高嶺の花でクールだと思っていた幼馴染、実は隠れヤンデレモンスターだった

@mikazukidango32

第1話

「さっきの娘、誰なの……?」


いつものように無表情のまま俺にそう問いかける女性。黒髪ロングでキリッとした目元にスラっと伸びた手足、爪先は艶があり隅々まで手入れされている様子が伺える。そして発せられる声は冷たくどこか感情を帯びていないような印象を受ける。そんな彼女は俺の幼馴染だ。


「誰って?隣の席の住谷すみたにさんだよ。今、ちょっといい感じでさ、俺もついに彼女ができるかも!って気が早すぎか俺……」

「………」

「礼奈……?どうしたんださっきから」


教室を出てすぐそばにある廊下で幼馴染と話をする俺。しかし、何故か礼奈は先ほどから口数が少なく表情もあまり変化しないため何を考えているか分からないでいた。


昔からそうではあるのだが、今回ばかりはいつにも増して分かりづらいな……


彼女は先ほどから黙ったまま何か考え事をしている様子だ。そしてしばらくすると


「少しぼーっとしててごめんなさい……―――おめでとう、良かったじゃない応援してるわ」

「サンキュー礼奈」


彼女はそう言ってその場を立ち去った。彼女は俺とは2つほど離れたクラスに在籍していたため、俺のクラス事情を知らないのも無理はない。住谷さんは俺と隣の席で最近仲良くなった女子だ。青春とは無縁の生活を送っていた俺も何だかんだで女子と仲良くなることができ毎日が楽しいと感じ始めていた。


それにしても礼奈はそれだけの言葉を言うのに物凄い考えてたけど言葉を選んでくれてたってことなのかもな。


彼女は昔から思慮深い一面があったため俺はその彼女の答えるまでの長すぎる間を気にも留めないでいた。


「今のって闇夜礼奈やみよれいなさんだろ?何でお前なんかがあんな高嶺の花と普通に話してるんだよ」


教室に戻ると一人の男子生徒が俺のそばに足早に近づいてくる。


妻原つまばら、俺と礼奈は幼馴染だって前にも言っただろ?」

「いや、お前なんかがあの礼奈さんと話すのなんておこがましすぎるだろ」


ひでえなこいつ……まあ確かに俺と礼奈とでは月とスッポンで住む世界が違うというのは認めざるを得ない事実だ。


礼奈は容姿端麗で頭脳明晰に加えて由緒ある名家の生まれというのもあってその立ち振る舞いも淑女そのものだ。それだけでも萎縮せざるを得ないが彼女の持ち前のクールな性格もあって普通では話しかけづらいだろうということは容易に想像がつく。


その美貌や能力もあって男子生徒に非常に人気のある彼女だがそういう理由で話しかけている生徒を見たことがない。幼馴染でなければ俺もその一人だっただろう。


もちろん俺自身も彼女とどうこうなりたいとかそういうつもりは一切ない。だって格が違いすぎる。妻原の言う通り考えるのもおこがましいというものだ。


それに今の俺は住谷さんに夢中だった。おっと噂をすれば……


「浅井君、2人で何の話をしてるの?」

「住谷さん……別に何でもないよ」


俺は咄嗟に誤魔化した。幼馴染とはいえ他の女性の話をしているところを住谷さんに聞かれたくなかったからだ。


しかし……


「ん?礼奈さんの話をしてたんだよな?こいつの幼馴染の」


おい妻原、余計なことを……


「あっ闇夜さんね。凄く綺麗な人だよね」

「そうだよな?すげえ羨ましいわ浅井」

「でもそんなに仲良くないからな……俺と礼奈とでは住む世界が違うわけで……」

「んなこと言いながら呼び捨てかよ。見せつけてんな」


そんなこと言ったって幼馴染なんだから仕方ないだろ。俺はそう言おうとしたが咄嗟に口をつぐんだ。いや、余計に仲の良さをアピールしてどうする。

俺はごまかしの愛想笑いくらいしかできなかった。やべえな……仲がいいと誤解されたかな……実際、俺と礼奈はあまり仲がいいとは言い難い。そりゃ昔はよく遊んだ仲だが今ではもう、そういうこともなくなって疎遠みたいな感じだ。今日だって久しぶりに話したくらいなのだから。


あれ……?俺はふと疑問が浮かんだ。


何で今日、礼奈は俺に話しかけてきたのだろう。もうろくに話もしなくなって半年は余裕で経っていた。クラスも違う彼女とは接点がそもそもないのだから当然の成り行きではあるが……


でも何で今日になって突然、彼女は俺のクラスのそばにある廊下までやってきたんだ……?俺は彼女との会話を思い出していた。


『さっきの娘、誰なの……?』

確か彼女は近づくなり俺にそう言ったはずだ。俺が住谷さんと話したから礼奈が嫉妬して話しかけてきた?いや、それはないだろう。自意識過剰すぎか、俺。でもだったら何で?


いや、たまたま……だよな。

俺は自分にそう言い聞かせるようにしてもう考えるのをやめにした。











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