていたのに、今はそれを楽しむこともできない。
ヴァイス邸の料理長が腕ふるって用意してくれる料理は、毎日、毎食それはそれは美味しいのだが、徹夜で一人で食べていると、なんと味気のないことか……。
「はあ……」
大きなため息が部屋中にこだましたところで、突然執務室のドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
たぶん食事の食器を下げに来たのであろうと勝手に思い込んだレオンハルトは、特に何も考えないまま返事をして入室の許可を出した。
もはや思考力が低下しており、反射的に何も考えずに出したと言えなくもない。
しかし、そんな生気を失った彼は、ドアから入ってきた人物によって息を吹き返す。
「レオンハルト様?」
「……ああ、食器ならそこに……っ!! コルネリアっ!!」
目の前にはすでに愛しい妻であるコルネリアが近寄ってきており、その気配にすら気づかないほど自分の思考能力が落ちていることに今更ながら自覚する。
目をパチクリさせて、目の前にいるのは確かにコルネリアだろうかと何度か見直してみるが、何度見ても心配そうに見つめる彼女だった。
「コルネリアっ! なんで?!」
「皆さんからレオンハルト様がお仕事で大変そうだって聞いて、それで心配になって。それに……」
「それに……?」
「その、えっと、……寂しかったので……会いに来てしまいました……」
とんでもない爆弾発言(彼にとって)を受けて、レオンハルトは思わず目を閉じてそのまま机に突っ伏してしまう。
レオンハルト様?!と心配する声が耳から入って来るが、もはや彼の脳には届いていない。
そしてもう彼は我慢できないといった様子で突っ伏した顔を勢い良く上げると、そのままコルネリアの腰に抱き着いた。
「え? え?!」
椅子に座っている彼が勢いよく自分に抱き着いたのだから、それはそれは驚いたであろう。
反動で後ろに倒れるのではないか、というほど強く抱きしめられて混乱する。
「レオンハルトさ……ま?」
表情の見えない彼に恐る恐る話しかけてみると、レオンハルトはそのまま立ち上がってコルネリアを抱きしめ直した。
今度は身長差で抱え込むくらいの様子になっているが、彼はぎゅうっと彼女を捕まえて離さない。
「コルネリア不足で死ぬかと思った……」
「え?」
こんなに甘え気質だっただろうか、なんてふと思ったコルネリアだったが、あまりの彼の可愛さにもはやどうでもよくなってむしろ嬉しくて抱きしめ返してしまう。
二人はお互いをつかんで離さないといったように愛情を伝え続ける。
「もう、僕はコルネリアがいないとダメなようだ……」
「私もですよ、レオンハルト様。私も、レオンハルト様がいてくださらなきゃ困ります」
そんな風に言われてレオンハルトは益々彼女を抱きしめる力を強くする。
ある時ふっとその手を緩めてお互いに顔を合わせると、愛しい想いを込めて微笑み合う。
「これからも僕の傍にいて? いや、絶対離さない」
「はい、離さないでください、レオンハルト様」
二人はまたお互いの熱を感じ合うように抱きしめ合った──
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