第49話 執事が一匹

「暑いですね」

「ホンマ、ゆでダコになりそうや」


 今日は暑い日差しの下での警備。

 しかも、場所は日陰がない海水浴での駐車場。

 どこにも暑さをしのげる屋根はなく、涼を求める逃げ場もない。

 ひたすら太陽さんと『こんにちは』するしかないのだ。


「こんな時は頭の中で涼しい思いを浮かべるのですわ」

「……日もまた涼し」


 それは火ではないのかとツッコミを入れたいケセラだったが、暑すぎてその気も失せる。


「呑気にかき氷食べながら言う台詞かね?」

「ケセラさん、私たちも休憩になったら思いっきり弾けましょう」

「いや、シャボン玉やないから」

「そうですか? 風情があっていいと思いません?」

「風情も何もミクルの頭の中は謎だらけやな」


 ケセラにとってミクルのIQは未知数であり、普段ふざけたようにボケるミクルが実は勘が鋭いことを知っていた。

 IQ関係ないじゃん。


「……リンカ、扇風機をこっちに寄せてくれないか?」

「よろしいですわ」


 ジーラの合図により、リンカが巨大な扇風機ではなく、巨大なサーキュレーターを執事たちに持ってこさせる。

 リンカの執事たちは彼女の指示が無ければ、お暇な存在なのか?


「……うおおおおー! 強烈な風のパワー!」


 執事の一人がスイッチを押すと、強力な風の流れでジーラの体が吹き飛びそうになる。

 この風の威力は違法だな。


 ……というか、電源コンセントもないのに、どうやって動いてる?

 今流行りの太陽電池というものか?


「……ワレワレハ、カセキジンデアル」

「何やね、カセキジンって?」


 ケセラが化石人について尋ねてみるが、ジーラは何てことない顔つきで語り出す。


「……この物語はハクションです」

「誤魔化すなー‼」


 ケセラがランプを擦ると出てくる魔神説を封印しようとするが、主のジーラはくしゃみの連発で気づいていない。


「ケセラさん、あまり騒ぐと、こちらまで暑くなってきます」

「すまん、ミクル」

「じゃあ、今日はお祭りですわー!」

「リンカはちょい遠慮しよーか?」


 リンカが法被はっぴを着て、段ボールのお神輿を担ごうとしていた所を命懸けで止める。


 その服も神輿も執事が作って、持って来たのか?

 リンカの執事は、どんだけ暇人なのだろうか?


「何ですの。リンカはケセラちゃんたちが、ちょっとでも涼しくなるために対策を打っていたのに……」

「リンカ、ありがと。その思いしかと受け止めたで」

「……出る杭は打たれる」

「ジーラはちょっと黙ろうか?」


 ケセラからの言葉の圧にもびくともしないジーラ。


「……暑いものにフタ」

「カップラーメンですか?」

「それは熱いやろ?」

「……夏には欠かせない料理」

「いや、カップラーメンは料理のうちには入らんで」


 ケセラが料理まるでダメなジーラとミクルに忠告する。

 まずはラーメンの出汁の作り方からだと……。


「……ケセラは、全国の食えない女性たちを敵に回した」

「回しすぎに注意かしら」

「どういう屁理屈やね‼」


 恐らくリンカは扇風機のことを言ってるらしいが、暑さでバテているケセラには言い訳にしか聞こえない。


「ケセラさん、あまり騒ぐとこちらまで熱くなってきます」

「燃えてますわねー‼」

「さりげなく燃やすな! 駐車場でキャンプファイヤーごっこはするなやー‼」


 リンカの執事たちがせっせと薪を運んでるところを中止させて、大人しくリンカの屋敷へと帰らせるケセラ。


 リンカの命令なら何でも聞く過保護な執事たち。

 本人が箱庭なお嬢様であるのも分かる気がしたケセラだった。

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