あっち側の人間

19話 国際最重要会議(1)

 会議は一切進展していなかった。


 いや、させていなかったのだろう。


 受け入れたくない現実を目の前に突きつけられ、必死に目を逸らしている。


 見ればそれが現実と認めなくてはならない。それだけは避けようとしている。


 そんな行動は結局、時間稼ぎにしかならないとわかっているのに。


 誰も声を出さない。


 時間だけが過ぎていく。


 そろそろ何か話すべきかと思ったその時、皆が黙るという状況に変化が生じた。


 入り口がドンと開けられる。突然の出来事で全員の目が入口に注がれる。


 誰がそんなことをしたのか、その疑問はすぐに晴れた。


「皆さんに報告がございます」


 淡々と話しだす。ドアの勢いからは想像出来ないトーンの声だ。


「なんだ? アースよ」


 私は驚きながら声を出す。


 喋っていなかったので多少声がかすれている。


 多分ここに居る全員も声を出せば多少なりともかすれているだろう。それほど久しぶりだった。


 また、アースがここに返ってくるとは思っていなかった。


 勝手に抜け出したので戻ってくることはないと思っていたが、どんな用件で戻ってきたのか。


 他の人も皆自然と背筋が伸びていた。


「今、魔の勇者らしき人間と接触しました」


 空気が凍る。それは決して一つの意味ではなかった。


 何故、監禁していた勇者がアースと接触できているのか。


 何故、アースは無事なのか。


 そして、魔の勇者はどこに行ったのか。


 無数の疑問が浮かんでは消えていく。なぜという言葉で思考が占領される。


 いや、少し待て。焦りすぎている。冷静になれ。私は自分に言い聞かせ、落ち着かせる。


 そもそも、今出だ疑問はアースが出会ったのは魔の勇者だという仮定の下でしか成り立たない。


「アースよ」


「はい、なんでしょうか、お父様」


「お前が出会ったのが魔の勇者だという根拠はあるのか」


「根拠、ですか」


「ああ、そうだ。決して、お前の勝手なでっち上げだとは思っていない。ただ、これは緊急事態だ。勘違いでは済まされない」


「……雰囲気、ではだめでしょうか」


「ふん、戯言を」


 座っていた一人がそう呟く。


 私は少しムッとするが、続きを促す。


「さすがにそれでは信用できないのはわかるだろう」


「はい、失礼しました」


「改めて、何か勇者だという結論に至ったきっかけはあるのか」


「そうですね、あえて言うならば、不審な点が多すぎた、でしょうか」


「不審な点?」


「ええ、例えば、私の部屋のドアを思いっきり開けたり」


「!?」


「彼と会話した時、私に対する態度が王女ではなく女の子であったり、この会議が開かれている時間帯に歩いている人間などそうそういないはずなのに王宮の中を歩きいていたり」


「……」


「挙げ始めたらキリがありません。極めつけはこの会議の途中で抜けて帰るところだ、と言っていたことです。この会議に出席されている人物は把握しています。それにこの会議を途中で抜ける必要がある用事など他にあるわけがないです」


「……そうか」


「はい、すべて確定できる材料ではありませんが、もし仮に彼が勇者じゃないというのならば、彼はとっくに処刑されている、それぐらいな人です」


 沈黙が場を包む。誰も否定する方法が思いつかない。


「……質問しても宜しくて?」


 一人の女性が沈黙を破り、控えめに手を上げた。

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