第22話 生まれ育った場所への帰還(1)
レオンハルトに連れられてコルネリアは10数年ぶりに教会と孤児院にやってきていた。
「……」
懐かしいようなそうでないような、小さい頃の記憶がほとんどないコルネリアは不思議な感覚に陥る。
王国で一番有名で神聖な場所と言われているこの教会は、建物の大きさや敷地はそれほど大きくはない。
ここのシスターと王国の「贅沢は神聖さを失う」という方針の上で成り立っており、皆質素な生活を心がけている。
ただし、劣悪な環境というわけではなく、無駄に浪費をしないことを心がけて清い心を保ち続けるというもの。
コルネリアもその精神を知らず知らずのうちに引き継いでいた──
「おかえりなさい、コルネリア」
「……シスター?」
自分を呼ぶ声のほうへと身体を向けると、そこには自分がおぼろげにしか記憶がない、それでも聞き覚えがあって優しい雰囲気をまとったシスターがいた。
もう腰が曲がり始めており、立つのもかなり一苦労と言った様子のシスターは、それでもゆっくりとコルネリアのほうに歩みを進める。
コルネリアは直感的に彼女が自分を育ててくれた人だ、と気づいた。
「行っておいで」
「……はい」
レオンハルトに促されてコルネリアは、涙を流しながらこちらを向いて手を広げているシスターの元へと駆けだす。
再会を喜ぶ二人は十数年ぶりに会ったことでぎこちなさはあるものの、本能的に覚えている雰囲気が彼女ら時を昔に戻させる。
「コルネリア、会いたかったわ」
「私を育ててくださったシスターさんですよね、またお会いできてよかった」
「あなたが死んだと聞いた時、生きた心地がしなかったわ」
「心配をおかけしてしまい、申し訳ございません」
「いいのよ、こうしてまた会えたんだから」
皺の増えた目元に滲む涙を拭いながら、シスターはコルネリアの背中をポンポンとあやすように叩く。
それはコルネリアが幼い頃によくシスターにしてもらっていた動作で、意識として覚えてはいないが、身体はしっかり覚えていた。
ほっとして懐かしい心地を得たコルネリアは、自分よりも小さくなってしまったシスターの背中をさする。
そんな様子を少し離れた場所からレオンハルトは見つめている。
すると、そんな彼に近づき話し始めるもう一人のシスターがいた。
「レオンハルト様、お久しぶりでございます」
「おや、ニア様。コルネリアを連れてくるのが遅くなり、申し訳ございません」
「いえ、シスター長も喜んでおります」
コルネリアを育てていたシスターは、シスター長というここの責任者であり、子供たちの一番の「母」である。
そしてそんなシスター長を支えるシスターが、ニアであった。
ニアは30代後半に差し掛かっているが、ここではまだ若手の部類。
実際コルネリアがいた少し前にこの教会にやってきていた。
そんなニアはレオンハルトに声をかける。
「コルネリア……いえ、もうコルネリア様と呼んだほうがよいですね」
「いや、私は気にしないし、特にここ周辺で呼び名を咎める者はいないでしょう。それに彼女おそらく敬称はよしてほしいというはずですよ」
そうでしょうか、では……、とまだ少し遠慮がちに話を続けた。
「先日のお話通り、コルネリアには週に一度ほど孤児院の子供たちの面倒をみていただこうかと思っているのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、シスター長やニア、それからコルネリアで話し合って決めてもらって構わないよ」
「かしこまりました。ちょうど小さな子供たちが孤児院に来たばかりで手が回っておらず……」
「今日もぜひコルネリアを案内していただけると助かります」
「ええ、もちろんです!」
そう言って軽くお辞儀をすると、ニアはコルネリアのほうへと向かった。
コルネリアに同じように話をしているようで、孤児院の場所やそこにいる子供たちについて軽く説明をしていた。
いつになく真剣な面持ちで、それでもシスター長やニアと再会できた喜びもあって、ふんふんとうなずきながら時折笑顔を見せている。
「よかった」
思わず、レオンハルトはそう呟いて交流を深めるコルネリアを眺めていた。
しかし、その様子を小さな影が礼拝堂の建物に隠れながら、にらみつけるように見つけていた──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます