第28話 あなたが好きです

 ルセック伯爵と伯爵夫人が追放の命を下された直後、レオンハルトとコルネリアは急いでヴァイス邸へと戻っていた。

 馬車を飛び降りて廊下を駆け抜けると、二人は急いでレオンハルトの部屋のドアを開けて入る。


「ま、間に合った……」


 と、いうのも。

 今ドアを寸でのところで閉めて落ち着いた彼らは、いつもの”それ”を見て一息つく。

 コルネリアの目の前には、小さな子供の姿のレオンハルトがソファにうなだれるように座って、息を整えていた。


 そう、今日は新月の日だったのだ──


「何も今日裁くからと言わなくても」

「仕方ありませんよ、あれ以上お父様たちを見逃してしまっては、何か良くないことがまた起こるかもしれませんでしたし」

「コルネリアは偉いね、周りのことをきちんと考えられて」


 そんなことはないと言った様子で首を振るコルネリアは、レオンハルトの横にちょこんと座る。

 そしてそっと彼の肩に自分の頭を預けた。


「──っ!!」


 まさかの甘い雰囲気にレオンハルトは驚きを隠せず、照れている様子を見られないように顔を手で覆う。


「レオンハルト様」

「な、なんだい?」

「ありがとうございました」


 ルセック伯爵への裁きの最後に、コルネリアへの謝罪をなんとしてもさせようとしたのがレオンハルトだった。

 申し訳なかった、それだけではあったが、コルネリアからすれば何かその一言で、そしてそれを言わせるために、動いてくれた、自分の為に怒ってくれた人がいるというだけで嬉しかった。


「小さいレオンハルト様、可愛いです」

「や、やめなさいっ! そんな風に触るなっ!」


 子供の姿で子供のように嫌がる姿に、コルネリアはなんだか微笑ましい気持ちになって、そして胸がドキッとした。

 こんな不思議な秘密を抱えた彼に恋をしたと気づいたのは、つい最近──


「そんなことしてたら……」

「──っ!!」


 コルネリアが油断した隙に、レオンハルトは彼女の頬に唇を触れさせる。

 そのあとなんとも意地悪そうな表情を浮かべて、そして彼は言う。


「ふふ、今度は逃がさない。好きだよ」

「──っ!!」


 そんな色気漂う声色で言われてコルネリアは一瞬どきりとするも、彼女の中で好きという感情が溢れ出て止まらなくなる。


「……き……」

「え?」


 月明かりに照らされてコルネリアの表情がしっかりとレオンハルトの瞳に入り込む。


「好きです、レオンハルト様」

「──っ!!」


 思わぬ反撃を受けて身体が固まってしまうレオンハルトに、コルネリアは追い打ちをかけた。

 そっと子供の彼の唇に、自分の唇を押し当てる。


 少し恥じらうように、それでも自分の好きという感情を一生懸命伝えるように、言葉で、行動で紡ぐ。

 そんな可愛らしい奥様の愛情を、貪欲な彼が見逃すはずはなかった。


 虐げられた少女は恋を知って、そして今度は愛を知っていく──



*********

第一部終了です

数話の閑話を挟んで、少しの休憩をいただいてから、第二部に入ります!

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