お見合いで一目惚れ!? 1話
そして翌日。私を心配した両親から声を掛けられ、朝食を摂ったあとに中庭でティータイム。お腹いっぱいだけど、せっかく用意してくれたのだから……とお茶を一口飲む。
「……美味しい」
「でしょう? ブレンドしてみたのよぉ」
「お母さまが?」
「ええ。……それで、エリカ。昨日、なにがあったのかを教えてくれるかしらぁ?」
知っていると思うけど……。まぁ、私の口から直接聞きたいってことだよね、きっと。語尾を伸ばすお母さまの喋り方は少し独特だが、お母さまはこの国の人間ではなかったようで、お父さまと結婚する前はこんな喋り方の国に居たらしい。
「……そうですね、まず――最初にお伝えしないといけないことがございます」
私は一度言葉を切って、お母さまとお父さまに視線を向けた。両親はこてんと小首を傾げる。夫婦は似るって言うけれど、ふたりともそっくりな動きだ。それを見て、ちょっとだけ口角が上がった。
「――私、ダニエル殿下を愛していたわけではないの。だから、それを踏まえて、聞いてね」
八年前に婚約をしてから、年に一度は浮気をしていたこと。わざわざ私に見せつけて傷つけようとしていたこと。卒業パーティーでアデーレとの『真実の愛』について語ったこと。婚約を破棄したこと――……話している間に、両親の表情が段々と険しくなっていったことに気付いたけれど、ふたりとも私の言葉を止めようとはしなかった。
「王子の妃になるという、プレッシャーから解放されて幸運だとは思うのよ? それに、殿下から婚約を破棄されたのだもの。私に求婚する人は居ないでしょうし、ゆっくり相手を見つけるつもり――……」
ふと、両親が眉を下げていることに気付いて、ふたりを交互に見る。すると、お父さまがパチン、と指を鳴らす。すると、白髪の執事。このレームクールの家令であるセバスチャンがすっと大量のなにかを持ってきた。
「……これは?」
「エリカと見合いをしたいという人たちの釣書だよ」
「――えっ? 昨日の今日で!?」
「そうよぉ。昨日のパーティーのあとからザックザクと来たのよぉ」
エリカったらモテモテねぇ、なんて言われたが、私は釣書の多さに驚き、それから首を左右に振った。どうしてこうなった……。
「それにしても、あのポンコツ殿下に惚れる人も居るのねぇ」
「……お母さま、お言葉が……」
「いいのよぉ。エリカの努力も無視して他の女に走るような男に、エリカは勿体ないわぁ。ねえ、あなたもそう思わない?」
お父さまに同意を求めるように視線を向けるお母さま。お父さまは私を見てからゆっくりと首を縦に動かした。
「セバスチャン、あいつからのは?」
「こちらでございます」
すっと、一枚の釣書を渡すセバスチャン。
お父さまは中身を確認してから、私に差し出した。少し戸惑いながらもそれを受け取り、中身を確認する。
「……あの、お父さま。一体……?」
「父さんの友人の子なんだ。辺境伯を継いでいて、未婚でな。エリカが良ければ、会ってみてくれないか?」
「……お父さまの、ご友人?」
そういえば、お父さまって結構顔は広いけれど、広く浅くの付き合いが多いような気がする。友人、ときっぱり言い切ったということは、信頼しているのだろう。
「年に一度、コンスタントに浮気をするような相手ではエリカを幸せには出来ないだろう。エリカがゆっくり相手を探したいという気持ちもわかるが……父さんの顔を立てると思って、一度だけでも良いから会ってみてくれないか?」
私の反応を窺うように、お父さまがちらりとこちらを見る。釣書に視線を落してそれから微笑みを浮かべてみせた。
「お父さまの頼みなら、断れませんね」
お父さまはぱぁっと表情を明るくさせて、「よかった、それじゃあ早速返事をしてくるよ」と椅子から立ち上がり、慌ただしく去って行った。
そんなお父さまをお母さまは口元に手を当てて見送っていた。愛しそうに、目元を細めながら。
「そうそう、これ、今日の号外なのよぉ」
と、お母さまが新聞を手渡す。釣書をテーブルに置いて、新聞に目を通すと――昨日のことが載っていた。オイゲン陛下からの言葉まで。婚約破棄されたのは昨日なのに、よくまぁ号外が作れたものね……感心しちゃう。
「王族だからって浮気が許されることではないわぁ。私はずぅっと心配していたのよ。エリカが嫁いでからもそうなるんじゃないかって。私の可愛い娘が、つらい思いをするんじゃないかって。愛妻家の陛下のもとに生まれた殿下が、なんでこうなっちゃったのか、謎よねぇ」
頬に手を当てながら空を見上げるお母さま。……確かにそれは、私も謎なんだけどね。
オイゲン陛下は愛妻家として有名で、『彼女さえいれば良い』ときっぱりと言い切ったというエピソードが有名だ。そして、第一王子であるダニエル殿下の他にも三人の子どもたちがいる。二歳ずつ年が離れているのよ。
「一応私たちも釣書を確認したんだけどねぇ、エリカはいろいろ努力して王族にも負けないくらいの知識やマナーを身に付けたでしょう? だからなのか、結構公爵家からも多いのよぉ」
――ちらり、とセバスチャンがテーブルに置いた釣書に視線を向ける。公爵家に嫁げば、否応なしにダニエル殿下と会うことになるだろうから、お断りしたい。昔の女扱いされそう。
「だからねぇ、ある意味ちょうどいいのかもしれないと思ったのよぉ。あの人のお友だちなら、安心な気がしない?」
うふふ、と笑うお母さまに、私は「そうですね」と返した。
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