第83話 剣先が鋭いだけに

「ねえ、可愛いお姉ちゃん……」

「──と心を惑わせながら、クルマに乗り込み、金銭を要求する場合があったとするで」


 ケセラが会議室でホワイトボードを前にして、ミクルたち三人に説明する。

 和やかなホワイトシチューとはちょっと違う緊迫したお味であった。


「まあ、そのお金でどう遊ぼうかしら」

「……自分はゲームさえ買えればいい」

「はいはーい、私なら自分へのご褒美としてショートケーキ買いまーす‼」

「……燃えている、燃えているガン消し」


 ジーラが熱血アニメの主題歌を歌い出し、それに釣られて歌おうとしたミクルを何とか止める。


 危なかった。

 もしケセラが止めなかったら、この部屋は音痴ミクルの騒音で壊れていた。


「それに燃えたら消しゴムじゃないやろ?」

「……パッケージはギャルゲー」

「そりゃ、萌えやろ‼」


 ジーラはストーリー重視のギャルゲーも好む女の子だが、この恋愛系なジャンルは女性ファンも多い。


「って、そうじゃなくてやな。もしタクシーに強盗が乗り込んできたらの話や」

「……ビームサーベルで戦えばいい」

「ガン○ムネタはええちゅうね‼」


 ジーラのしつこい攻撃を何とか、強引にツッコミで攻めるケセラ。


「そんな場合は有り金を全部渡せば良いのではないの?」

「えー、リンカさん。本日の売上金を全部ですか? 仕事帰りの美味しい料理はどうするんです?」

「……大丈夫、ミクル。ガンプラで消化すればいい」


 給料の天引きを知って、ミクルがげっそりとした表情をする中、ジーラだけは普通に会話を続ける。

 その続けることに意味がある?


「残念ながらリンカの答えが正解やわ。下手に相手をして、傷害事件になったら困るし」

「……やっぱりビームサーベルは必要か」

「ジーラさん。もう車内に携帯しておきましょう」


 非常食でもないし、護身用では危険すぎるし、携帯してどうにかなるのか?


「……今なら三本セットでお買い得」

「はい。私買います!」

「余計なもんは買うなや!」


 怪しい商売をするジーラに注意し、ビームサーベルを無性に欲しがるミクルの動きを封じる。

 ミクルの真の理由は、今日の帰りに買うホールケーキのカットが目的らしい。


「何ですの。リンカたちと同期なのに、あの上から目線の発言は……」

「まあまあ、ケセラさんもおつまみのスルメが切れて、苛ついてるだけですよ」

「……人はその武器をを剣先スルメという」

「ただのスルメやろ‼」


 ケセラはスルメをかじっていたジーラの頭をナニワハリセンで叩くと、ジーラは仰向けになって倒れ、スルメ万歳と声を漏らしながら、天井を見つめていた。


「こ、このケセラさんの人殺しー‼」

「いや、普通に生きてるやろ!?」

「おおー、汝のツナを愛しなさい」


 ミクルとケセラの口喧嘩はさておき、ゆっくりと息を吸いながら、天に向かい、両手を大きく広げるジーラ。


 それよりも強盗対策はどうなった?

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