第15話 アメーバ人の大移動
「こうしてケルマン人は新しい大陸を求めて、大移動を始めたのです」
リンカ教育実習生の世界史の授業はとても分かりやすいと生徒たちに好評だった。
いくら勉強のためとはいえ、堅苦しい授業ではやる気さえも無くしてしまう。
本来勉強とは苦痛になりながら、頭ごなしに叩き込むものではなく、楽しみながら理解して進めていくもの。
そのリンカの発言に生徒たちは大きく『アミーゴ!』と叫びながら、拍手喝采をした。
「ケルマン人もパワハラに耐えれなかったのですね」
しかし、若干一名だけ理解していない場違いな生徒がいた。
ここまでの話の筋からにして、ご存じかも知れないが、例のミクル生徒代表である。
「あのですね、ミクルさん。私のお話を聞いていましたか?」
「はい。エアコンの普及が進まず、ろくに食事も摂れず、美味しいハンバーガーさえも食べれなかったのですよね?」
ミクルの答えはあながち間違ってはいないが、そんな昔からエアコンがあったり、ファーストフード店とかあったら、ケルマン人も右往左往するような苦労はしない。
「あのミクルさん、実際、時間系列が滅茶苦茶なのですが?」
「いやだなー、そこはあなたと私の仲だからと笑って流す場所でしょう?」
ミクルが白い歯を輝かせながらリンカ実習生に微笑みかけるが、当のリンカは歯並びが綺麗で、本当に歯を大切にしてるんだなーとしか思われていない。
「ミクル生徒代表、全然笑えんのやけど?」
教室の後ろ側で様子を見ていたケセラ教諭が冷めきった目線をミクルに向ける。
そう、一瞥しただけで冷凍マグロになってしまいそうな冷たさである。
「……血は争えない」
ケセラ教諭の隣でロッカーにもたれかかってあやとりをする手を休めるジーラ実習生。
その巧みな毒舌で教室内は血の海と化した。
すみません、血の海は全くの嘘です。
「ジーラ、いつからウチがミクルの血縁関係になった?」
「紀元前」
「ギリストの生前より生きてるのかよ!?」
ケセラはギリストの研究によって生み出された人造人参だった。
高麗人参と違う点は対象物が人間なことである。
「ノンノン」
ミクル教師が指先を左右に振って、その発言を取り消す。
どうやら記録をセーブすることもしないらしい。
「幾度も成長を繰り重ね、進化を遂げたのです」
ミクルが何もかも分かったような表情で、とんでもないことを言い出した。
ここまで来るとおかしな教団のリーダーの呟きに思えて仕方がない。
「何かアメーバから人間になった気分やわ」
「まさにアメーバの惑星ですわね」
こうして人間から単細胞生物となったケルマン人たちは人類を支配して、一つの星を作った。
猿さえもアメーバの粘液で飲み込んだ、
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